数学eラーニング

数式解答評価システムSTACKとMoodleによる理工系教育

数学eラーニング

eラーニングを使用した数式記述方式のテストが可能。実践例をもとに解説しているので、実際の授業で活用しやすい。

著者 中村泰之
ジャンル 情報・コンピュータ
出版年月日 2010/08/01
ISBN 9784501548209
判型・ページ数 B5変・224ページ
定価 本体2,700円+税
在庫 在庫あり

この本に関するお問い合わせ・感想

これまでeラーニングを利用したテストでは、選択方式や簡単な記述しかできなかったが、STACKを使用すると数式記述方式のテストが可能となり、因数分解などの初等問題から、微分方程式の解を求める問題、行列計算問題なども可能。リメディアル教育やドリルも含め、自然科学分野のオンライン教育の可能性を広げることが期待できる。オープンソースなのでタダ。さらに同じくオープンソースLMSのMoodle上で動くので、手軽に効率よく導入できる。実践例をもとに解説しているので、実際の授業で活用しやすい。

 STACK(System for Teaching and Assessment using a Computer algebra Kernel)は,eラーニングシステムMoodleのオンラインテスト(小テストモジュール)で,数式による解答を受け付け,数式としての正誤評価を可能にするシステムです。つまり,例えば「d/dx(x2 x 1)を計算せよ」という問題に対して,学生が送信した数式による解答の正誤評価・自動採点が可能になるのです。
 近年,効果的かつ効率的な学習を可能にすることを目指して,様々な教育機関でeラーニングシステムが導入されています。オンラインで公開されている教材を使って学習し,理解度を確認するためにオンラインテストを実施し,その成績を管理するといった利用形態は今では珍しくなくなってきました。ところが,オンラインテストで出題される問題の形式は,多肢選択問題,○/×問題,数値問題,記述問題などいくつか用意されていますが,数式の解答を扱い,数式として正誤評価・自動採点することは,それほど簡単なことではありません。先ほどの,「d/dx(x2 x 1)を計算せよ」という問題であれば,正答は2x 1なので,解答の候補として,2*x 1,2x 1,1 2*x,1 2xなど,学生が解答しそうな候補をいくつか用意しておき,それらのうちのどれかに一致していたら正答と判定するということも可能でしょう。では,「微分方程式dy/dx=yを解け」という問題の場合どうでしょうか。正答は,任意定数をCとしてy=Cex(乗数)ですが,学生の解答の正誤評価を行うにあたり,いくつかの困難が生じます。

 ・学生が,任意定数としてC以外を使用した場合はどのように対処すればよいだろうか。あらゆる文字がつかわれる可能性に対し,もれなく解答の候補を用意することはできない。
 ・「任意定数はCとせよ」などの注意書きをつけておくと,任意定数が必要であることを,ヒントとして与えてしまうことになる。
 ・y=ex(乗数)という学生の解答に対して0点としてしまうのは気の毒である。部分点を与えられないか。

 このようなことから,数式を扱うような数学をはじめとする理工系教育をeラーニングで実施することには限界があると言わざるを得ません。しかし,STACKはそれらの問題を数式処理ソフトウェアMaximaを利用することにより,見事に解決することができるのです。
 そして,STACKは数式の解答を評価し自動採点を行うだけでなく,学生の様々な解答に対して,適切なフィードバックを返すように設定することもできます。例えば,先ほどの微分方程式の問題において,y=ex(乗数)という学生の解答に対して部分点0.5点を与えると同時に,「任意定数を忘れています」といったコメントを表示させるといったことです。さらに,学生がどのような解答をしてきたのかの履歴を参照することも可能になるでしょう。本書の目的は,以上のような様々なSTACKの機能を利用して,これまでeラーニングで教育を行うことにある種の限界のあった理工系教育にも,その限界を克服してeラーニングを導入することができることを示すことです。
 本書の構成は次のとおりです。第1章ではSTACKと同様の機能を持つ,いくつかの数学オンラインテストシステムを紹介しながら,STACKとはどのようなシステムであるのかを概観しています。第2章は,STACKではどのようなことができるのかを概観しています。まず,STACKで作成されたMoodleの小テストの問題を解いていきながら,数式による解答の入力,その正誤評価,採点,フィードバック表示といった,一連の流れを確認しています。さらに,小テストの受験結果を確認しながら,学生の解答の傾向を調べることにより,どのような指導を行えばよいのか,教師の視点に立ったSTACKの利用についても紹介しています。第3章は解答を数式で入力する場合の数式の入力方法についてまとめています。STACKで作成された問題を受験する学生に,目を通してもらうとよい内容です。第4章,第5章は最も重要な作業であるとも言える,STACKでの問題作成方法について解説されています。最終章ではSTACKの様々なレポート機能を紹介してます。特定の問題について学生の解答の傾向を把握することにより授業設計に反映させたり,特定の学生の解答の履歴を把握することで個別の指導に生かしたりすることもできるでしょう。ここまでの章で,STACKの基本的な機能を利用することができるようにするため,流れを重視しており,個別の詳細な設定方法は付録に委ねています。したがって,初めてSTACKを利用する場合は,第7章までは順番に読み進めていくことをお勧めします。
 本書には,著者の浅学による誤りが数多くあるものと思われます。読者の方々にご指摘いただければ幸いです。
 さて,ここで著者とSTACKとのかかわりについて少し紹介いたします。著者がSATCKを初めて知ったのは,2005年に奈良女子大学で開催された数式処理の応用に関する国際会議ACA2005(Applications of Computer Algebra)においてでした。その国際会議の教育セッションで,イギリス人の研究者Christopher Sangwin氏がSTACKについての研究発表を行っていたのです。STACKというシステムに興味を持った著者は,発表の後さらに詳しい説明をしてもらったのですが,最後に彼から「STACKの日本語版を作成しないか」という思いがけない誘いをいただきました。「Yes」と即答してから,部分的な日本語化を行うも,Moodleとの連携が実現されたSTACKのメジャーバージョンアップもあり,しばらく日本語化の作業は停滞していました。しかし,株式会社eラーニングサービスの中原氏の協力をいただいて,今回,完全な多言語化方式による日本語化が完了し,本書を出版することになり,5年という長い期間を経てしまいましたが,Sangwin氏からいただいた誘いに応えることができたことを嬉しく思います。
 最後になりますが,本書の執筆にあたりご協力いただいた皆様に,お礼を述べたいと思います。STACKの開発者であるChristopher Sangwin氏には,本書を出版するにあたり,「開発者まえがき」の執筆を快く引き受けていただくとともに,STACKのロゴの使用許可をいただきました。株式会社eラーニングサービスの秋山實さん,中原敬広さんには,日本語版STACKの整備,日本語版STACKコミュニティ(Ja STACK.org)の運営を手伝っていただくとともに,「第6章 Moodleとの連携」,「付録E インストールガイド」の執筆にあたって協力していただきました。富山大学総合情報基盤センターの木原寛教授には,本書のドラフトの隅々にまで目を通していただき,貴重なコメントをいただきました。東京電機大学出版局の松崎真理さんには,本書の企画の段階から様々なアドバイスをいただくなど,タイへの世話になりました。皆様に,心より感謝申し上げます。
 なお,本書で取り上げたサンプルの問題はすべて,日本語版STACKコミュニティのサイト http://ja-stack.org/ の「数学eラーニング」サポートコースで公開しています。また,本書の正誤表も同コースに掲載する予定です。
 STACKを活用した理工系教育のeラーニングを実践するために,本書がなんらかのきっかけ,一助となれば幸いです。

 2010年6月
 中村泰之
第1章 STACKとは?
 1.1 自然科学のためのeラーニング
 1.2 数式を扱うeラーニングシステム
 1.3 Mathematicaを用いたシステム
 1.4 その他のCASを利用したシステム
 1.5 STACK

第2章 STACK概観
 2.1 小テストの受験
 2.2 受験結果の表示

第3章 STACKでの数式入力
 3.1 基本
 3.2 関数
 3.3 行列
 3.4 Dragmathエディタ

第4章 STACKで問題を作成する:基礎編
 4.1 準備
 4.2 固定問題
 4.3 ランダム問題
 4.4 フィードバックの追加
 4.5 解答の手引きの追加
 4.6 次のステップ

第5章 STACKで問題を作成する:応用編
 5.1 グラフを利用した問題
 5.2 複数の解答欄を持つ問題?1つのポテンシャル・レスポンス・ツリーの場合
 5.3 複数の解答欄を持つ問題?複数のポテンシャル・レスポンス・ツリーの場合
 5.4 積分の問題
 5.5 行列の問題(1)
 5.6 行列の問題(2)
 5.7 微分方程式の問題(1)?非同次1階微分方程式
 5.8 微分方程式の問題(2)?同次2階微分方程式
 5.9 微分方程式の問題(3)?連立微分方程式
 5.10 力学の問題
 5.11 問題の再利用

第6章 Moodleとの連携
 6.1 問題バンクへの登録
 6.2 小テストの作成

第7章 レポートの活用
 7.1 「問題」のレポート
 7.2 「学生」のレポート
 7.3 「評定表」のレポート

付録A STACKにおけるMaxima
 A.1 Maximaの基本
 A.2 簡略化
 A.3 STACKで定義されているMaximaのコマンド・関数・用法
 A.4 その他の例

付録B 問題の編集
 B.1 問題作成
 B.2 解答欄の設定
 B.3 ポテンシャル・レスポンス・フリー
 B.4 オプション
 B.5 解答に対するフィードバックの設定
 B.6 メタデータ
 B.7 Moodleオプション

付録C 評価関数
 C.1 概要
 C.2 等号
 C.3 表現
 C.4 精度
 C.5 計算
 C.6 その他
 C.7 新しい評価関数の開発

付録D CASテキスト
 D.1 CASテキストの基本
 D.2 変数の利用
 D.3 基本的なTEXコマンド
 D.4 よく使うHTML
 D.5 Google Chart Tools

付録E インストールガイド
 E.1 サーバ
 E.2 LISP SBCL
 E.3 Maxima
 E.4 jsMath
 E.5 TtH,TtM
 E.6 STACK
 E.7 Moodleプラグイン

参考文献

索引

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