サイバージャーナリズム論

インターネットによって変容する報道

サイバージャーナリズム論
著者 前川 徹
中野 潔
ジャンル 社会科学
出版年月日 2003/10/01
ISBN 9784501620301
判型・ページ数 A5・260ページ
定価 本体3,000円+税
在庫 在庫あり

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Web上のジャーナリズムについて論考した

はじめに
 1960年代に米国防総省で生まれ大学で育ったインターネットは,80年代末から商用利用が始まり,90年代後半に至ってビジネスに大きな影響を与え始めた。21世紀を迎えた現在,インターネットに影響を受けていないビジネスはないと思えるほどに,インターネットはあらゆる産業分野に浸透し始めている。
 メディア産業も例外ではない。すでに既存の新聞社,出版社,テレビ局などの多くがウェブサイトを立ち上げているし,中には電子メールによるニュースの配信やストリーミング技術を用いてインターネット上でラジオ番組やテレビ番組と同様のコンテンツを流し始めているところもある。
 インターネットを利用してニュースを伝えようとしているのは,既存の企業ばかりではない。インターネット上だけで情報を配信する新しいメディア企業も生まれているし,個人や団体がウェブや電子メールでニュースなどを提供するサービスを行っているケースも珍しくない。また,報道に焦点を当てた電子掲示板も数多く存在している。これらは従来のメディアによる報道のネットワーク版といえるものであるが,従来のメディアにないいくつかの特性をもっている。
 例えば,ウェブを用いれば他のサイトの情報に簡単にリンクできるし,コンテンツのコピーも容易に作成できる。そもそも,デジタル化された情報は容易にコピーでき,そのコピーは原本とまったく同じである。というより「デジタル情報の場合にはコピーと原本の区別がない」といった方が正しい。さらに,デジタル情報のコピーに要する費用は,従来のアナログ媒体に比べて格段に低コストである。このために不正コピーの問題は,従来のアナログ媒体に比べて深刻なものになりがちである。国境のないインターネットの場合,デジタル化された情報の著作権問題はより一層複雑なものになっている。
 また,ネットワークのインタラクティブ性を生かして,読者(利用者)からの意見を報道の中に組み込むことができる。すでにインターネットを利用して世論調査を実施するという試みも始まっており,インターネットは世論形成,ひいては政策形成の場になろうとしているようにもみえる。メディアは民主主義を機能させる一つの重要な歯車であるが,インターネットはさらにその役割を増大することになるのだろうか。
 インターネット上の情報提供サイトは,ほとんどが無料である。既存マスメディアの中にも民間放送のように,そのコストのほとんどすべてを広告によって賄っているものもあるが,インターネット上の情報提供サービスのビジネスモデルはどうなっていくのだろう。将来,ネット上の報道はビジネスとして成立するのだろうか。
 広告に関連する課題として,ニュース記事,広報,広告の混在化,一体化という現象をどう考えるかという問題もある。既存メディアでは,ある一定のルールが守られているが,ネット上には広告を規制する法制度も民間企業による自主ルールも存在しない。
 さらに,インターネットには,個人であっても容易に世界中を相手に情報発信が可能であるという従来のメディアにない特徴がある。自分のウェブサイトを立ち上げるには多少の技術とコストが必要だが,メール・マガジンであれば,一般的なインターネット利用者なら誰でもできるといって過言ではない。また,メーリング・リストや電子掲示板は,私的な通信(コミュニケーション)と報道との境界を曖昧にしている。個人が世界中に何でも伝えられるということは賞賛すべきことであるのだろうが,個人による報道は,従来のマスメディアでも問題になっている報道による他人のプライバシー侵害,人権侵害や虚偽の報道の可能性が増大するという問題を内包している。
 このように個人がウェブで情報発信することまでを含めて「ジャーナリズム」と呼ぶのは,やや定義の拡張がすぎるという意見もあるだろうが,どこまでが個人による「報道」なのかを区分することは困難である。情報を発信している本人にそのような意図がなくても,インターネット上のウェブは不特定多数が閲覧できるものであることを考えると,既存マスメディア企業による情報発信と基本的には同じ行為であるとみなさざるを得ないのではないだろうか。
 米国では「サイバージャーナリズム」を,コンピュータとネットワークを利用してニュース記事の執筆,編集,掲載を行う行為など狭義的に用いることもあるようだが,ここでは「インターネットを利用して,企業あるいは団体,個人が時事的な事実(と思われること),あるいはその事実に対する意見や解説などの情報を発信することである」ととらえて,前述の視点から,そのビジネスモデル,既存マスメディアとの相違点,広告との関係,法制度に関連する問題,ジャーナリズムへの影響などを考えてみたい。
 本書は,2000年度に財団法人ニューメディア開発協会から受託した調査「サイバージャーナリズムに関する研究」の成果と早稲田大学大学院国際情報通信研究科における「サイバージャーナリズム論」(2000?2003年度に開講)における講義をもとにしている。「サイバージャーナリズム論」の講座はオムニバス形式を取り,数多くの研究者・有識者に非常勤講師,あるいはゲストスピーカーとして講義・講演をいただいた。執筆にあたっては,第6章を中野潔が,それ以外の章を前川徹が第一稿を担当し,両者の協議により決定稿とした。
 なお,この講義は,2001年度から財団法人電気通信普及財団の特別講義開設援助を受けている。これらの関係者全員に感謝の意を表したい。また,書籍化の話を勧めていただいた東京電機大学出版局の植村八潮氏,編集を担当していただいた松崎真理さんに感謝したい。
 本書は多くの文献や「サイバージャーナリズム論」における多くの研究者・有識者の講義をベースにした部分があるが,事実関係の誤りや専門用語の誤用,学術的な誤解などがあれば,それらはすべて筆者の責任である。電子メールなどで筆者にお知らせいただければ幸甚である。


 サイバージャーナリズム論で講義・講演いただいた方々
                    (五十音順,肩書きは原稿執筆時点)
 植村八潮氏(東京電機大学出版局 編集課課長)
 音 好宏氏(上智大学 文学部新聞学科 助教授)
 神田敏晶氏(ビデオジャーナリスト,KandaNews Network,Inc.代表取締役)
 小口日出彦氏(日経BP社 編集委員)
 小橋昭彦氏(「今日の雑学+(プラス)」編集長)
 菅谷明子氏(経済産業研究所(RIETI)研究員)
 竹田 茂氏(日経BP社 先端技術情報センター企画部長)
 中西 享氏((社)共同通信社 長崎支局長)
 中村伊知哉氏(スタンフォード大学 日本センター研究部門所長,MIT客員教授)
 蜷川真夫氏(株式会社ジェイ・キャスト 代表取締役)
 萩原雅之氏(ネットレイティングス株式会社 社長)
 橋本典明氏(メディア評論家)
 服部 桂氏(朝日新聞記者)
 服部孝章氏(立教大学 社会学部社会学科 教授)
 平子義紀氏(朝日新聞科学医療部記者)
 福冨忠和氏(ジャーナリスト)
 二井康雄氏(「暮しの手帖」編集統括兼本誌副編集長)
 山田健太氏((社)日本新聞協会 経営業務部主管)
 
前川徹
中野潔
1.ジャーナリズムとは何か
 1.1 ジャーナリズムの定義
 1.2 マスメディアと現実
 1.3 言論・出版の自由
 1.4 放送の特殊性
 1.5 客観報道
 1.6 メディアの商業性
 1.7 ジャーナリストと倫理

2.メディアとしてのインターネット
 2.1 メディアの歴史とインターネット
  2.1.1 メディアとは何か
  2.1.2 メディアの変遷
  2.1.3 インターネット時代の始まり
 2.2 インターネットのメディアとしての特性
  2.2.1 インターネットをどう見るか
  2.2.2 インターネットの特性
  2.2.3 インターネットのメディアとしての弱点
 2.3 インターネットと既存メディア

3.インターネットにおけるビジネス・モデル
 3.1 マスメディアのビジネス・モデル
  3.1.1 ジャーナリズムのコスト負担
  3.1.2 広  告
 3.2 ネット上のビジネス・モデル
  3.2.1 サイバージャーナリズムのコスト負担
  3.2.2 購読料モデルとその限界
 3.3 インターネット広告
  3.3.1 インターネット広告の市場規模
  3.3.2 インターネット広告の種類
  3.3.3 インターネット広告の特徴
  3.3.4 クリック率低下問題
  3.3.5 広告のターゲット配信
  3.3.6 インターネット広告の未来

4.誤報と情報の信頼性の問題
 4.1 インターネット上の誤報と虚偽情報
  4.1.1 偽ウイルス情報
  4.1.2 インターネット上の風説の流布
  4.1.3 同時多発テロ時の詐欺メール
  4.1.4 電子掲示板における虚偽情報
  4.1.5 マスメディア企業によるネット上の誤報
 4.2 誤報の歴史
 4.3 インターネットは真実を伝えられるか
  4.3.1 真実と事実の違い
  4.3.2 訂正報道のあり方
  4.3.3 個人による情報発信の問題点
  4.3.4 電子掲示板とニュース
  4.3.5 当事者による情報発信の問題
  4.3.6 インターネット上の情報の信頼性

5.匿名性の問題
 5.1 インターネットの匿名性
  5.1.1 インターネット関連事件と匿名性
  5.1.2 インターネットは本当に匿名か
  5.1.3 クッキーによる利用者識別
  5.1.4 Web Bugの問題
  5.1.5 匿名性を高めるための方法
  5.1.6 インターネットの匿名性
 5.2 東芝vs.クレーマ事件
  5.2.1 東芝vs.クレーマ事件とは
  5.2.2 東芝vs.クレーマ事件の記録
  5.2.3 東芝の対応
  5.2.4 既存マスメディアの報道は適正だったか
  5.2.5 メディアとしての可能性と不安
 5.3 匿名性とジャーナリズム
  5.3.1 匿名性を擁護する意見
  5.3.2 プロバイダー責任法
  5.3.3 匿名性をどう利用するのか

6.サイバージャーナリズムと著作権
 6.1 インターネットと著作権
  6.1.1 著作権の意義と構成
  6.1.2 著作財産権と著作隣接権
  6.1.3 ネット上の著作物の種類とその権利
  6.1.4 正当な引用の条件
 6.2 サイバージャーナリズムとの関連
  6.2.1 報道と著作権
  6.2.2 サイバージャーナリズムにおける各種条文の解釈
 6.3 動画コンテンツの引用問題
  6.3.1 対象が動画である場合の引用の是非
  6.3.2 社会的有用性の高い論評における無許諾複製
  6.3.3 問題の所在
 6.4 引用,論評される側としてのサイバージャーナリズム
  6.4.1 掲示板の内容紹介は著作権侵害になるか
  6.4.2 言語の著作物の権利侵害
  6.4.3 著作者の被りうる損害と匿名の著作者を探し出す労力
 6.5 リンクをめぐる問題
  6.5.1 ディープリンクの是非
  6.5.2 禁止宣言の有効性
  6.5.3 ディープリンク禁止宣言の有効性
  6.5.4 欧米におけるディープリンクをめぐる事件
  6.5.5 見出しの著作権をめぐる問題
 6.6 P2P型ファイル交換とサイバージャーナリズム
  6.6.1 P2P型ファイル交換の用途
  6.6.2 P2P型ファイル交換によるサイバージャーナリズムの可能性

7.人権侵害と営業妨害
 7.1 人権侵害事件と営業妨害事件
  7.1.1 ニフティ事件
  7.1.2 動物病院vs.2ちゃんねる事件
  7.1.3 日本生命事件ほか
 7.2 被害者救済と「言論の自由の確保」との相克
  7.2.1 被害者救済を考える
  7.2.2 「言論の自由の確保」を考える
  7.2.3 削除の判断をするのは誰か
  7.2.4 「動物病院vs.2ちゃんねる事件」の場合
  7.2.5 判決に対する疑問
 7.3 プロバイダー責任法の検証
  7.3.1 プロバイダー責任法における賠償責任の制限
  7.3.2 匿名電子掲示板とプロバイダー責任法
  7.3.3 プロバイダー責任法の限界
 7.4 言論の多様性を確保するために
  7.4.1 匿名電子掲示板は必要か
  7.4.2 現実的な解決策

8.メディア規制とインターネット
 8.1 さまざまなメディア規制の動き
  8.1.1 メディア規制の正当性
  8.1.2 新しいメディア規制の動き
  8.1.3 メディア規制3法
 8.2 個人情報保護法の問題
  8.2.1 個人情報保護法の立法化の経緯
  8.2.2 個人情報とプライバシー
  8.2.3 OECDの8原則と日本での取り組み
  8.2.4 個人情報保護法の旧法案の問題点
  8.2.5 新法案の問題点
  8.2.6 規制されるものと規制されないもの
 8.3 有害情報規制問題
  8.3.1 ネット上のわいせつ情報
  8.3.2 米国の通信品位法問題
 8.4 国境のない世界と国境のある世界
  8.4.1 インターネットとコンテンツ規制
  8.4.2 国境を越える報道

9.サイバージャーナリズムの未来
 9.1 メディア産業はどう変わるのか
  9.1.1 夕刊廃止とセット割れ
  9.1.2 メディアのカニバリズム
  9.1.3 ディスプレイの問題
  9.1.4 様式の進化を考える
  9.1.5 メディア産業のビジネス・モデル
 9.2 サイバージャーナリズムの時代
  9.2.1 1億人のビデオ・ジャーナリスト
  9.2.2 知る権利から言論・出版の自由へ
  9.2.3 新しい技術を受容するまでの時間
 9.3 インターネットとメディア・リテラシー
  9.3.1 メディア・リテラシーとは何か
  9.3.2 インターネット時代のメディア・リテラシー
  9.3.3 1億人のビデオ・ジャーナリストとプライバシー
 9.4 グローバル・ビレッジ
  9.4.1 マクルーハンの「地球村」
  9.4.2 インターネットによる世論形成
  9.4.3 eデモクラシーの時代

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