超電導工学

現象と工学への応用

超電導工学
著者 松葉 博則
ジャンル 全て
電気
出版年月日 1997/07/01
ISBN 9784501107505
判型・ページ数 A5・266ページ
定価 4,400円(本体4,000円+税)
在庫 在庫あり

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本書は,超電導現象を工学に応用するための基礎的な事項を述べたものである。(CD-ROM付)

<まえがき>
 超電導は非常に古く,かつ,新しい現象である。現象の発見は明治の終わり頃であり,それにもかかわらず現在でも新しい現象が見つかり,そのメカニズムさえも十分知られているとは言えない。また,今後もより高温で超電導を発現する材料が開発される可能性にも富んだ現象である。20世紀は,「電気の世紀」と言われるほど,今世紀は電気の利用が現代技術の中心であり,電力,通信、情報処理などは産業の基盤となっている。
 抵抗0,量子干渉効果等の超電導現象は,電気機器にとっては理想的な特性で,現在使われている大部分の電気機器に応用でき,その特性を大幅に向上させることができる。また,他の方法では実現できない新しい機器も実現可能である。このように,物を作る工学者にとって大変魅力的な現象である。
 しかし,超電導を用いた機器は,普段の我々の生活の中では見ることはあまりない。これは,言うまでもなく常温で超電導が発現しないことに起因する。超電導を常温で発現させる材料の開発は工学者の夢であるし,また理学者にとっても,また物理的に理解されていない現象は新しい物性論の構築を拓く突破口となると考えられている。
 1986年に始まる高温超電導体の発見は超電導発現温度を一挙に10倍に上昇させた。あと2倍になれば常温にとどく領域である。また,高温超電導体は液体窒素で冷却可能であると言うことから,機器としての広い応用を現実的としている。
 このことから,現在超電導を利用した機器の開発は非常に多方面にわたって行われている。抵抗0で大きな電流を流せることを利用して作られる強力で安定なマグネットは,非常に多方面の応用が可能である。例えば,加速器用マグネットとして科学技術用途,磁気浮上列車,発電機,電力貯蔵用マグネット(SMES),磁気推進船,将来実現できる可能性のある磁気により高温のプラズマを高密度に閉じこめる核融合発電用マグネット等が検討されている。また,現在産業として実用化されているのはNMRの測定機器であり,特に医療用としてMRIと呼ばれる,人体の内部の断層画像を撮影する機器に超電導マグネットは広く使われている。さらに電力輸送ケーブルへの応用や,磁気シールドへの応用が高温超電導体の発見以来検討がなされている。
 エレクトロニクス分野でも,抵抗0の性質は高周波で低損失の伝送線路が実現でき,高いQフィルター,アンテナ,あるいは超高周波回路の実現が高温超電導体で現実の物となりつつある。
 超電導電流の有する量子干渉効果は低損失,超高速の特長を有する非常に広範囲のエレクトロニクスデバイスや超高感度磁気センサーが実現可能となる。この研究は超電導コンピュータ,超高速A/D変換器,電圧標準,生体磁気測定用磁気センサー等,広い分野に渡る。
 このように超電導は将来の電気・電子機器のキーテクノロジーとなる可能性を秘めた重要な現象であると考えられている。
 本書では,超電導現象を工学に応用するための基礎的な事項を述べるのを主目的にしている。このために,超電導体を流れる電流はそれに基づく電磁界がどのようになるかを理解することに主眼をおいた。電磁気学では,物質中あるいは物質内外での電磁場を解析するため,磁界および磁束密度,電界および電束密度という二つの量の組み合わせを用意してきた、また,オームの法則という物質中での電流は電界に依存するという法則も用意されている。これは物質中にある膨大な数の電子や原子の電荷の挙動を簡潔な方法で取り扱うためであると思う。超電導体中ではオームの法則は成立しないし,磁束密度および磁界,電界および電束密度という二つの組み合わせ概念を使う必要性は必ずしもない。このため常電導電磁気学と少し異なった考慮が必要である。本書では,超電導体内部の電磁気の法則としてロンドンの方程式を取り上げ,これを用いた電磁場の計算方法と,種々の場合につ4いての実例を取り上げた。これにより,超電導機器の設計を行う場合に超電導体がどのように振る舞うかが理解できることを期待している。
 超電導現象は巨視的な量子現象であるので,これを理解するには量子力学の知識を必要とするが,本書では大学の工学部学生が理解できることを目的とし,この知識を前提としないこととし,かつ,可能な限りほかの文献を読まなくても本書をフォローし原理的な理解をできるように努力した。また,超電導技術と関連のある低温技術を加えた。
 工学への応用では,実際の具体的な電流,磁場等物理量の大きさの把握や,実際計算が欠かせない。超電導体を扱うには,その計算は常電導体に比べて複雑であるし,非線形の方程式を解く必要がある場合も多い。幸い,近年コンピュータとそのソフトウェアの発達が著しく,このような計算を解析も含めて容易に実行できるようになった。本書中での織の解析にも使用している。また,これらを定量的評価のためにグラフを多数挿入するとともに,必要な物理定数,データ集も含めた解析および数値計算プログラムを添付することとした。これは超電導現象を理解する手助けにもなると考えるし,実際の設計の計算にもパラメーターを変えたりプログラムを手直ししたりして役立てて頂きたいと念じている。
 本書は,大学院における超電導工学の講義のメモをもとに加筆し構成したものである。この執筆,出版をお薦めくださり,出版の手はずをお世話下さった藤巻忠雄教授ならびにこの草稿を丁寧に読んでいただき,内容について多くの示唆,ご指導を頂いた河野照哉教授に深謝の意を申し上げる。出版にご支援いただいた東京電機大学の先生方および,内容構成や不備な文章の改善等,多くのお世話を頂き,またご迷惑をおかけした東京電機大学出版局編集課の岩下行徳氏,石沢岳彦氏に心から御礼申し上げたい。
1997年
松葉博則
第1章 物質の導電性
第2章 超電導の歴史
第3章 ロンドンの理論
第4章 ロンドン方程式を用いた電磁場計算
第5章 Glnzburg-Landau理論
第6章 第二種超電導体
第7章 細い超電導線の輸送電流
第8章 超電導体の抵抗
第9章 ジョセフソン効果
第10章 酸化物高温超電導体
第11章 SQUID
第12章 超電導線
第13章 超電導シールド
第14章 超電導応用
第15章 低温技術

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