工学倫理

実例で学ぶ技術者の行動規範

工学倫理

工学者・技術者としての使命感・責任感・倫理観を学ぶための教科書。各章の終わりには「まとめ」と「練習問題」を設けた。

著者 河村 尚登
ジャンル その他
出版年月日 2011/04/01
ISBN 9784501626402
判型・ページ数 A5・256ページ
定価 本体2,600円+税
在庫 在庫あり

この本に関するお問い合わせ・感想

新しい技術や製品は、私たちの生活を豊かにする反面、使い方を間違えると凶器や社会不安の原因にもなりうる。こうした高度化時代に、工学者・技術者として身につけておくべき使命感・責任感・倫理観を学ぶための教科書。自然環境やネットワーク社会への配慮、生命倫理や内部告発など、新しいテーマも積極的に取り入れた。各章の終わりには「まとめ」と「練習問題」を設け、読者がさらに理解を深められるような構成にした。

倫理観は健全な社会で育つ
 2010年1月,中米ハイチを大地震が襲いました。おびただしい数の建物の崩落と多数の死者,思うように進まない救助活動??このような状況のなか,各地で暴動や物資の奪い合い,略奪行為などが起こりました。
 一方,1996年1月,日本を襲った阪神・淡路地方の大地震はいまだ記憶に新しいところですが,この大地震で,少なくも表立った暴動や略奪行為は起きませんでした。この点について海外からも注目を浴び,一部では「日本人の国民性の高さだ」とか「日本人の道徳心によるものだ」などと報道されました。しかし実際のところはどうなのでしょうか?
 日本の災害で暴動や略奪が起こらなかったのは,ひとえに「迅速な救援活動」によるのではないでしょうか。日本で災害が起こった場合,早ければ当日中,どんなに遅くとも数日中には救援活動が開始され,被災者には食糧や水などが配給され,避難所もできます。ハイチでの暴動や略奪は,まさにこのライフラインが途切れ,なかなか進まない救援活動に対し,住民が必要な水と食べ物を求め,生き抜くための行為だったのではないかと思われます。日本の大地震でも,ライフラインが途切れた場合には,このような状況にならないとは誰も言いきれません。
 人は追いつめられた状態ではあらゆる行動に出るものです。これをあながち否定することはできません。大切なことは,このような異常事態を招かないように,社会全体のしくみをつくっておくことです。「道徳観」や「倫理観」は,このような社会のうえで形成されるものです。

日常的な不祥事
 近年,社会を取り巻くさまざまな不祥事や問題が起こっています。これらの原因は,当事者が,国民や社会に対する使命を忘れ,私利私欲に走ったり,組織の利益を優先したり,「これくらいはいいだろう」「ばれなければいいだろう」といった安易な考えによるものです。別にライフラインが途切れ,追いつめられた状態でもありません。まさに,「倫理観」や「行動規範」の欠如が常態化した結果なのです。異常事態での倫理観や道徳観とはまったく別の次元での倫理観の欠如なのです。このような行為は,健全な社会を育むことを否定する元凶となってしまいます。

技術者はどのような場合でも責任が必要
 技術者は,一般の人がもっていない専門知識や技術を有し,つねに新しい技術や製品を研究開発しています。これらの技術や製品は,われわれの生活を豊かにする反面,使い道をまちがえると凶器にもなります。常態化した「倫理観」の欠如は健全な社会をむしばみ,また,異常事態での倫理観の喪失は,取り返しのつかない大災害を引き起こす可能性もあります。技術者は,どのような場合においても,技術の利用・応用面に対して「倫理観」や「行動規範」を携え,つねに責任ある判断や行動をはたしていく必要があります。これがまさに技術者の特質ともいえます。
 しかし,科学や技術の発展によって便利になった反面,社会が複雑化し,はたしてどのような行動が倫理的といえるのか,技術者として判断に迷うようなことも多くなってきているように思えます。たとえば,普段なんら気にもせずに使っているネットワークでの情報の取得や交信が,場合によっては人を傷つけたり重大な過失を犯したりする危険性もあるのです。そのため,わかりにくい事象や複雑な事象のなかで,どういう行為が「倫理的」で,どういう行為が「倫理的でない」のか,判断基準を養う必要があります。

 本書では,工学者の使命や役割,社会とのかかわりを広範な視点から俯瞰し,「技術者としてのあるべき姿とはどのようなものなのか」「どのような倫理観をもって研究開発にあたればよいのか」ということを,さまざまな事例を参考に,技術者としての使命・責任・倫理感を身につけ,正しい技術の発展と社会貢献をすすめるための基本的な概念と知識を習得することを目的とします。
 本書が,技術者の研究開発の参考となれば幸いです。

 2011年2月
 河村尚登

◆正誤表◆


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第Ⅰ部 基礎編
 第1章 概論
  1.1 倫理(ethics)とは
  1.2 倫理は社会秩序の行動規範
  1.3 誇り高き技術者とは
  1.4 普遍的倫理観とは
  1.5 予防倫理学習のすすめ
  1.6 現代社会における技術者としての資格
  1.7 工学倫理 取り組みの歴史
  1.8 日本式工学倫理の必要性
  まとめ
 第2章 組織における個人,企業の社会的責任
  2.1 組織における個人とは
  2.2 企業活動と倫理観
  2.3 経営の論理と技術者の倫理の関係
  2.4 事例研究3:チャレンジャー号爆発事件
  2.5 事例研究4:フォード社ピント事件
  2.6 企業の社会的責任
  2.7 コンプライアンスとは
  まとめ
 第3章 内部告発と倫理
  3.1 組織ぐるみの違法行為
  3.2 内部告発とは
  3.3 事例研究5:グッドリッジ社のブレーキ開発
  3.4 内部告発をめぐる制度
  3.5 日本における公益通報者保護法
  3.6 事例研究6:食肉偽装事件(ミートホープ事件)
  3.7 企業における目安箱
  3.8 インターネットによる内部告発
  3.9 事例研究7:東芝クレーマ事件
  まとめ
 第4章 安全性とリスク
  4.1 新技術にはリスクがある
  4.2 安全設計:安全工学とは
  4.3 事例研究8:エル・アル航空機墜落事故
  4.4 安全性の評価の考え方
  4.5 リスクへどう対処するか
  4.6 リスクに対する説明責任(アカウンタビリティ)
  4.7 原子力発電の安全性とリスク
  4.8 事例研究9:原子力発電所建設問題
  4.9 事例研究10:JCO臨界事故
  4.10 社会的コンセンサスの形成
  まとめ
第Ⅱ部 法や制度と倫理
 第5章 製造物責任と品質管理
  5.1 製品にはリスクがある
  5.2 製造物責任とは
  5.3 「製造物」に対する技術者の責任
  5.4 事例研究11:三菱自動車事故
  5.5 品質管理とは
  5.6 ソフトウェアの品質管理
  5.7 事例研究12:オンラインシステムのトラブル
  5.8 ソフトウェアの品質
  5.9 品質管理の国際規格
  まとめ
 第6章 工業所有権と倫理
  6.1 工業所有権の理念
  6.2 工業所有権の沿革
  6.3 日本の特許制度の概要
  6.4 米国の特許制度の概要
  6.5 特許に関する政策・制度
  6.6 ソフトウェアの品質
  6.7 ビジネスモデル特許とは
  6.8 特許制度と倫理問題
  6.9 特許を取り巻くさまざまな訴訟
  6.10 知的財産やトレードシークレットのトラブル
  まとめ
 第7章 著作権と倫理
  7.1 創造物の保護の理念
  7.2 日本の著作権とは
  7.3 他国における制度
  7.4 著作権が制限される事項
  7.5 著作者人格権とは
  7.6 著作隣接権とは
  7.7 肖像権とは
  7.8 ソフトウェアと著作権の関係
  7.9 インターネット上の著作権・肖像権
  まとめ
 第8章 ネットワークと倫理
  8.1 情報社会における倫理観
  8.2 増大するサイバー犯罪
  8.3 情報セキュリティの必要性
  8.4 増大するコンピュータ犯罪
  8.5 不正アクセス禁止法とは
  8.6 サイバー犯罪から身を守る:情報リテラシー
  8.7 ネット上のエチケット
  まとめ
第Ⅲ部 これからの社会に必要な倫理
 第9章 グローバル活動と倫理
  9.1 企業のグローバル化の進行
  9.2 グローバル化に伴い生じる問題
  9.3 海外企業の特徴
  9.4 真のグローバル化とは
  9.5 異文化との摩擦
  9.6 事例研究21:インドネシア味の素事件
  9.7 事例研究22:海外でのマネジメント
  9.8 事例研究23:経営スタイルの違いによる摩擦
  9.9 異文化コミュニケーションの第一歩
  まとめ
 第10章 環境倫理と技術者
  10.1 持続可能な開発とは
  10.2 地球規模での取り組みの必要性
  10.3 環境保護のための技術
  10.4 化学物質による環境汚染の増大
  10.5 地球温暖化現象
  10.6 地球温暖化防止に向けた取り組み
  10.7 事例研究24:森林伐採
  10.8 新エネルギーに対する期待
  10.9 事例研究25:バイオマス発電
  10.10 環境保護に向けた活動:リサイクル活動
  10.11 地球環境保護に向けた技術者の取り組み
  まとめ
 第11章 生命倫理と技術者
  11.1 生命工学における倫理観
  11.2 生命倫理とは
  11.3 命(生命)とは何か
  11.4 臓器移植に関する倫理問題
  11.5 事例研究26:臓器移植
  11.6 再生医療への期待
  11.7 バイオテクノロジーの危険性と倫理問題
  まとめ
 第12章 科学技術と未来への「つけ」
  12.1 未来への責任
  12.2 未来への「つけ」:放射性廃棄物の処分
  12.3 放射性廃棄物の処理方法
  12.4 地層処分の安全性とリスク
  12.5 未来への「つけ」を減らす技術開発
  12.6 未来への「つけ」をなくすために
  まとめ
 第13章 複雑な問題への対応
  13.1 複雑な問題に対する判断力
  13.2 事例研究28:諫早湾干拓事業
  13.3 事例研究29:脱ダム宣言
  13.4 複雑な問題への対応
  13.5 「必要悪」への対応
  まとめ
第Ⅳ部 まとめ
 第14章 まとめ
  14.1 誇り高き技術者として
  14.2 おわりに
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