チャンス発見のデータ分析

モデル化+可視化+コミュニケーション→シナリオ創発

チャンス発見のデータ分析
著者 大澤 幸生
ジャンル 情報・コンピュータ
出版年月日 2006/09/01
ISBN 9784501542009
判型・ページ数 A5・292ページ
定価 本体3,600円+税
在庫 在庫あり

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ビジネスに役立つシナリオを描き出す

 チャンス発見とは,2000年4月から筆者らを起点として沸き起こった意思決定技法のパラダイムである.およそ日本語で言う「チャンス」を発見するということに近い意味を持つに過ぎないコンセプトであるにもかかわらず,何の資格があってこれを新しいパラダイムと言うのかと読者は疑念を抱くかもしれない.
 だとすれば,チャンスを発見するということを実現するために,読者の身のまわりにはどのような道具立てが準備されているか考えてみて欲しい.読者が仮にビジネスマンになったばかりの新社会人であるとすると,身近なところから言えば,
 ・チャンスを獲得して成功した人の体験談,ノウハウ
 ・チャンスを獲得するための秘訣を書いた書籍.「チャンスをつかむ鍵は日頃の努力だ」という主張を貫徹し,根性論・人生論に帰着するものが多い.
 というようなところが多い.これらは,成功者の人生をドラマ化したテレビ番組や,書店で「ビジネス書」とされるコーナーの中心を占めている.一方,そのようなビジネス書が抽象的な精神論に終始するという批判に応えるかのように,書棚の随所に
 ・市場データからのデータマイニング,データ解析の参考書
 ・マーケティング理論の専門書
 ・組織におけるイノベーションの原理を論じた書物
 といった名著が見受けられることが,この10年ほどで多くなった.新社会人として未来への希望に燃える読者は,ビジネスにおける最新手法を学ぼうと考えてそれらの高度の書籍を2冊ほど購入するだろう.はたして半年後,その高度な書籍は読者の部屋の片隅で,最初の10ページくらいだけかすかな手垢に汚れて固まっている.あるいは,「理工系の本はうちに何でもあるよ」と豪語する古本屋の棚で,「これなんか新品同様ですよ」と店長の自慢の一品にのし上がっている.
 まだそれなら良かろう.問題は,そうではなく必死でデータマイニングの書物を読み,自社に統計ツールやデータマイニグツールを導入してもらった人の方である.そこまで導入を進めるのに,数千万から数億円というコストをかける例も少なくない.しかし,結局,その高額なツールが会社の情報システム部の一室で眠りについていく.ツール導入の提案者に待っているのは,「データマイニングツールにかかったコストはどうやって回収してくれるのかな?」と冷たく肩を叩く上司である.
 なぜそういうことが起きるか考えてみよう.もともとデータマイニングの書籍を購入した理由は,会社に眠る膨大なデータの中に何か,誰も気づいていないビジネスチャンスが潜んでいるのではないかと思ったからに違いない.しかし,そういった売り場に置かれた書籍に載っているデータマイニングのツールというのは実はそのニーズに応える技術ではなく,例えば,次のようなパターンを生み出す.
 「スルメはビールと一緒に売れることが多い」(当たり前ではないか?)
 「ビールは牛乳と一緒に売れることが意外に多い」(それは少し意外だ)
 「ビールを野菜と一緒に買う人は,魚も買うことが多い」(理由を教えてくれ!)
 つまり,
 ①当たり前でもともと知っていた知識
 ②意外だが興味を引かない,すなわち意味の少ない知識
 ③理由を知りたいほど興味を感じるが,背景の文脈がわからないので使えない知識
 のいずれかをコンピュータが出力する場合がほとんどであり,ビジネスに活かせないのである.
 せめて「ビールを野菜と一緒に買う人は,魚も買うことが多い」という人が心優しい主婦であることがわかれば,家族の健康を思い,亭主のストレスを癒そうとする心優しい妻の心根が見えるだろう.それをビール会社の社員が知れば,健康志向のビールの需要を訴えて自社に利益をもたらすことができるかもしれない.また,スーパーマーケットの社員ならば,そのような献身的な主婦にこそ自分自身のための買い物をしてもらおうではないかと考えるかもしれない,それは,家事と子育てに疲れる心身を休めるひとかけらのチョコレートかもしれない.もっとも,チョコレートは甘くて太るイメージが付きまとうので,カカオ含有率の高い健康チョコレートを特製し,うまくコストを抑え低価格で売り,試食してもらう.節約家の彼女らはそのチョコレートを試食し,元気を回復して店内で買い物をし,もちろん,そのチョコレートも買ってくれるだろう.特製チョコレートは他の店には無いので,次もこのスーパーで購入してくれるようになる.
 しかし,市場データというのは,顧客についてそこまでのことを教えてくれない.買い物をする女性は,万が一の保身のため,サービスカードを最初に発行するときに自分の年齢などは書かず,氏名欄に亭主の名前を書くことも少なくない.まして心優しい主婦であるかどうかなど,登録のしようもない.客が店に来て,その人が単なるルーチンワークではなく夫を思う気持ちでビールを買い,魚を買ったことを理解するためには,その前後に珍しい加賀太胡瓜を購入したことの意味まで合わせて考えねばなるまい.滅多にデータに現れない希少アイテムの位置付けを理解するためには,売れ筋アイテムと希少アイテムを含めて市場を可視化することが必須といえよう.
 さらに言えば,特製チョコレートなどという新製品は,過去の市場データ(この場合ではスーパーマーケットの店舗のPOSデータ)に出ているはずもない.データに入っていないものを,データマイニングでパターンとして取り出すことはできない.この壁を乗り越えて特製チョコレートを作ろうと思いつくのは,現状では天才的な店員しかいない.
 これで,データマイニングの参考書が超えられない壁がはっきりしてきた.つまり,顧客の心根を察し,満足と感動を与えるような意思決定をとるために要求されるのは,
 「データの中での頻度の少ないアイテムを,いかにして他のアイテムと同じ市場のマップの中で可視化するか」
 「データの中に出現しないアイテムをどうやって補い,ビジネスに役立つシナリオを描き出すか」
 に対する答えであった.本書は,この問に答える技術を,精神論や体験談ではなく,チャンス発見にとって有用となる技術と理論的な枠組みをおさえながら世に送るものである.5年あまりに及び学際的な研究が,実用者と研究者に益することを確信する.
 なお,本書の構成については,第10章に全体のむすびとして図示している.先に全体を把握したい読者には,第10章の図10.1をまずご覧いただきたい.この説明をまえがきではなくむすびに含めるのは,全体を把握するために提示する各章の題目を理解するためには,先に各章の内容をざっと眺めるほうがわかりやすいからである.もっとも,各章の位置付けを把握するためには,第10章の図を眺めておく方がわかりやすいであろう.それゆえ,著者として読者に推奨するのは,各章を読む前後に第10章の図を眺めるという方法である.
 本書の全体を通じて,実環境から収集したデータから「シナリオマップ」なるものを可視化し,これを人間が独自の経験と頭脳,そして対人コミュニケーションを使って自らの行動環境の構造を把握していくというチャンス発見技法が,いかに各種実践の場において有用であり,そのための各種技術がいかなる原理で働くものであるかを深く習得されることを願ってやまない.
 2006年8月 著者しるす
第1章 序論:チャンス発見とは
 1.1 「チャンス」という語の深さ
 1.2 シナリオの多様性とチャンス
 1.3 シナリオマップに基づくチャンスの定義
 1.4 コンピュータの限界
 1.5 チャンス発見のために必要な技術と理論
 参考文献
第2章 チャンス発見の原理
 2.1 基本的な考え方
 2.2 チャンス発見のプロセス
 2.3 チャンス発見の三つの原理
 2.4 「洞察」とチャンス発見の関連
 2.5 人と環境の相互作用プロセス?見直すべき主観の力?
 2.6 各種の外部(環境)データ
 2.7 各種の内部(主体)データ
 2.8 環境と主体の相互作用を支えるコンピュータ
 2.9 チャンス発見とスモールワールド
 2.10 チャンス発見とコミュニケーション
 2.11 チャンスと隣人に対する人の意識
 参考文献
第3章 シナリオマップとその構成
 3.1 シナリオマップとは
 3.2 2階層シナリオマップとその構成要素
 3.3 シナリオマップの類型
 参考文献
第4章 ネットワークモデルによるシナリオマップ
 4.1 KeyGraphによるシナリオマップの可視化
 4.2 共起度の計算
 4.3 肺炎進行・回復に関するシナリオマップ(前書までの展開)
 4.4 肺炎シナリオマップからのシナリオ解釈とその検証
 4.5 KeyGraphのツール化の例:Polarisのアーキテクチャと実行例
 4.6 ネットワークモデルにおけるチャンス認知
 参考文献
第5章 ネットワークモデルにおける可解性改善手法
 5.1 ある寿司屋で
 5.2 シナリオマップの可視性最適化問題:線状可の定式化とreach値
 5.3 reach値とスモールワールド度
 5.4 reach値によるアプローチの結果と問題点
 5.5 リンク数漸増および単純なデータへの絞込みによる可読性向上
 5.6 時間ごとに変化するシナリオマップの理解を高める「紙芝居KeyGraph」
 参考文献
第6章 フローモデルに基づくシナリオマップ
 6.1 時間の流れと因果の向き
 6.2 方向付き(有向)ネットワークモデルによるシナリオマップ
 6.3 協調仮説推論CCMA
 6.4 議論構造の要約と可視化
 6.5 IDMを用いたヒューマンネットワーク分析
 6.6 活性伝播法(Priming Activation Indexing:PAI)
 参考文献
第7章 ポテンシャルモデルに基づくシナリオマップ
 7.1 多階層シナリオマップとしてのポテンシャル場
 7.2 ポテンシャルモデルによるシナリオマップの描画アルゴリズム
 7.3 ポテンシャル場モデルにおけるビジネスチャンス発見
 7.4 単純化したポテンシャルモデルとその応用例
 7.5 KeyBird:ポテンシャルマップを鳥瞰する
 7.6 ポテンシャル場であらわすチームワーク:ラグビーを例に
 7.7 ラグビーにおけるフォーメーション分析のための定式化とアプローチ
 7.8 分析アプローチと分析手順
 7.9 ポテンシャルモデルの展望
 参考文献
第8章 シナリオマップのモデル統合とその応用
 8.1 KeyGraphとIDMの統合によるシナリオ理解プロセス
 8.2 ポテンシャルモデルとKeyGraphの併用による消費者分析
 8.3 反応なき反響:KeyGraphとIDMの併用によるコミュニケーション分析
 8.4 影響度と被影響度を用いたデータ要約によるシナリオマップの改善
 8.5 モデル統合アプローチの意味
 参考文献
第9章 データ結晶化:見えざるチャンスの世界へ
 9.1 データ結晶化が解決しようとする実問題
 9.2 データ結晶化ツールの基本アルゴリズム
 9.3 データ結晶化ツールの動作例
 9.4 チャンス発見プロセス上におけるデータ結晶化
 9.5 データ結晶化の展望
 参考文献
第10章 おわりに
 10.1 マーケティングシミュレーション
 10.2 システムデザイン分野
 10.3 プロジェクト型ビジネス分野
 10.4 サバイバル教育と防犯
 10.5 医療
 参考文献
索引

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