低温工学概論

超伝導技術を支えるもの

低温工学概論
著者 荻原 宏康 編著
渡辺 昂
奥田 雄一
伊藤 猛宏
松原 洋一
佐藤 明男
中込 秀樹
栗山 透
ジャンル その他
出版年月日 1999/07/01
ISBN 9784501617301
判型・ページ数 A5・330ページ
定価 本体4,500円+税
在庫 在庫あり

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 「低温工学の歴史と物理的な背景」「低温工学の熱工学としての基礎」「低温工学の実際」の3部で構成し,直冷式超電導マグネットの設計を最終目的とした,大学院生向けの教科書。講義や輪講の材料となるように執筆した。独習書にも利用できるように,演習問題も多数収録。実際に冷凍システムの設計・自作を行うときのためのデータや資料も収録してあるので,研究者・技術者にも有用な一冊である。

 本書は大学院教科書として編んだ。教科書だから先端的な成果を羅列することはしていない。講義や輪講の材料になるように、また、独習しても学習成果を確認するための演習問題を随所に用意してある。さらに、実際に冷凍システムを設計し、研究室によっては自製することになるときのためにデータ、資料も、学習の中で一度は目を通せるような形で組み込んでおいた。本書をよく勉強すれば、誰もが今の先端のその先をいけるはずである。
 この本を編んだ動機は二つある。
 もう10年にもなるだろうか。わたしがまだ、企業研究所に席をおいていたとき、ある大学の大学院生(A君)の訪問を受けた。来意は超電導マグネットを自製したい、というものだった。高磁界中でのダイヤモンド薄膜の蒸着を研究したいというのである。さいわい適当な超電導コイルが手許にあったので、磁界発生にはそれを使うことにして、問題はクライオスタットだった。いまのように高温超電導体リードなどまだ生まれていなかった。クライオスタットは真ん中に実験装置を収納する常温空間をもつ二重円筒状になる。いまだってそんなに簡単に作れるクライオスタットではない。それをA君は数度の来所のすえに見事に作りあげ、見事に高磁界中蒸着でダイヤモンド薄膜を作りあげて卒業していったのである。うす肉のステンレス管を購入し、自分でティグ溶接をし、液体窒素循環配管をした中間熱シールド層を組み込み、多層断熱マットを使い、重い超電導コイルを釣り、電流リードも自製し……といった具合である。この期間、何度かは研究所のショップを訪ねて製作技術についてのアドバイスを受けたようであるが、それにしても「やるもんだ!」というのがわたしの感想というよりも感嘆であった。 このときのある種の感激がいまでも残っている。そしてそのときからわたしの思いの中でときどきうづくのが、初回の来訪のときA君ともっと超電導マグネットというシステム、クライオスタットの構造、断熱技術の要点、まあ、まとめていうなら低温工学関連技術について共通知識にたって会話をしてみたかったということである。
 A君は二重構造の超電導マグネット実験装置を、それも難題のクライオスタットを見事に作りあげた。大学院生の誰もが超電導マグネット実験装置(もちろんクライオスタットはいまならクライオクーラ付きということになるかもしれない)を自製する必要はないかもしれない。しかし、それを使って実験するなら、また、就職先で高磁界を使うようなときには、基本的な設計仕様や場合によっては設計をしてもいいだろう。また、自分が購入手配する超電導マグネットや極低温装置についてきちんと評価できるほうが少なくとも高いものを押し付けられなくてすむ。
 この本は、遅まきながらA君たちへのオマージュのつもりである。
 二つ目の理由。1987年のこと。アメリカ大陸発見のコロンブスで有名なイタリアのジェノアで開催された国際低温工学会議で初めてヘリウムレス超電導マグネットとして報告された冷凍機直接冷凍式(略して直冷という)超電導マグネットのその後である。この直冷式超電導マグネットの設計が、本書での最終目的としている。この直冷式超電導マグネットは高温酸化物超電導体すなわち銅酸化物超電導セラミックスの誕生と高性能蓄冷材を使う最新クライオクーラー(小型極低温冷凍機)の進歩の申し子である。もちろん、浮上式リニアモーターカーを対象とする伝熱冷凍の超電導コイル開発のような応用超電導技術の進歩の成果も大きな役割を果たしている。応用超電導技術については他の書物を見ていただきたい。
 直冷式超電導マグネットは、家庭の主婦が冷蔵庫を利用するのに冷媒やコンプレッサや冷凍装置の専門家である必要がないのと同じに、研究者や技術者が12テスラもの高磁界を使うとき、あるいは直径30cmという大きな常温空間に高い磁界を発生したいときに、スイッチ一つで磁界を発生させることができるというものである。
 ところで応用超電導の技術開発はこれまでに非常に長い時間を経過している。それは超電導技術が未熟なためではないと私は思っている。理由の第一は、応用超電導の対象が現用技術としての完成度の高いものであることにある。たとえば超電導発電機の超電導化をしても効率はわずかに1?0.5%効率アップするだけである。もちろん、日本の総発電量の1?0.5%といえば莫大な量であり省エネルギー効果は大きい。しかし、電力会社の売りものは電力の質でもある。信頼性、安定性の立証はチャンスがなければできない。また、核融合発電も浮上式リニアモーターカー鉄道も母体技術が開発中である。いま、超電導技術が出来上がったように見えるものであっても核融合発電、浮上式リニア実用のときにはいまより一層進んだものになっているはずのものである。
 ということで応用超電導にとって応用の部分こそ重要である。ここまでのところ、すぐれた超電導の製品ができた、と大声をだすのはたいていの場合、超電導技術陣であった。だから、売り込み通りには超電導は実用になっていない。応用超電導にとってお客様こそ重要なのである。このよい例が医療用の磁気共鳴イメージング装置(MRI)である。
 ところが直冷式超電導マグネットについてはしっかりしたお客様がついたのである。東京大学大学院新領域創成科学研究科の北沢宏一教授は、人も知る高温超伝導ブームの火付け役のお一人だから、高温超電導体を要素部品としてできあがっている直冷式超電導マグネットに肩入れをしてくれるのは一種のマッチポンプ行動といえるのかもしれないが、直冷式超電導マグネットの顧客第一号になってくれただけではなく、その後の直冷式超電導マグネットの普及には大きな役割を果たしてくださっている。そればかりではない。その後の直冷式超電導マグネットの新しい需要をつくるのにも大きな力をふるってくれている。
 この北沢教授に協力するような形で直冷式超電導マグネットも主役の一人として活動する舞台を作ってくださったのが科学技術振興財団の青柿良一博士である。いま、青柿博士が主宰する新磁気科学研究会では直冷式超電導マグネットが拓いた物理、化学、生体、機構など幅広い報告が行われている。本書が低温工学と称しながら、最終的には小型の冷凍機とその利用技術に焦点を絞っていったのは、この直冷式超電導マグネットの普及が頭にあるからである。そして、直冷式超電導マグネットならば、きちんとした教科書さえあれば沢山のA君の出現が期待できると考えたからである。
 なお、ここで直冷式超電導マグネットの名前について断りをいれておきたい。直冷式超電導マグネットはもとより冷凍機直接冷却式超電導マグネットの省略である。東芝が初めてジェノアの国際低温工学学会やシカゴの国際応用超電導会議に報告したときの名前は、ヘリウムレス超電導マグネットであった。これ液体ヘリウムレス超電導マグネットというのが正しい表現かと思う。それで私はドライ・マグネットと略称している。しかし、たとえば(社)低温工学協会のあるグループは伝導式超伝導マグネットを使いたいと主張している。商品名となるともっとバラケてしまっている。たとえば、液体ヘリウムレスはまだよいほうで無冷媒超電導マグネットとかクライオゲンフリー超電導マグネットとかいうことになっている。理屈を言い合ったり悪口を言い合ったりでどれが本物、いや正式な呼称かはまだ決まっていない。いずれJIS(日本工業規格)とか学術用語として決るのだろうが、いまは、どの呼び方をしていても対象は一つ。間違うことはないだろう。ここではわたしの口をついて一番でやすい直冷式超電導マグネットを使わせてもらうことにした。
 同じことは超デン導の電、伝でもいえる。執筆者全員がメンバーである(社)低温工学協会では投稿論文が電をつかっていても伝を使っていても受理してくれる。メンバーが学際的な構成になっていることが理由である。ちなみに、低温工学協会の学会活動を担当する部門は低温工学・超電導学会である。本書の読者がまだ文部省の管轄である大学所属なら超伝導を使うことになるだろう。わたしはコウモリを決め込むことにしている。場合に応じて電も伝も使う。短い文章の中に両方とも使うこともある。しかし、その時の態度はよくない、と自分でも知っている。役に立たない超伝導、役に立つ超電導というニュアンスを込めているからである。本書でもどちらも使うことにしたが、それはこんなふとどきな姿勢からではない。執筆者の立場を尊重したからである。
 いずれにしても本書、「こんな低温工学の時代」を経験するわけである。
 ところで「こんな低温工学の時代」というのは、単位の国際化、統一ということが実施されている中で圧力の単位も、歴史を引きずっている慣用的な単位と国際単位系(SI)お単位であるパスカル(Pa)が混在している時代である。本書で学ぶ学生が飛び込む技術世界では、まだまだ慣用的な単位を使う技術者が大勢存在する。そこでは慣用的な単位は情報交換を即効的なものにしてくれているという実績がある。したがって、本書では、パスカル(Pa)と基本としつつも、必要に応じて、気圧(atm)、水銀柱ミリメートル(mmHg)、トル(torr)、バール(bar)などの慣用的な単位を混在して使用している。そのため表3.8(p.116)のように一つの表の中にこれらの単位が混在する表もある。それでも著者にしても編集者にしてもそれなりに神経を使った結果である。蛇足にはなるがここでは次の換算表を適宜、利用していただきたい。

    1Pa = 1 N/㎡ = 1kg/m・s^2
    1bar = 1.0 MPa = 100 kPa =1×10^5 Pa
    1atm = 0.101325 MPa = 760 ㎜Hg
    1torr = 0.133322 kPa = 1㎜Hg

 執筆者間の物性値の数値のずれについても同じように考えていただきたい。いずれ気づかれることになるが第3章と第5章とで,たとえばn-H2の標準沸点の値が,それぞれ20.4,20.3と異なっている。また,窒素の臨界温度が,それぞれ126.3と126.2となっている。ほかにも表3.1や表3.2 の数字で,最小桁のところでの数字が第5章と違っているものがある。第3章の伊藤先生の数値はこれまで教育の場で使い続けてきている数字である。一方,第 5章,佐藤博士の方の数値は米国国立標準技術研究所(NIST,旧NBS)の最新の数字となっている。これはときどき見直しがかかるので,最新版として発表されたものを使用している。この二つの数値群の違いをどのように扱うかは,私に一任されることとなった。 はっきりした形で理由を記すことはしないが,以上のことを考え合わせて両方をそのままの形で印刷することにした。教科書のくせに何事かという批判を頂くことになるだろうが,私はその考え方とは逆に,低温工学に関する教科書だから許されることと思っている。物性値の数値のゆれは,圧力単位の混在とは違って,金輪際なくならないかも知れないという考えを持っているからだ。

 もう一つ、学校(大学、大学院)を出て入る世界では数多くの原著論文や外国原書を読むことになるはずだ。30年前ならともかく、今はもう翻訳本なんてものを出してくれる出版社は減っている。ということで技術用語にはきめこまかく対応英語を入れて索引を作ってある。積極的に利用していただきたい。
1999年5月

荻原 宏康
第1部 低温工学の歴史と物理的な背景
第2部 低温工学の熱工学としての基礎
第3部 低温工学の実際

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