マルチボディダイナミクスの基礎

三次元運動方程式の立て方

マルチボディダイナミクスの基礎
著者 田島 洋
ジャンル 全て
機械
出版年月日 2006/11/01
ISBN 9784501416201
判型・ページ数 A5・424ページ
定価 6,600円(本体6,000円+税)
在庫 在庫あり

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運動方程式の立て方を多様な方法で解説

 マルチボディダイナミクスは,力学の一分野として認められるまでに成長してきた。ボディとは剛体や弾性体など質量のある要素で,車両やロボットなど多くの機械は,そのような要素が複数集まり,ピンジョイントやバネなどの結合要素によって結ばれたマルチボディシステムである。マルチボディダイナミクスの研究は1960年代の後半から発達し始めたといわれているが,研究活動は今日ますます盛んで,実用化も急速に進んでいる。
 これまでの研究活動が生み出した大きな成果の一つは,汎用性の高いマルチボディダイナミクスの計算ソフトで,有限要素法の計算ソフトに次いで機械のR&Dに用いられるようになってきた。ただし,市販の汎用ソフトを買ってきて単純に使うだけで,機械のR&Dがうまくゆくわけではない。信号伝達の仕組みを知らなくても使える電話とは違って,基礎になっている力学を理解した上で目的に応じた技術の使い分けが重要である。
 一方,マルチボディダイナミクスの発展とともに進歩し,認識が高まってきた力学の技術は,マルチボディダイナミクスを意識しなくても基本的である。マルチボディダイナミクスの基礎は機械力学の基礎と重なっている。本書の目的は,機械力学の最も基本的といえる部分を分かりやすく解説することである。
 本書には,二つのキャッチフレーズがある。まず,第一は「はじめから3次元」である。高度に技術が発達した今日,ロボットや車両の3次元運動を表現し,解析できることは当然のことと考えたい。コマの興味深い現象は2次元では考えられないし,二輪車の安定性の問題も2次元では調べることができない。2次元は3次元の基礎と思いがちだが,3次元は2次元の単純な延長ではない。そして,まず2次元からと考えていては,3次元を学ぶタイミングを逃してしまう。逆に,3次元が理解できれば,2次元は簡単であり,2次元だけのために時間を掛けるのはもったいない。
 第二のキャッチフレーズは「さまざまな運動方程式の立て方」である。運動方程式には様々な立て方と様々な形がある。それらを学ぶことは,力学の理解を深めることに繋がり,幅広い応用力を習得することになる。伝統的な解析力学は抽象的で難解な印象が深いが,本書の説明は具体的であり,十分整理されている。また,マルチボディダイナミクスの発達とともに重要視されるようになってきたニューフェース的な力学原理も解説し,運動方程式に関わる高度な技術の説明もある。本書の主要な目的は運動方程式の立て方である。
 マルチボディダイナミクスの発達がもたらした技術には力学の側面と数値計算技術の側面があると考えられるが,本書は力学の側面を主対象としたものである。しかし,運動方程式が立てられるようになれば,それを用いて計算機シミュレーションを試したくなる。そこで本書では,MATLABを用いた順動力学の数値シミュレーションプログラムの事例を準備した。MATLABは,少ないプログラミング負荷で本書の技術を試すことのできる便利な環境を提供している。常微分方程式求解用の組み込み関数を利用し,運動方程式の情報などをプログラミングすれば,容易にシミュレーションを実行できる。本書で取り上げた事例は,順動力学シミュレーションの入門用から最近の高度な技術まで幅広い内容を含んでいて,幅広い読者に役立つように配慮してある。初学者も自作の課題をシミュレーションできるようになるので,本書を学ぶ楽しみは大きいはずである。
 筆者は,機械メーカーの研究部門で,マルチボディダイナミクスの汎用プログラムを開発し,社内に普及させた経験がある。また,大学で本書の内容を講義し,豊富な内容のため厳しい授業ながら,分かりやすさを追求して教育効果を挙げている。研究活動においても,実際問題に必要な新しい技術の開発を進めている。本書は,それらの活動から得られた様々な技術と経験をもとにしている。
 一方,本書は時代に即した新しい力学教育への改革を目指した試みでもある。マルチボディダイナミクスは特殊な専門分野ではなく,機械力学の現代版であるとともに,基礎的な学術である。本書の内容は,半年2単位の講義には多すぎるし,難易度も低くはないかもしれない。しかし,筆者は,内容の取捨選択と講義の進め方を工夫しながら,本書のような内容を学部の2,3年生から教えることが,他の科目の学習にもよい影響を与えると感じている。内容的に重複のある他の科目との調整を行い,全体で一年間,あるいは,それ以上の期間にわたる講義体系を考えることも意義が大きいと思われる。
 2006年9月  田島 洋

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序章 マルチボディダイナミクスとは
第Ⅰ部 数学の準備
 1章 行列の復習
 2章 列行列を変数とする関数の微分
 3章 3次元空間の幾何ベクトル
第Ⅱ部 運動力学に関わる物理量の表現方法と運動学の基本的関係
 4章 自由な質点の運動方程式とその表現方法
 5章 自由な剛体の運動方程式とその表現方法
 6章 外積オペレーター,座標変換行列
 7章 3次元剛体の回転姿勢とその表現方法
 8章 位置,角速度,回転姿勢,速度の三者の関係
 9章 3次元回転姿勢の時間微分と角速度の関係
 10章 2次元の代数ベクトル表現
 11章 運動学の事例
第Ⅲ部 動力学の基本事項
 12章 力とトルクの等価換算,三質点剛体,慣性行列の性質,質点系,剛体系
 13章 自由度,一般化座標と一般化速度,拘束,拘束力
 14章 運動量と角運動量,運動エネルギーと運動補エネルギー
第Ⅳ部 運動方程式の立て方
 15章 拘束力消去法
 16章 ダランベールの原理を利用する方法
 17章 仮想パワーの原理(Jourdainの原理)を利用する方法
 18章 ケイン型運動方程式を利用する方法
 19章 拘束条件追加法(速度変換法)
 20章 微分代数型運動方程式
 21章 木構造を対象とした漸化式による順動力学の定式化
 22章 ラグランジュの運動方程式を利用する方法
 23章 ハミルトンの原理を利用する方法
 24章 ハミルトンの正準運動方程式
 付録A 座標軸を表す幾何ベクトルとその応用
 付録B 3次元回転姿勢と角速度に関する補足
 付録C オイラーパラメータの拘束安定化法
 付録D 動力学的に加速度を求めるための漸化的方法
 付録E 作用力の事例
 付録F 運動方程式の線形化
 付録G 基本事項のまとめ
 付録CD?ROMの収録内容

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