チャンス発見の情報技術

ポストデータマイニング時代の意思決定支援

チャンス発見の情報技術
著者 大澤 幸生 監著
阿部 明典
臼井 優樹
鎌田 真由美
北本 朝展
柴内 康史
庄司 祐子
角 康之
相馬 浩隆
高山 美和
ジャンル 全て
情報・コンピュータ
出版年月日 2003/09/01
ISBN 9784501536404
判型・ページ数 A5・372ページ
定価 5,060円(本体4,600円+税)
在庫 在庫あり

この本に関するお問い合わせ・感想

人工知能を応用したチャンス発見の手法を解説

まえがき ?未来を開くシナリオ作りのために?

冬が去った.時代は人工知能の春を迎えた.データマイニング,ロボット,ゲームなどに,人工知能の成果は華々しくアピールしている.人から「どんな分野の研究をされているのですか」と聞かれて,「人工知能です」と答えるのも楽になってきた ??本書の監修者とされている私個人は人工知能という分野に体重の多くをのせて歩いてきたので,誇らしい気分になることはある.しかし本音を言うと??私には,春が去って今度は暑苦しい夏が来てしまうのが面倒でならない.
読者がこれまでどの分野を歩んできたか,私は知らない.しかし,私と同じように何かが生まれようとする春が続いて欲しいと思うなら「チャンス発見」はうってつけの新しい分野だと言える.2000年の4月頃に研究や会議をスタートさせて以来約3年,今ではいろいろな研究者や企業の方から「チャンス発見について研究してみたい」とか「私のテーマはチャンス発見に関係すると思います」,あるいは「仕事にチャンス発見手法を取り入れたい」という声が数日に一度は聞かれるようになった.まさに春の会話であろう.しかし,チャンス発見というこのささやかなコミュニティが生んできたアイデアや手法は,常夏のニーズに答える力を発揮しつつある.
「意思決定に重要な影響を与える可能性のある未然の事象あるいは状況を見つけ(第1章),シナリオをたて,行動をとるのがチャンス発見です」とこう言われて,読者は今どのような具体的な情景を思うだろうか.物を買ったり売ったりという意思決定では,目を引く新商品がチャンスになるかもしれない.また,何か新しく研究してみようという意思決定では,目の前の出来事に対して,ふと何か深遠な意義が潜むのを感じるというようなことが「チャンス」になったりする.読者も,本文を読む前に目を閉じて「自分にとって,チャンスとは何だろう」と考えてみてほしい.
本書は,チャンス発見という概念,チャンス発見に対する社会や科学からのニーズ,そしてチャンス発見を実現する方法とその応用事例について,関連する各分野から最先端の研究者たちによって執筆された.内容は第1部から第5部に渡って構成されている.
第1部ではチャンス発見と何であるかについて,それが生まれた社会的・学術的な背景を述べる.また,チャンス発見に対する需要が発生する文脈の例として,日常生活,マーケティングについて述べる.第2部では,チャンス発見とはいかなるプロセスに沿って実現を進めるべきものかについて,人間工学的な観点から説明していく.「チャンスは,心の準備された人を選んで到来する(A chance favors a prepared mind)」ということわざのとおり,人はチャンス発見に至るまでチャンスへの関心を高め,心を発見の瞬間に向けて移していかねばならないのである.第3部では,チャンス発見を支援する各種計算機技術を紹介する.そこでは,チャンス発見の支援に適したデータマイニングやヒューマンインタフェースとはいかなるもので,具体的にどのようなツールをどう使うのかを示す.第4部では,インターネットを介したコミュニティの中でチャンスが発見されていく過程やそれをサポートする手法について述べる.第5部では,予兆発見の応用としてマーケティング,社会調査,地震,医療について述べて,「むすび」で全体を締めくくる.
本書を読んで,あなたが読む前に考えたチャンスをつかむ方法が見つかったなら,著者一同は非常に幸せである.もし得られなかったら? そのときは,あなた自身が新しいチャンス発見手法を開発し,新たな未来のシナリオを作ればよい.チャンス発見は発達中の,若く逞しい研究分野である.

監修 大澤幸生 (筑波大学)
第1部チャンス発見とはポストデータマイニングの時代へ

第1章 データマイニングの限界
1.1データマイニング
1.2「客観性」の呪縛とその危うさ
1.3動的な世界では定量化の前に定性的理解
1.4非単調性の壁を越える
1.4.1推論の非単調性
1.4.2コンピュータは非単調性が苦手
1.4.3非単調性からは逃げ切れない
1.4.4われわれには見える非単調の元:未知因子の発見
1.5この章のまとめ
参考文献

第2章予測.予兆発見,そしてチャンス発見
2.1予測とは
2.2予測の手法
2.2.1時系列の予測
2.2.2ARMAモデル
2.2.3パターン理解
2.2.4過去と未来の間の情報量
2.2.5データマイニングの手法
2.3予測と予兆発見.チャンス発見の違い
2.3.1モデルや変数の発見と生成
2.3.2稀な事象への着目
2.3.3計算機と人間の協調
2.3.4予測と予兆発見.チャンス発見との関係
2.4この章のまとめ
参考文献

第3章 ビジネスにおけるチャンス発見の考え方
3.1販売データからのビジネスチャンスの発見
3.2従来の知識発見プロセス
3.2.1従来の知識発見プロセス
3.2.2事例:珍味市場参入の支援問題
3.2.3事例分析と既存研究の問題点
3.3販売データからの知識発見
3.3.1知識タイプの二次元マトリックス
3.3.2知識発見プロセスの方向
3.3.3新しい知識とビジネスアクション
3.3.4ドメイン知識の導入
3.4この章のまとめ
参考文献

第4章自然現象での予兆発見?台風予測にかけているもの?
4.1自然現象での予兆発見の重要性:台風の事例
4.2気象現象の予測と予兆発見
4.2.1気象現象の予測の歴史
4.2.2気象現象のリスクと確率的表現
4.2.3気象予測と予兆発見との比較
4.2.4気象現象での予兆発見に対する問題点
4.3台風画像コレクションからの予兆発見
4.3.1概要
4.3.2台風に関する予兆発見
4.3.3台風の急速発達に関する予兆発見
4.3.4発達台風・衰弱台風の特徴空間上での分布
4.3.5発達台風・衰弱台風の分類
4.4台風に関する予兆発見の今後
4.5この章のまとめ
参考文献

第2部人はどうやってチャンス発見するか認知プロセスを考える
第5章二重らせん?チャンス発見のプロセス?
5.1チャンス発見システムとそのプロセス
5.2決定論的システムの同定とチャンス発見
5.3チャンス発見プロセス:関心を深めるらせんのモデル
5.4チャンス発見の二重らせんモデル
5.4.1二重らせんプロセスの例
5.5効率化にむけて:服属アーキテクチャ
参考文献

第6章対話型チャンス発見のプロセス
6.1日常における創造性
6.2日常的なコミュニケーションとチャンス発見
6.3購買コミュニケーションの事例収集
6.4問題解決型購買とコンセプト精緻化型購買
6.5コミュニケーションの果たす役割
6.5.1顧客の意思決定プロセスの流れに沿った「順当な対応」
6.5.2顧客に新たな視点を与える「意外な対応」
6.6購買コミュニケーションに見る創造性
6.7この章のまとめ
付録
参考文献

第7章チャンス発見を促すコミュニケーションデザイン
7.1気付きと理解と納得のコミュニケーション
7.2コンセプト精緻化に有効な情報とは
7.3S-Conart
7.4IDIMS
7.5この章のまとめ
参考文献

第8章発送的推論とチャンス発見
8.1人間の思考:哲学もしくは人工知能の立場から
8.1.1帰納推論:アブダクション
8.2仮説推論
8.3Abductive Analogical Reasoning:AAR
8.4AARとチャンス発見
8.4.1アブダクション流チャンスの定義
8.4.2チャンス発見から見たAAR
8.5発想的推論とチャンス発見
8.5.1Type1:仮説をいくつか知らないとき
8.5.2Type2:ルールをいくつか知らないとき
8.5.3チャンス発見におけるアブダクションと類推の役割
8.6脱フロギストン空気
参考文献

第3部チャンス発見を進めるコンピュータ計算機工学としてのチャンス発見
第9章キーグラフ?チャンスと周辺事象の関係を視覚化する?
9.1まずはキーグラフの図から
9.2キーグラフの内部処理:主張にこだわるキーワード抽出
9.3キーグラフの操作例
9.3.1キーグラフのユーザがすべきこと
9.3.2キーグラフのユーザがしてはならないこと
9.4キーグラフの時系列データへの応用
9.5WWWリンク構造からの流行予兆:チャンスを発見する
参考文献

第10章Small World?チャンス発見を支援するネットワーク構造?
10.1Milgramの実験
10.2強い紐帯.弱い紐帯
10.3D.Wattsの定式化
10.4様々なSmall World
10.5Small Worldの3タイプ
10.6流行の伝わりやすいSmall World
10.7なぜSmall Worldが生成されるか
10.8グラフの分割
10.9重要なノードを取り出すには
10.10この章のまとめ
参考文献

第11章活性伝搬アルゴリズム?コンテキストの変化を捉えるテキストマイニング?
11.1文章を理解する
11.2コンテキストの変化がもたらす著者の主張
11.3コンテキストの変化を捉える活性伝搬アルゴリズム
11.4PAI:語の活性度に基づくキーワード抽出法
11.5図解PAI
11.6論文からのキーワード抽出例
11.7実験によるPAIの評価
11.8グループディスカッションデータへの応用
11.9この章のまとめ
参考文献

第12章議論の意味構造の可視化
12.1チャンス発見のための議論支援システム
12.2議論の意味構造の可視化
12.3テキストオブジェクトを空間配置することによる議論の可視化
12.3.1議論空間の可視化
12.3.2議論空間の時間的変化の可視化
12.4議論支援システムAIDE
12.5議論支援からチャンス発見へ
参考文献

第4部インターネットが生むチャンス空間を越えるチャンス発見
第13章メディア社会とチャンス発見
13.1チャンス発見の社会心理学的アプローチ
13.2マイクロ-マクロダイナミックスとシミュレーション
13.3メディア社会のシミュレーションを目指して
13.4マスメディアは社会を変化させるか
13.5遠隔の相手とのコミュニケーションが何をもたらすか
13.6メディア社会とチャンス発見
参考文献

第14章成長するオンラインコミュニティ
14.1 2ちゃんねるの不思議
14.2 2ちゃんねるにおけるコミュニケーションの特徴
14.2.1議論発散傾向と議論深化傾向
14.2.2仮名的な匿名性と無名的な匿名性
14.2.3定型的表現技法
14.3 2ちゃんねるの計量
14.4 2ちゃんねるの盛り上がるメカニズム
14.5考察
14.6この章のまとめ
参考文献

第15章電子メールからのチャンス発見
15.1コミュニケーション媒体としての電子メール
15.2メールの分類:個人のメール.コミュニティのメール
15.2.1メールの受信者を中心に考えたメールの分類
15.2.2メール間の関係を中心に考えたメールの分類
15.3メールの分析の目的:知識マネジメントの観点から
15.4メール分析の実例
15.4.1メールの分析要素
15.4.2メールのモデル化:Mail Kingdom.Mail Republic
15.4.3メール集合およびユーザ集合の視覚化
15.5実社会とメールコミュニティとの関連
15.6この章のまとめ
参考文献

第16章オンラインコミュニティの創造性を測る
16.1はじめに
16.2オンラインコミュニティにおける話題と人の流れ
16.3キーグラフによるコミュニケーション解析
16.4キーグラフの結果とコミュニティの特徴づけ
16.5この章のまとめ
参考文献

第5部チャンス発見手法の応用産学の垣根を越えて
第17章マーケティングにおけるチャンス発見
17.1売るのも買うのも人
17.2データを利用してチャンスを発見する
17.3気象変化の予兆をチャンスに
17.4二重らせんモデルを用いたスーパーの顧客行動変化の予兆発見
17.4.1チャンス発見プロセスの二重らせんモデル
17.4.2スーパーマーケット顧客の潜在ニーズの理解
17.4.3仮説の検証
17.5この章のまとめ
参考文献

第18章組織におけるチャンス発見の実践
18.1あなたの組織を納得させるために
18.2ある服飾生地メーカーが抱える組織の問題点
18.3心理的側面に有効なチャンス発見プロセス
18.3.1チャンス発見の企業活動上の意義
18.3.2グループディスカッションの活用
18.3.3自分自身での発見の体験
18.3.4本質的な情報は計算機ではなく人間が持つことの明示
18.4チャンス発見をよりスムーズに導入するために
18.5チャンス発見導入事例:服飾生地メーカーを例に
18.6この章のまとめ
参考文献

第19章社会調査における応用
19.1社会調査におけるチャンス発見とは
19.2社会調査の方法と方向性:仮説演繹法と観察帰納法
19.3人間とコンピュータの相互作用によるチャンス発見へ
19.4二重らせんモデルと社会調査におけるチャンス発見
19.5インターネット上の人間行動を把握する
19.6チャンス発見は次のチャンス発見を生む
19.7人々のチャンス発見行動の日米比較
19.8この章のまとめ
参考文献

第20章情報システムの価値ある要求発見
20.1情報システムとは
20.2情報システム構築における困難さ:要求定義
20.3依頼者にとって価値のある要求定義とは
20.4小規模システム開発の要求定義
20.5チャンス発見手法を試行するチャンス到来
20.6隠れた要求の発見
20.7この章のまとめ
参考文献

第21章地震の危険断層を発見する
21.1地震学における要注意断層推定手法
21.2キーグラフを用いた要注意断層の推定
21.2.1F3の手順
21.3地震履歴へのキーグラフ適用の意味
21.3.1地震共起のメカニズム
21.3.2文書と地震履歴のアナロジー
21.4日本列島における要注意断層の発見結果
21.4.1実効例(1):兵庫南部地震の予兆
21.4.2実行例(2):日本列島全体への適用結果と評価
21.5要注意地域の大地震にともなう移動
21.5.1要注意地域移動の検出結果
21.6この章のまとめ
参考文献

第22章医療におけるチャンス発見支援とその将来課題
22.1医学の立場から考えたチャンスとは
22.2医学の立場から考えたチャンス発見
22.3チャンス発見の困難
22.4チャンス発見は初歩的な部分から始めるべきか?
22.5医療データにおける二重らせん
22.5.1らせんサイクル①
22.5.2らせんサイクル②
22.5.3らせんサイクル③
22.6この例における二重らせんからの教訓
参考文献

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