科学コミュニケーション叢書 科学技術政策に市民の声をどう届けるか

コンセンサス会議,シナリオ・ワークショップ,ディープ・ダイアローグ

科学コミュニケーション叢書 科学技術政策に市民の声をどう届けるか

科学技術政策,テクノロジー・アセスメントへの市民参加の可能性を”参加手法”という面から検証。会議運営のノウハウを伝授。

著者 若松 征男
ジャンル 社会科学
出版年月日 2010/07/01
ISBN 9784501625405
判型・ページ数 A5・256ページ
定価 本体2,800円+税
在庫 在庫あり

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科学コミュニケーション叢書の4冊目。裁判員制度にみるようにすでに司法で始まった「市民参加」が,政治や行政の世界でも行われようとしている。本書では,科学技術政策,テクノロジー・アセスメントへの市民参加の可能性を”参加手法”という面から検証。市民参加イベントとして日本で初めてコンセンサス会議を主催した著者が,会議運営の経験やノウハウを伝授。新たな手法として,シナリオ・ワークショップ,ディープ・ダイアローグの実践例とその可能性を紹介。かつて行政が実際に市民参加イベントを用いた例を詳細に報告。

 私たちの社会は,今「市民参加」を大きな課題としている。司法への市民参加は,陪審制度を求める運動を背景とした裁判員制度が2009年5月に始まり,すでにかなりの数の裁判員参加による裁判が行われ,運用上の課題をも明らかにしつつ,動き出している。
 2008年に始まった世界同時不況は,あらゆる関心を経済の立直しと社会のセーフティ・ネットの確保に向かわせているようである。そして,2009年夏には,歴史的な政権転換があった。この転換の中で,これまで政策決定を大きく左右してきた事務次官等会議の廃止,事業仕分けなどが行われた。ことに事業仕分けを通じて,市民参加までにはいたらないが,これまで密室で行われてきた予算査定が公開され,政治,行政,あるいは国の統治(ガバナンス)のあり方が大きく変わる可能性がみえてきた。しかし,2010年2月時点でみると,首相や民主党幹事長の政治資金にかかわる「事件」などのためというべきか,統治構造の変換に向かった議論と作業,そして意思決定は,かなりの紆余曲折をたどることになりそうである。
 ここに触れた政治状況の変化が,国の統治への市民参加にどのような影響を及ぼすかは,まだみえていない。

 この「市民参加」の中に,科学技術への市民参加もある。そもそも,科学技術への市民参加などということは可能か。この問いかけは,統治の仕組みとして,参加を組み入れることが可能か,またそうすべきか,という大きな問いに加えて,参加の方法があるかという問いを含んでいる。後者の問いが,本書の中心的課題である。
 この参加の方法にかかわって,1998年から10年間,筆者は6つの「科学技術への市民参加」イベントに関与してきた。
 コンセンサス会議手法を日本で最初に実施したのは筆者を中心としたグループである。1998年と1999年には,コンセンサス会議を研究プロジェクトとして試みた。テーマとしたのは,それぞれ,遺伝子治療とインターネットである。
 2000年には,農水省がスポンサーとなった遺伝子組換え農作物をテーマとしたコンセンサス会議の開催に手法コンサルタントとして,また運営委員長としてかかわった。
 2003年には,研究プロジェクトの中でシナリオ・ワークショップという手法を東京湾奥の三番瀬の将来計画をテーマに試行した。
 2005年には,これも研究プロジェクトの中で,コンセンサス会議をベースに新たに設計した方法(ディープ・ダイアローグ)を使って,脳死・臓器移植をテーマに,もうひとつの市民参加イベントを試みた。
 そして,2007年から08年にかけては,東北経済産業局が環境コンサルタント会社に委託した,希少金属のリサイクルをテーマとした市民参加イベントのプロジェクトに参加型手法のコンサルタントとして,また,運営委員長としてかかわった。
 これらの市民参加イベントから何を学んだか。本書は,これらの経験を整理,報告することで,「科学技術への市民参加」の可能性を検討しようとする人々,ことに市民参加イベントを開催しようと考える人々に,実践的な素材を提供しようとするものである。
 参加型イベントの経験から,ことに細々とした細部が嫌というほど重要だということを思い知らされてきた(「神は細部に宿る」)。1冊の本に経験のすべてを入れることはできていないだけでなく,6つの経験のうち,コンセンサス会議の第1回試行は扱っていない。また,個々のイベントについても,ことに細部の報告は十分できていない。それでも,この報告は,参加型イベントを構想するための種をかなり提供することになるのではないか。
 現在,参加型テクノロジー・アセスメントを制度化するための議論はまだ起こっているとはいいにくい。その一方で,すでに実験を超えてアド・ホックにではあるが,参加型イベントが行われるようになっている。
 本書が,とくに,これから実践に関わろうとする人々に実践的課題を示し,さらに,それを乗り越える手がかりとなることを心から願っている。
 そして,筆者の経験を必要とされるプロジェクトには,喜んでお手伝いをするつもりであることも付け加えておきたい。

 なお,本書では触れないが,2009年9月に,ワールド・ワイド・ビューズ(World Wide Views)という市民参加イベントが,世界の39の国・地域で同じ日,同じ方法で開催された。これはデンマークのテクノロジー・アセスメント機関であるデンマーク技術委員会が呼びかけ,2009年12月にコペンハーゲンで開催されたCOP15に向けて,市民参加で地球温暖化問題を考えたものである。日本では,大阪大学・上智大学主催,北海道大学主催で,企業などの協賛を得て小林傳司さんを実行委員長として開催されたが,地球的課題への地球的規模の市民参加の方法を示したものとして,ここで紹介しておきたい。

 この本の構成など
 プロローグでは,科学技術への市民参加とはどのようなことかを整理する。1章では,参加型手法のひとつであるコンセンサス会議などが生まれてきた背景と,本書で報告する参加型イベントで用いたコンセンサス会議とシナリオ・ワークショップという2つの手法をごく簡略に述べて,参加のための手法とはどのようなものか,そのイメージが得られるようにする。
 これを前提として,2章から4章まで,研究プロジェクトとして開催した参加型イベントの経験を整理する。そして,5章で,行政がスポンサーとなった2つの市民参加イベントの経験を述べる。この2つめのイベントは「実用化」段階にあるものである。
 そのうえで,6章で,実践を続けてきた者の立場から,科学技術への市民参加をどのように制度化できるかに資する議論を試みてみたい。なお,付録で,多様にある参加型イベントのための手法について紹介する。

 2010年2月
 若松征男
まえがき
凡例
プロローグ
1章 参加手法の展開
 1.1 参加型テクノロジー・アセスメントへの道
 1.2 さまざまな参加型手法
 1.3 コンセンサス会議
 1.4 シナリオ・ワークショップ
 1.5 参加型手法,参加型イベント,プロデューサー
2章 コンセンサス会議を運営する
 2.1 第2回コンセンサス会議試行の俯瞰
 2.2 テーマ設定と資金調達
 2.3 事務局の構成と開催準備
 2.4 市民パネルの募集
 2.5 直前の準備
 2.6 会議の開催
 2.7 公開シンポジウム
 2.8 第2回試行の会計報告
 2.9 「科学技術への市民参加を考える会」
 2.10 コンセンサス会議手法を用いた参加型イベント
3章 ディープ・ダイアローグ 市民と専門家の対話を深める
 3.1 手法の開発・設計
 3.2 イベントの開催に向けた準備
 3.3 ワークショップの詳細設計
 3.4 開催の準備
 3.5 ワークショップの前半
 3.6 ワークショップの後半
 3.7 公開シンポジウムと成果の評価
4章 シナリオ・ワークショップ手法 多様な参加者のシナリオによる手法
 4.1 なぜシナリオ・ワークショップの試行か
 4.2 三番瀬をテーマに
 4.3 条件整備と資源動員
 4.4 シナリオ作成
 4.5 シナリオ・ワークショップの枠組みの設定
 4.6 ワークショップの詳細設計
 4.7 実施準備
 4.8 シナリオ・ワークショップの実施
 4.9 情報公開・成果発表
 4.10 シナリオ・ワークショップの評価と課題
5章 行政が市民参加イベントを用いる
 5.1 なぜ行政か
 5.2 遺伝子組換え農作物を考えるコンセンサス会議
 5.3 コンセンサス会議実施のゴーサインが出るまで
 5.4 外部評価と公平な参加型イベントの運営
 5.5 「実用段階」に入った参加型イベント
6章 参加型テクノロジー・アセスメントの政策過程への接続
 6.1 参加型イベントへの批判を受けながら考えてきたこと
 6.2 参加型テクノロジー・アセスメントの制度化に向かって
付録 参加型手法
あとがき
事項索引

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