科学コミュニケーション叢書 科学技術は社会とどう共生するか

科学コミュニケーション叢書 科学技術は社会とどう共生するか
著者 岡本 暁子
西村 吉雄
若杉 なおみ
ジャンル 全て
社会科学
出版年月日 2009/04/01
ISBN 9784501624309
判型・ページ数 A5・208ページ
定価 2,750円(本体2,500円+税)
在庫 在庫あり

この本に関するお問い合わせ・感想

 本書の編集作業中の2008年秋,南部陽一郎氏,小林誠氏,益川敏英氏がノーベル物理学賞を,下村脩氏がノーベル化学賞を受賞することが発表されました。これに関連して,たいへんな量の報道が行われたことはご承知のとおりです。みなさんはこれらの報道をどのようにご覧になったでしょうか。
 この点で興味深いのが本書の第1章です。2000年にノーベル化学賞を受賞された白川秀樹氏が,ご自身の経験に基づいて,日本のノーベル賞関連報道への問題提起を行っています。8年も経過しているというのに,今回のノーベル賞をめぐる報道への問題提起として読んでもそれほど違和感がないことに驚かされます。

 この白川氏の文章は,MAJESTy設置記念シンポジウムで行われた講演をもとにしたものです。MAJESTyとは,早稲田大学大学院政治学研究科に2005年度から5年計画で実施されている「科学技術ジャーナリスト養成プログラム(Master of Arts Program for Journalist education in Science and Technology)」の略です。このプログラムは,科学コミュニケーター養成のための科学技術振興調整費(新興分野人材養成)を受けてつくられました。
 早稲田大学政治学研究科は,「科学コミュニケーター」養成を「科学技術ジャーナリスト」養成と読み替えました。したがって,このプログラムでは,科学者・技術者の立場から社会とコミュニケートできる人材を養成するというより,科学技術の専門家と非専門家をつなぐ人材,科学技術と社会をつなぐ人材を養成することをめざしているといえましょう。白川氏は,MAJESTy設置にあたり,「科学者と社会の仲立ちをしてくれる人材の養成」(本書1章より)への期待を述べました。今回のノーベル賞をめぐる一連の報道は,こうした人材を養成する重要性をますます浮き彫りにしています。
 MAJESTyは大学院修士課程のプログラムとして設置されています。大学院生の教育の一環として,プログラムはセミナーやシンポジウムを多数開催してきました。本書は,MAJESTyで行われてきたセミナーやシンポジウムでの多彩な講演のなかから抜粋し,「社会の中の科学技術」というコンセプトのもとにまとめなおしたものです。
 本書のために新しく原稿を書き下ろした章もあります。また,最終章の対談は,本書のために行われたものです。
 このような過程を経て成立しているので,章によって文章の調子や語尾などが異なっています。セミナーやシンポジウムの雰囲気をできるだけそのまま残したいという編者らの意向で,あえて統一しなかったことをお断りしておきます。

 本書はどこからでも読み始めることができます。章の順番で読まなければ次が理解できないということはありません。ただ,この本の編者としては,みなさんが最終的にすべての章を読まれることを願っています。
 著者には,科学技術と社会とのかかわりについて専門に研究している方もおられますが,それ以外にも,自然科学の研究者,理科教育の専門家など,さまざまな方が含まれています。
 それぞれの章は,こうした方々がそれぞれの専門を背景に「社会の中の科学技術」について論じ,科学技術と社会をつなぐ人材となる志をもった学生たちに向けて,真剣に語りかけたものです。そこで提示されている視点,提起されている問題は,このような学生にとってのみ意味をもつものではありません。ひとつひとつの章には,どのような立場であれ,現在および未来の社会において能動的な構成員として生きようとするならば真摯に受け止めなければならない,重要なメッセージが含まれているはずです。
第Ⅰ部 社会の中の科学技術
 第1章 科学技術を社会に根付かせるために 白川秀樹
  1.1 はじめに
  1.2 社会の理科離れ
  1.3 科学者と社会
  1.4 これまでの科学・技術報道
  1.5 研究成果の社会還元
 第2章 科学の考えと文明の行方 長谷川眞理子
  2.1 科学の文化としての重要性を伝える
  2.2 科学とは何か
  2.3 科学と技術のかかわり
  2.4 自然主義の誤謬
  2.5 科学技術立国日本の現状とこれから
  2.6 だれが理科離れしているか
  2.7 日本と欧米の科学雑誌の現状
 第3章 科学技術は社会の中でどう位置づけられるのか?科学技術ジャーナリズムとの関連で? 綾部広則
  3.1 はじめに
  3.2 科学技術ジャーナリズムにおける2つの側面
  3.3 科学技術と社会の見方
  3.4 さいごに
 第4章 安心・安全と科学・技術 村上陽一郎
  4.1 はじめに
  4.2 「安全」と「安心」
  4.3 「リスク」
  4.4 リスク管理
  4.5 安心管理
  4.6 おわりに
  4.7 質疑応答
 第5章 オープンイノベーション時代の知的財産管理の役割 渡部俊也
  5.1 不確実な技術の実用化における知的財産の役割とは
  5.2 変容しつつある知的財産管理
  5.3 オープンイノベーションに対応する知的財産管理
  5.4 オープンイノベーションに対応する知的財産管理の必要性
第Ⅱ部 科学技術の諸相
 第6章 科学リテラシーと人間の科学 内田亮子
  6.1 はじめに
  6.2 生物学とその他の科学
  6.3 人間の科学
  6.4 人間の科学の歴史
  6.5 人間の科学と科学リテラシー
  Column
 第7章 マイクロプロセッサ事始め 西村吉雄
  7.1 はじめに
  7.2 マイクロプロセッサとは何か
  7.3 初めに応用ありき
  7.4 4ビットのCPUをホフ氏が提案
  7.5 発注者と受注者の共同作業
  7.6 ユーザーが大市場を拓く
  7.7 インテルは研究所をもたない
  Column1
  Column2
 第8章 地球規模感染症エイズが示す現代的意味 若杉なおみ
  8.1 はじめに?医学の社会性と隔絶性
  8.2 感染症の歴史と特徴
  8.3 エイズとは?エイズに関する基礎知識
  8.4 世界のエイズ流行の現状
  8.5 エイズから見えてくる社会
  8.6 エイズ(や感染症)を報道するときにジャーナリストに求められるもの
 第9章 「水からの伝言」を斬る?蔓延するニセ科学に警鐘を鳴らす? 左巻健男
  9.1 はじめに
  9.2 最も印象深い「水」の本
  9.3 教育現場で何が起こっているのか
  9.4 バイブル商法
  9.5 江本氏は何をしているのか
  9.6 なぜ人はだまされるのか
  9.7 金もうけに利用されるニセ科学
  9.8 体験の危うさ,日本の教育
  9.9 ニセ科学を批判する困難さ
  9.10 質疑応答
 第10章 気候安定化に向けて ?CO2削減政策のもとで進む技術開発? 山地憲治
  10.1 気候安定化に向けた長期的対応
  10.2 温暖化懐疑論を超えて
  10.3 地球温暖化対策の究極目標を実現するシナリオ
  10.4 地球温暖化対策の基本構造
  10.5 京都議定書第一約束期間後の国際枠組み
 第11章 環境リスクをめぐる多様な主体間のコミュニケーション 村山武彦
  11.1 はじめに
  11.2 リスクコミュニケーションを取り巻く状況
  11.3 事例を通じた現状と課題の検討
  11.4 コミュニケーションに今後求められる要件
  11.5 おわりに
第Ⅲ部 討論
 第12章 科学技術ジャーナリストの課題 高橋真理子・渡部潤一・輪湖 博・小山慶太
  12.1 パネルディスカッション
  12.2 質疑応答
 第13章 医療へのまなざし ?小松秀樹氏(『医療崩壊』の著者)に聞く? 小松秀樹・若杉なおみ
  13.1 『医療崩壊』を書くにいたった経緯
  13.2 『医療崩壊』以後
  13.3 医療崩壊の原因?社会システム間の齟齬
  13.4 演繹と帰納
  13.5 医療から見た司法
  13.6 厚労省の行動原理を規範から認知へ
  13.7 日本医師会三分の計
  13.8 医療は期待ほど役に立っていない
  13.9 日本人の寿命は限界
  13.10 メディアの習性
  13.11 医療側にも問題あり/自己決定権は現実的ツール
  13.12 民意の幻想
  13.13 メディアの役割
  13.14 メディアの将来

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