詳解 量子化学の基礎

詳解 量子化学の基礎

数式の展開を詳細に記述し、直感的に理解できるよう図を豊富に掲載。初学者の観点に立ち丁寧に解説。

著者 類家 正稔
ジャンル 全て
自然科学
出版年月日 2012/09/01
ISBN 9784501627706
判型・ページ数 B5・440ページ
定価 4,620円(本体4,200円+税)
在庫 品切れ・重版未定

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数式の展開を詳細に記述し、また直感的に理解できるよう図を豊富に掲載。初学者の観点に立ち丁寧に解説。数学公式、物理定数表を収録し、本書のみで学習できるよう工夫した。

[本書の位置づけと想定する読者]
 本書は,大学で自然科学を専攻するために書かれた「量子化学の入門書」である。量子化学は化学の1分野であるとともに,量子力学の応用という側面もあるから,本書の読者には化学専攻の学生や物理学専攻の学生が多いであろう。本書は,そういった大学の2年次生,もしくは意欲的な初年次生を想定して書かれてある。
[前提とする数学の知識]
 本書は,大学ではじめて学ぶ数学の知識を前提としていない。本書の読者に期待している数学の知識は,四則演算,2次方程式の解法,三角関数,指数や対数の計算,簡単な微分と積分,2行2列程度の行列のかけ算や行列式の展開,順列と組み合わせ,複素数の基礎などである。簡単な微分と積分とは,sin axの微分がa cos axになるとか,x4乗の積分がx5乗/5になるとか,その程度である。三角関数にしても,sin x,cos x,tan xの定義を知っていてsin x とcos xをグラフに掛けるとか,sin2乗x+cos2乗x=1を知っている程度でよい。加法公式や倍角公式など暗記している必要などない。これ以上程度の高いものは,必要になったときに解説するか,もしくは付録にまとめて,そちらを参照するように指示した。
[数式は詳しく書いた]
 本書では,数式の導出,変形,展開は可能なかぎり詳しく書いた。1行では収まらない長い数式の後に「これを部分積分すれば次式を得る」と書いて,さらりと美しい結果を書くと,何となく格好がいい。しかし,本書ではそういったことはせず,愚直に計算過程を示した。式の展開の余白には「(8.18)式を導入した」とか「rについて整理した」など,その行を得るために何をしたのかを明示した箇所も多い。数式をフォローするためにはある程度の努力が必要であるが,本書ではその努力をできるだけ少なくするよう,最大限の工夫をした。ただし,まったく同じ計算が繰り返されるような場合は,そのむねと計算の方式を明示して,計算過程は省略した。しかし,そういう箇所はあまり多くない。したがって,本書は数式の行間に悩まされることなく読み進めることができるだろう。これはすべて「化学の理解のために時間をとれるように」との配慮である。化学を勉強したいのに,数式でこけて断念するのは,あまりにももったいないことだ。
[証明を省略した箇所を明記した]
 ただし,数式の展開,導出にこだわりすぎると,教科書が大部になりすぎるなど弊害も大きい。数学は「積み重ねの学問」だから,そのすべてを書くのは不可能であるし,相対論や量子情報論の援用が必要なものなど,明らかに本書のレベルを越えた証明となるものもある。よって,本書では,第10章以降で数式の導入や証明を省略した箇所がいくつかある。ただし,そういった箇所では「証明は省略する」と明記し,付録Fにリストアップした。証明を書いていないのに,さも自明かのように説明しつづけるような不誠実なことはしていない(はずである)。初学者は「書かれているのに理解できない」と「書かれていないから理解できない(これは読者の責任ではない)」を峻別することができず,「何となくわからない」から「何がわからないかも,わからない」になり,挫折しがちである。本書では,そのようなことがないように,書いていないことは「書いていない」と明言した。「書かれているのに理解できない」のは,本書をくりかえし読むことで解決できるであろうと考えている。しかし,「書かれていないから理解できない」場合は,他書を参考にしていただくほかない。本書の内容に飽き足らない読者は,自信を持って,さらにレベルの高い教科書へ進むとよいだろう。
[参考にした書籍]
 本書を書くには多くのテキストを参考した。おもなものは,文献[1]―[14]である。とくに文献[1]と文献[2]は,著者が学生時代に読んだ教科書のなかでは群を抜いて印象に残ったものであり,著者の量子化学の理解の多くはこれによる。このため,本書の構成はこの2冊,とりわけ文献[1]に強く影響を受けている。
[間違いがあれば連絡をください
 おそらく,本書には正確でない記述や誤解に基づく記述が残っているであろう。また,表や図の作成もすべて著者が行ったから,数値が誤っていたり,図が不適当であるかもしれない。さらに,見ていただければわかるように,本書はLATEX2eを用いて組版しており,誤植があればそれも著者自身の責任である。もちろん,校正には膨大な時間を割いたが,それでも完全ではないだろう。本書を読み,間違いを見つけた方はinfo@tdupress.jpまで連絡をいただけるとたいへんありがたい。また,出版後にみつかったミスや本書に関する情報は,http://www.tdupress.jp/で公開する予定である。[メインページ]から[ダウンロードページ]に移動していただき,ダウンロードページの下部にある「その他のダウンロード」項目内の『詳解 量子化学の基礎』をクリックしていただければ,本書のサポートページに到達する。
[謝辞]
 本書は,単なる構想段階から現在の形に至るまで,非常に多くの方々のお世話になった。著者がこれまで担当した分子分光学や量子力学の講義(これらの講義ノートが本書の原型となった)に出席して,質問・疑問を投げかけてくれた多くの学生に感謝する。そのなかでもとくに,浅野大樹さん,中里龍介さん,延澤聡美さん,松本章吾さんは,本書のある段階で,非常に丁寧に読みこんで,多くの疑問点やミスを指摘してくれた。
 また,第9章で水素原子の波動関数のプロットを図示したが,これは信州大学の飯山拓氏がウェブ上で公開しているアプリケーションを用いた。ここで,感謝の意を表したい。
 本書で解法を記した数式のいくつかは村山美佐緒さんが計算し,我慢づよく著者へ説明してくれた。さらに,第1章の「量子力学の基礎づけ」に関しては,長い時間議論していただいた。村山美佐緒さんの協力なしでは本書は完成しなかったといっても過言ではない。ここで,感謝の意を表したい。
 本書を出版するにあたり,東京電機大学出版局の吉田拓歩氏にはいろいろとアドバイスをいただいた。ここで,感謝の意を表したい。
 本書はApple社のMacintoshとLATEX2eの組み合わせで組版した。Steve Jobs氏とDonald E.Knuth氏をはじめ,MacintoshとTEXを開発してくれた方,すべてに感謝する。TEXに関しては,とくに,奥村氏の著作「LATEX2e美文書作成入門」[15]に助けていただいた。
 なお,本書は東京電機大学学術振興基金の援助を得て発刊された。

 本書の執筆にあたり,精神的に支えてくれた妻と娘,そして両親に感謝し,本書を捧げる。

 2012年8月
 類家 正稔

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第Ⅰ部 量子化学へ進む前に
 第1章 量子力学の基礎づけ
  1.1 はじめに
  1.2 波動関数と確率解釈
  1.3 物理量の書き換え
  1.4 古典物理量の演算子の性質Ⅰ
  1.5 系の波動関数が満足する波動方程式
  1.6 測定値
  1.7 古典物理量の演算子の性質Ⅱ
  1.8 Hermite演算子
  1.9 古典物理量演算子の固有関数の完備性
  1.10 固有値Fiを得る確率
  1.11 期待値
  1.12 縮退している固有関数の線形結合
  1.13 可換な演算子に対応する物理量
  1.14 量子力学と観測・測定
  1.15 まとめ

第Ⅱ部 量子化学の基礎―Schrodinger方程式を使ってみよう:原子を扱う準備運動として―
 第2章 角運動量
  2.1 角運動量の定義
  2.2 角運動量演算子
  2.3 角運動量演算子の交換関係
  2.4 多粒子系の角運動量
  2.5 角運動量の一般化
 第3章 Schrodinger方程式の1次元系への適用
  3.1 時間に依存しないSchrodinger方程式
  3.2 Schrodinger方程式をたてる
  3.3 Schrodinger方程式を解く
  3.4 波動関数の直交性を確認する
  3.5 期待値とゆらぎ
  3.6 井戸型ポテンシャルの3次元系への拡張
  3.7 βカロテン
 第4章 Schrodinger方程式の2次元回転運動への適用
  4.1 極座標の導入
  4.2 Schrodinger方程式をたてる
  4.3 Schrodinger方程式を解く
  4.4 波動関数の線形結合
  4.5 ベンゼン
 第5章 Schrodinger方程式の3次元回転運動への適用
  5.1 Schrodinger方程式をたてる
  5.2 Schrodinger方程式を解く
  5.3 Legendreの方程式
 第6章 波動関数のしみだし
  6.1 Schrodinger方程式をたてる
  6.2 Schrodinger方程式を解く
 第7章 調和振動
  7.1 調和振動子モデル
  7.2 Schrodinger方程式をたてる
  7.3 Schrodinger方程式を解く
  7.4 エネルギー準位に関する特徴
  7.5 調和振動子の振幅に関して
  7.6 微分方程式:(7.14)式を解く
 第8章 座標系の変更
  8.1 極座標
  8.2 ハミルトニアンの極座標表式
  8.3 角運動量演算子の極座標表式
  8.4 極座標における体積素片
第Ⅲ部 原子の取り扱い
 第9章 水素原子
  9.1 座標原点のとり方
  9.2 Schrodinger方程式をたてる
  9.3 Schrodinger方程式を解く
  9.4 波動関数とエネルギー固有値
  9.5 量子数の整理と電子軌道
  9.6 波動関数の距離依存性:動径分布
  9.7 波動関数の角度依存性
  9.8 波動関数の角度依存性2:極座標図
  9.9 波動関数の形:等高面
  9.10 ビリアル定理による検証
  9.11 角運動量
  9.12 昇降演算子
  9.13 微分方程式:(9.18)式を解く
 第10章 電子スピンと粒子の同等性
  10.1 SternとGerlachの実験
  10.2 電子スピンの演算子と固有関数
  10.3 スピン軌道関数
  10.4 粒子の同等性
  10.5 2電子系のスピン軌道関数とPauliの排他律
 第11章 He原子
  11.1 摂動法
  11.2 変分法
  11.3 摂動法,変分法によるHe原子の取り扱いの違い
  11.4 ハミルトニアンの分割と固有関数,固有値
  11.5 摂動法によるHe原子の取り扱い
  11.6 変分法によるHe原子の取り扱い
  11.7 Ritzの変分法
  11.8 摂動法2(縮退している場合)
  11.9 縮退した固有関数の直交化
 第12章 一般の原子
  12.1 Hartree―FockのSCF法
  12.2 Slater軌道
  12.3 電子配置と構成原理
  12.4 周期律
  12.5 周期表
  12.6 スペクトル項
第Ⅳ部 分子の取り扱い
 第13章 原子単位
  13.1 SI単位系から原子単位系への変換
 第14章 水素分子イオン
  14.1 Born―Oppenheimer近似
  14.2 分子軌道
  14.3 楕円体座標を用いた積分計算
 第15章 水素分子
  15.1 原子価結合法による取り扱い
  15.2 分子軌道法による取り扱い
 第16章 多原子分子
  16.1 N原子分子
  16.2 2原子分子:一般論
  16.3 等核原子分子
  16.4 軌道の対称性
  16.5 異核2原子分子
  16.6 結合の極性
  16.7 電気陰性度
  16.8 電子配置とHOMO,LUMO
 第17章 混成軌道
  17.1 軌道の混成
  17.2 sp3混成軌道
  17.3 sp2混成軌道
  17.4 sp混成軌道
  17.5 炭素原子の混成軌道と分子の形
  17.6 sp3混成軌道の導出に関する補足
 第18章 π電子系
  18.1 Huckel法
  18.2 鎖状ポリエン
  18.3 環状ポリエン
  18.4 分子図
  18.5 ヘテロ原子を含むπ電子系
第Ⅴ部 群論と分子
 第19章 分子の対称性
  19.1 対称操作と対称要素
  19.2 点群
  19.3 点群の決定法
  19.4 対称操作を行列で表す
 第20章 群
  20.1 集合と群
  20.2 群の例
  20.3 群の用語
  20.4 群の表現
 第21章 既約表現と指標
  21.1 表現の自然な簡約
  21.2 相似変換による強制的な簡約
  21.3 表現の簡約は1回だけではない
  21.4 指標表
  21.5 ここまでのまとめ
  21.6 大直交定理
  21.7 指標による既約表現の決定
 第22章 群論と量子化学の結びつき
  22.1 群論と固有関数
  22.2 直積
  22.3 基底関数を含む積分の消滅則
 第23章 光と分子の相互作用―表体の励起―
  23.1 時間に依存する摂動法
  23.2 光(電磁波)と分子の相互作用
  23.3 電子遷移,振動遷移,回転遷移の選択律
  23.4 選択律のまとめ
 第24章 分子スペクトルへの応用
  24.1 電子スペクトル
  24.2 振動スペクトル
  24.3 回転スペクトル
  24.4 分子分光学
 付録A 物理定数・単位・ギリシャ文字
  A.1 物理定数
  A.2 SI単位
  A.3 原子単位
  A.4 ギリシャ文字
 付録B 典型的な点群の指標表
 付録C 数学に関する簡単なまとめや公式
  C.1 三角関数
  C.2 Taylor級数
  C.3 複素数について
  C.4 いくつかの微分,積分公式
  C.5 l'Hopitalの定理
  C.6 行列と行列式
  C.7 Kroneckerのデルタ
  C.8 順列と組み合わせ
  C.9 数列の和
  C.10 代数方程式の解
 付録D 古典的な波の式
  D.1 1次元の波
  D.2 3次元の波:平面波
  D.3 平面波Ψの満足する方程式
 付録E 電磁波
  E.1 電子波の波長と呼称
  E.2 補色 何色に見える?
  E.3 光の3原色
 付録F 本書で省略した導出と証明の一覧

 参考文献

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