「工学」のおもしろさを学ぶ 新装版

「工学」のおもしろさを学ぶ 新装版

新入生に「工学を学ぶための心構え」を自習させ、「工学リベラルアーツ」の素養を養成することを目的とする。

著者 東京電機大学
ジャンル その他
出版年月日 2016/04/01
ISBN 9784501629700
判型・ページ数 A5・200ページ
定価 本体2,300円+税
在庫 在庫あり

この本に関するお問い合わせ・感想

東京電機大学の実践を基に作成されたテキスト。新入生に「工学を学ぶための心構え」を自習させ、「工学リベラルアーツ」の素養を養成することを目的とする。第Ⅰ部では、大学で体験する教育研究の一端を提示。読み物として、工学の楽しさと取り組み方を伝える。第Ⅱ部では、入学してからの授業で必要となる、実験スキル・情報検索法・基本的態度を解説する。

まえがき ~「知恵をかたちに」するおもしろさ~ 安田 浩[東京電機大学 学長]

大学新入生の皆さんへ『「工学」のおもしろさを学ぶ 新装版』を贈ります
 入学試験合格おめでとうございます。皆さんの入学を心から歓迎し,入学をお待ちしております。工学とは何か,どのように役に立つのかを皆さんに知っていただくために,『「工学」のおもしろさを学ぶ 新装版』をお届けします。お読みになる助けになるかと,私の「知恵をかたちに」した体験をお話しましょう。

○「錦織なすベセスダ~決断のとき~」
 1987年6月19日(金)朝,コペンハーゲンの白夜の中,連日夜10時までの評価テストを一週間続けてきた体には朝早く起きるのはつらい。それでも米国との対決が迫る。朝食に行くと米国代表の顔が見える。フッと予感が走る。今なら彼は受け入れるかも。単刀直入に言う。「JPEG技術のコンテスト,2位の日本には降りてもらうから3位のアメリカも降りないか。1位のフランス案のみで行こう」。短くも長い4-5分のやりとりのあとの「Understand」。ここにJPEG/ADCTを国際標準として決定したのでした。この時のコンテストと決定に関与した仲間を写真で示します。皆の熱気が感じられませんか。
 4か月後の米国ベセスダ。秋も深まって紅葉のきれいなこの地のマリオットホテルの一室。JPEGアルゴリズム案が決まったので,草案作りの作業はあるものの,次のターゲットを何にすべきか頭を悩ませます。集っての昼食時,主だったメンバの間に密やかに話が走る。「カラー静止画符号化以外の応用はないものか」。「いま動画をCDに入れたいと言う声があるが使えないか」。「面白そうだ。検討しよう」。そしてMPEG技術の国際標準化検討が始まりました。
 ベセスダでの決議で1988年4月に始まった日本での動画情報量圧縮技術国際標準化活動は,すぐに欧州の対応馬を生み,激烈な技術競争が始まりました。協調と競争の3年を経て,ついに1991年8月サンタクララ会合でMPEG国際標準案の産声が聞かれたのでした。世界の叡智の結集であり,また協力の賜と言えますが,日本が先導したMPEGであると胸を張りたい。また同時に高校以来映画を見続け,映像の力を世の中に普及したいという私の「知恵をかたちに」する活動が始まったのです。
○あなたも「知恵をかたちに」できる~今,土台を作るとき~
 今お届けするこの『「工学」のおもしろさを学ぶ 新装版』が,あなたを助けてくれます。
 第Ⅰ部には,色々な分野での「かたちに」する楽しさが書かれていますので,自分が入りたいと思う分野をまず読んでください。きっと,そうだこれが私の天職だ,と思われることでしょう。
 第Ⅱ部には,「かたちに」するために必要な共通的基礎技術,例えば,必要となる実験に取り組む姿勢の様々,インターネットを利用した情報の検索とその利用に関する基本的な態度や,「かたち」にするために技術者の守るべき事柄や身に着けるべき倫理が書かれています。
 この本に書かれていることは,「かたちに」する楽しさを増すための内容であり,入学前にお読みいただくことはもちろん,在学中も社会に出てからも,必要に応じて読み返して頂ければ幸いです。
○科学技術と「技術は人なり」
 東京電機大学は,1907年に廣田精一,扇本眞吉両先生が,「実学尊重」を建学の精神として,日本の発展に貢献する技術者の要請を目的として設立された,電機学校から発展しました。ここで実学とは,社会が必要とし役に立つ学問であり,後に述べますように現在では,科学技術そのものが実学です。広辞苑によれば,科学とは,「体系的であり,経験的に実証可能な知識」であり,技術とは,「科学を実地に応用し,人間生活に役立てる技」とあります。
 「科学技術で社会に貢献する人材の養成」が本学の使命です。科学技術で生み出された知恵は「かたちに」しなければ,人間の活動に有用なものとはなりません。20世紀までは「ものづくり」が中心でした。しかしながら,コンピュータが発達した21世紀では,「もの」だけでなく「きのう」も併せて「かたちに」することが求められています。自動車が良い例です。20世紀の自動車は早く運ぶために運転は人に頼る「もの」でしかありませんでした。21世紀のこれからの自動車は,人に頼っている「運転というきのうをかたちに」することそのものも科学技術で実現しようとしているのです。あなた方の知恵を「かたちに」する無限の広場が目の前にあることにワクワクしませんか。
 第Ⅰ部第一章で述べられているコンピュータは,まさに「知恵で生まれたきのうをかたちに」する道具です。ここで述べられていることを読むと,どんな知恵でも「かたちに」できそうな気がしませんか。こんなことができればいいなと思ったらすぐ取り組みましょう。間違いなく新しい人類への貢献が生まれますよ。
 ただし「知恵をかたちに」することは単純ではありません。エレベータを例にとりましょう。人が酔わないようにかつ速度を上げるにはどうするか,出入りのため廊下側との段差ができないようにピタッととめるにはどうするのか,地震が起こったら素早く最寄階に止めるにはどうするのか,これらを満足してコストを下げるにはどうするのか等々,考えなければいけないことは山ほどあります。このように,多くの機能要素を持つ部品を相乗的に組み合わせて,目指す「きのう」は実現されるのです。
 「かたちに」するためにはこのように,科学技術を重層構造的に活用して初めて実現できます。科学技術を重層構造的に考えるところに,その人の人間性が色濃く影響します。「技術は人なり」という東京電機大学の教育・研究の理念は,まさにこのことを指します。「技術は人なり」は,文化勲章を受けられた初代学長丹羽保次郎先生の名言であり,技術者にとって広い分野の知識と教養が必要であることを意味します。皆様も「知恵をかたちに」するにあたって,みずからの人間性を磨いてください。
○ウェブの活用と技術者倫理
 「知恵をかたちに」するには,多くの知識と実現までの実験・シミュレーションが必要になります。
 知識について考えると,まず膨大な知識を必要とすること,また必要となる知識の変化が急速であることが現代の特徴といえます。知識を手に入れることは昔も今も大変な努力を必要とすることです。集めた知識の価値判断を迅速に行うことはもっと大変です。大学はこのことを解決してくれる場です。昔は講義を聴いているだけで,価値判断の付けられた知識を取得することができました。
 今でもそれは正しいのですが,膨大な知識の泉がウェブにより出現しました。世界中の知識を迅速に取得することが可能になったのです。ウェブを利用する術を取得しましょう。その上で収集した知識をどのように価値つけるかを学んでください。百人百様と言います。たくさんの人の意見を集約することで付加価値を増すことが可能になります。多くの人の意見をどう判断しまとめるか,このことも学んでください。ウェブも含め広範囲から得られる多くの知識から,自分に必要な価値を引き出すことこそ大学で学ぶことであり,大学を出た後,皆さんが,科学技術者として社会で活躍するためにも役立つ学びです。
 このようにこれから「知恵をかたちに」するためには,自分の技術のみならず他の多くの科学技術者の持つ技術をも相乗的に重層していく必要があります。他の技術者と協力するには情報伝達のためのコミュニケーションが必要です。科学技術の情報は,文書で書くより,数式や,グラフ,表を利用しないと伝えることができないものが多いのです。さらに言えば,目に見えない知恵を実験やシミュレーションにより可視化することにより,コミュニケーションを効率化できます。
 ロジャー・ベーコン(1214-1294)は,科学技術における実験の重要性を次のように述べています。

 「実験によって,第1に,既存の科学から導き出せる推論を検証することができる。第2に,既存の科学から演繹によっては達することのできない新しい知識をもたらす。第3に,科学のまったく新しい学問分野をつくりあげる。実験なしには,より深い認識は不可欠である」。

 ここで,実験とは,対象とするもの(システム)に,外部から変化させることのできる条件や,変数を変えたとき,それによって変化する量を測定し,システムの特徴を認識することです。例えば,物体を高さのわかる塔から放し,落下時間から,重力の加速度を求め,今度は,高さのわからない塔からの落下時間から,高さを求めることも,実験できます。また,皆さんが,新しい機械を手に入れたときに,いろいろの操作をして,どんな動きをするかを知るのも,実験の一つです。
 今まで,皆様に知識の取得や価値づけ,実験の重要性など学ぶことが必要と申し上げましたが,同時に技術者倫理を学ぶことも忘れないでください。この本の第Ⅱ部第8章,第9章にその内容が語られています。皆様には今までになかった世界だと思いますが,大事なことですのでぜひお読みください。

皆さんへの期待
 これからの日本は,地球温暖化ガスの削減,石油代替エネルギーの開発,資源の高騰等の多くの問題に取り組まなければなりません。そして,これらの多くの問題の解決は,皆さんに委ねられているのです。その解決には,新しい手段,新しい機能,新しい科学技術に依らざるを得ません。このような実際問題の解決には,さらに多くの小さい問題を解決しなければならないのです。そのためには,皆さんの持つ科学技術のすべての知識と経験を活用し,理論的に解析をし,皆さんの創造力により問題を解決できるかどうかは,実験で検証していけなければなりません。この本の内容は皆様がその取り組みを行うときに小さな助けになると思います。困ったらこの本をもう一度開いてみてください。道が開けますよ。

東京電機大学 学長 安田 浩 
第Ⅰ部 ものづくりから学んだこと
 第1章 コンピュータはいかにして作られたか[脇 英世]
  1.1 国勢調査という大量データ処理の問題
  1.2 ジャガード織のパンチ・カードのアイデア
  1.3 ホレリスのパンチ・カード
  1.4 鉄道の検札切符に似たアイデア
  1.5 大量データ処理装置としての作表機の仕組み
  1.6 国勢調査の成功とパンチ・カード・システムの普及
  1.7 新しいアイデアで改良の繰り返される作表機
  1.8 事務処理だけでなく科学技術計算にも
  1.9 射撃表と膨大な数値計算
  1.10 電子計算機の出現
  1.11 電子計算機とパンチ・カード・システムの連結
  1.12 マイクロ・プロセッサの登場
  1.13 BASIC言語登場の背景
  1.14 成長していくパソコン
  1.15 むすび
 第2章 ものづくり(工学)を学ぶためのお作法[吉田俊哉]
  2.1 今までは包丁研ぎと試し切り
  2.2 にわか芸術家になっていないか?
  2.3 ただ作ってもダメ
  2.4 実験授業は茶番劇?
  2.5 ソフトが苦手,ハードが苦手
  2.6 電気電子技術者は特殊?
  2.7 極めれば理工系であり文系であり
  2.8 数学は言語
  2.9 一人で苦労してもたかが知れている
  2.10 計画的はエキスパートが成せる技
 第3章 わくわくするものづくり[松村 隆]
  3.1 幼い頃からのものづくり
  3.2 ミニ四駆から学ぶものづくり
  3.3 遊びから生まれる新技術
  3.4 身近な出来事が研究のヒント
  3.5 常識は見てきたようなウソをつく
 第4章 ロボットにみる工学のナカミ[鈴木 聡]
  4.1 ロボット・ことはじめ
  4.2 2足歩行ロボットの不安定な?安定歩行
  4.3 ”車”というロボット
  4.4 システムインテグレーション
  4.5 むすび
  参考文献
 第5章 デザインとはイメージをかたちにすること[岩城和哉]
  5.1 「もの」と「かたち」
  5.2 全体は部分の総和以上の何ものかである
  5.3 イメージをかたちにする
  5.4 イメージとかたちはずれている
  5.5 イメージはどこから湧いてくるのか?
  5.6 部分と全体
  5.7 建築のデザイン
  5.8 空間はスープのごとし
  5.9 シミュレーション
  5.10 空間作品をつくる
  5.11 そちく
  5.12 オリジナリティ
  5.13 ストロー
  5.14 PPバンド
  5.15 百聞は一見にしかず
  5.16 愚直に積み上げる
  5.17 快適な空間
  5.18 デザイン
第Ⅱ部 楽しい工学の世界
 第6章 実験はスキルアップの宝箱[松田七美男]
  6.1 データ処理を違えてはいけません
  6.2 実験報告書は本当に辛い?
  関連図書
 第7章 情報検索の仕方[土肥紳一]
  7.1 ポータルサイトの活用
  7.2 キーワード検索
  7.3 検索の例
  7.4 ウィキペディアの活用
  7.5 東京電機大学総合メディアセンターの図書サービス
  7.6 日本版「書籍データベース」構想
 第8章 文書や図の引用・転載と信頼性[土肥紳一]
  8.1 文章の引用
  8.2 図の引用
  8.3 表の引用
  8.4 新聞記事の引用
  8.5 ウィキの引用
  8.6 その他の注意
  8.7 転載
  8.8 信頼性
 第9章 技術者倫理と社会的責任[土肥紳一]
  9.1 ものづくり
  9.2 携帯電話
  9.3 ウィニー
  9.4 電子マネー
  9.5 デジタル万引き
  9.6 捏造(ねつぞう)
  9.7 ラベルの価値
  9.8 プレゼンテーションの内容
  9.9 情報倫理デジタルビデオ小品集
  9.10 その他の例
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