eラーニング専門家のためのインストラクショナルデザイン

eラーニング専門家のためのインストラクショナルデザイン
著者 玉木 欽也 監修
斎藤 裕
松田 岳士
橋本 諭
権藤 俊彦
堀内 淑子
高橋 徹
ジャンル 情報・コンピュータ
出版年月日 2006/05/01
ISBN 9784501541200
判型・ページ数 A5・210ページ
定価 本体2,400円+税
在庫 品切れ・重版未定

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eラーニング専門家を目指す人必携の教科書

 「インターネットやケータイを使わない授業って,どうやっていたんだっけ?」
 本書を手に取った読者の中で,上記のような疑問を持ったことのある方はいるだろうか。誰もが,小学校から膨大な数の授業に触れてきていても,残念ながら皆無といっていいだろう。
 インターネットなどのICT(Information Communications Technology)が世の中へ与えた貢献は計り知れない。現在,インターネットを使ったことのない人や,携帯電話を持っていない人はほとんどいないだろう。しかしながら,そうした状況にかかわらず,教育の世界において,ICTは,十分な効果を発揮しているとはいいがたい。実際,インターネットや携帯電話を使った教育,つまり本書のメインテーマであるeラーニングは,一部には導入されているが,いまだ一般的になったとはいいがたい状況である。また,真に効果的なものとはなっていない。
 では,なぜeラーニングは普及しないのだろうか。実はこの素朴な疑問こそが,本書の執筆陣が,日々行っている研究に対する問題意識である。
 執筆メンバーの所属している青山学院大学総合研究所eラーニング人材育成研究センター(Research Center for e?Learning Professional Competency;eLPCO,エルプコ)は,「eラーニング」を主な研究対象としている。eLPCOは1998年にAML(Aoyama Media Lab.)プロジェクトからスタートし,A2EN(Aoyama and Asia e?Learning Network)プロジェクトなどの研究成果をもとに,2005年4月に設立された。その研究の中で明らかになったeラーニングの普及しない原因は,経験や勘のみに頼った授業や教材(eラーニングコンテンツ)作成を行っていることや,eラーニングを推進する人材のスキルが足りないこと,さらには人材自身が不足しているというものである。
 システムに多く投資してしまい,肝心のコンテンツにはお金がかけられなかった。見栄えだけ凝ったコンテンツ作成に従事してしまった。運用を考えずにプロジェクトを進めてしまい実施時には多忙を極めてしまった。これらは,eラーニングに関係していると多く見聞きする例である。
 そこでeLPCOでは,大きく2種類の研究を行っている。ひとつが,ラーニングに関する教授法や教育システムの研究であり,もうひとつがeラーニングを支える専門家(eラーニング専門家)の育成である。
 本書は,このeLPCOでの研究をベースとしており,主に,分析,設計,開発,実施,評価といった一連のプロセスを司るインストラクショナルデザインと,専門的な知識を持って活動するeラーニング専門家について扱っている。なお,それらが読者にとってより活用しやすいようになることを考え,2部構成としている。第Ⅰ部では,インストラクショナルデザインの理論や手順,eラーニング専門家の定義とその活動をまとめている。第Ⅱ部では,それらの理論や手順,さらにはeラーニング専門家が関与した事例を通じて,第Ⅰ部が理解しやすいものになるようにしている。具体的には以下のとおりである。
 第Ⅰ部は,eラーニングを開発,実施,運用を効率的,かつ効果的に行うためのインストラクショナルデザインの手法と,eラーニング専門家の活動や専門家同士の協働(コラボレーション)についてまとめている。
 第1章では,本書の中心的なトピックであるeラーニングとインストラクショナルデザインについて扱っている。eラーニングが注目されるにあたり,設計手法であるインストラクショナルデザインに注目が集まっている。ここでは,eラーニングとインストラクショナルデザインのそれぞれの特徴と,その関係を取り上げている。
 第2章から第6章は,インストラクショナルデザインプロセスに沿って,それぞれの特徴を紹介している。
 第2章では,分析フェーズについてまとめている。ニーズ分析,長期教育計画,対象者分析,技術分析,学習目標分析,コスト分析の流れを示すとともに,その考え方を示している。
 第3章では,設計フェーズについてまとめている。学習目標詳細化・系列化,授業スタイル選択,動機付け設計,設計仕様書作成において,具体的な授業や教材を設計する流れを示している。
 第4章では,開発フェーズについてまとめている。具体的にどのようなものを開発するのか,また,どうやって開発するのかを取り上げている。さらに,問題になる点や,気をつけなければならない事柄を実践的な視点からまとめている。
 第5章では,実施フェーズについてまとめている。作成した授業や教材を実施する際に必要となる事柄をインストラクション,メンタリング,コース運用の3つの視点を用いて,多面的に紹介している。
 第6章では,評価フェーズについてまとめている。eラーニングにおける評価についてまとめ,主に,形成的評価,総括的評価の観点を扱っている。
 第7章では,eラーニングを支える専門家についてまとめている。eラーニング専門家とはどのような人材像で,何を行うのか,また,その考え方を示したうえで,各専門家についての詳細を扱っている。
 第Ⅱ部では,インストラクショナルデザインを用いたeラーニング専門家が関与した事例を扱っている。青山学院大学で行われた3つの授業をもとに,第8章では情報ネットワークリテラシ,第9章マネジメントIT,第10章サイバーマニュファクチャリングにおいて,どんな課題があり,それをどのようなに解決したのか,また,発生した課題などについてまとめている。また,専門家がどのような「狙い」や「想い」をこめてeラーニングコースを構築していったのかを紹介している。
 第11章では,これらの授業を作成する組織としてどのような評価を行っているのかを,国際コミュニケーションという授業を用いて紹介する。
 本書を読み進めていく際には,ぜひ初めから通読してほしいが,それぞれ興味のある章から読んでもらってもかまわない。
 インストラクショナルデザインについて学びたいという方は,第Ⅰ部から読み始めてもらいたい。eラーニング専門家とはどのような人材かを知りたい方は,7章のeラーニング専門家の章から読んでもらいたい。事例を知りたいという方は,7章の専門家の章を軽く参照したうえで,8章に進んでもらいたい。
 なお、本書はeLPCOでの研究成果を読者の方々にわかりやすく伝えることを目的としているが,執筆にあたっては,大学生を主なダーゲットとした。また,ITや教育について専門に勉強していない大学生を想定した。その理由は2点ある。
 1点は,eLPCOが主体となって行う「文部科学省 現代的教育ニーズ取組支援プログラム;現代GP」では,本書で紹介する5職種のeラーニング専門家を育成するが,その受講者である大学生にも自然に読めるものとしたいからである。現代GPでは,学部学科などの制限を設けずに,育成プログラムを受講できるようになっている。教育学を学んだ人もいれば,ITを学んだ人もいることから,当然のことながら学生の前提知識にはバラつきがあることが予想される。そこで,本書も特別な前提知識を必要とせずに読めることを目指している。
 なお,ここでは大学生を対象としているが,読み進めるための前提知識として設定しているものであり,若手のビジネスパーソンやeラーニングの導入を考えている担当者には役立たないというものではない。しかし,用いている例などは大学生を対象としているので,自らの例に置き換えて読んでほしい。
 もう1点の理由は,執筆陣一同の願いを凝縮している。その願いとは,「できる限り多くの人に我々と同じ感動を味わってほしい」というものである。本書の執筆陣は,もともと教育学に従事していたわけではない。さまざまな縁によりeLPCOの活動に参加し,その活動を通じてeラーニングや教育の素晴らしさに魅せられてしまった者が集まっている。
 eラーニングは決して華々しい活動ではない。日進月歩の技術革新とは対極に位置するような地道な活動が大半である。しかし,丹念に計画し,周到に準備し,緊張しながら実施する。そうした地道な努力を積み重ねた後に,学習者から「面白い授業でした。ありがとうございました」という一言を得たときの感動は,筆舌に尽くしがたい。
 教育学部や教職課程に所属しなかった方は,教育を行うという活動に従事することは少ないだろう。また,以前の我々がそうだったように,教育は特別なものと考え,従事することなど夢にも思わないかもしれない。しかしながら,第7章で示すとおり,eラーニング専門家は,今までとは違った形で教育に関与することになる。そのため,思いもよらなかったスキルが教育に生きていくことにもなる。ぜひ,そのスキルを生かし,教育の素晴らしさを感じてほしいと考えている。また,そのことは,将来的に教育が発展するための道だと考えている。ぜひ,たくさんの方に先入観を持たずに読んでいただきたい。
 『eラーニング専門家のためのインストラクショナルデザイン』と題したため,読者の多くはeラーニングという名前からITに興味をもっている方,教育に興味を持っている方だろう。興味を持っていただけるのであればこれ以上の喜びはないが,もし,ITに興味を持ちながら「教育のことに興味はない」と本書を閉じようとした方がいたら,どうかもう少し読み進め,ITが教育にもたらすインパクトや,教育のすばらしさを感じてもらいたい。また,教育に興味を持ちながら「ITは難しいからイヤだな」と感じた方は,どうかもう少し読み進め,ITがもたらすインパクトと,それを支援する専門家がいるということを知ってもらいたい。
 特に本書を手にしている大学生や大学院生といった若い人には,eラーニング専門家となり,研究や実践を積み重ねることで,eラーニングの世界の新しいルールを作ってほしいと願っている。eラーニングもその一部であるITの世界のルールは,Yahoo!やGoogleの創業者が大学院生というように,常に若い人が作り上げると確信している。本書の企画から執筆までを担当した研究部会(TF12)でも,多くの若手研究者が集結し研究を行っている。多くの大学生も参加し,より良いものを目指した研究が進められている。読者の方々のうち一人でも,我々と同じように,より良いeラーニングのための活動を行う人が現れるとしたら,望外の喜びである。
 最後に,本書は,単にインストラクショナルデザインやeラーニングを称賛するものではない。ITを用いて教育の質を向上させたいという願いの中からeラーニングやインストラクショナルデザインを導入していった実践に基づくものである。中には,授業を行ううえで困難にぶつかったことや失敗例などの生々しい記述もある。これらが本書を手に取っている方々の教育への活動に何らかの役割を果たせるのであれば幸いである。
 2006年3月
 eLPCO研究室にて
 執筆メンバーを代表して
 編著者 橋本 諭
第Ⅰ部 インストラクショナルデザインとeラーニング専門家
 第1章 eラーニングとインストラクショナルデザイン
  1.1 eラーニングとは
  1.2 eラーニングのメリット
  1.3 インストラクショナルデザイン
  1.4 IDプロセス
  1.5 eラーニングの進展とID
  1.6 デザインとは
  1.7 用語の定義
 第2章 分析
  2.1 ニーズ分析
  2.2 学習目標分析
  2.3 長期教育計画
  2.4 対象者分析
  2.5 技術・環境分析
  2.6 コスト分析
  2.7 企画提案書作成
 第3章 設計
  3.1 学習目標詳細化
  3.2 学習目標構造化
  3.3 学習目標系列化
  3.4 授業スタイル選択
  3.5 動機付け設計
  3.6 設計仕様書の作成
 第4章 開発
  4.1 設計書の確認
  4.2 開発物
  4.3 開発設計
  4.4 開発担当
  4.5 SRLコンテンツの場合の例
  4.6 その他の開発物
 第5章 実施
  5.1 インストラクション
  5.2 メンタリング
  5.3 コース運用
 第6章 評価
  6.1 学習者の形成的評価
  6.2 学習者の総括的評価
  6.3 授業の形成的評価
  6.4 授業の総括的評価
 第7章 eラーニングを支える専門家
  7.1 eラーニング専門家とは
  7.2 インストラクショナルデザイナ
  7.3 コンテンツスペシャリスト
  7.4 インストラクタ
  7.5 メンタ
  7.6 ラーニングシステムプロデューサ
第Ⅱ部 eラーニング専門家による高等教育eラーニングコース事例
 第8章 情報ネットワークリテラシ基礎・応用
  8.1 2002年の状況
  8.2 2006年問題
  8.3 インストラクショナルデザイナは何をしたのか
  8.4 再設計した授業の結果
 第9章 マネジメントIT
  9.1 新たな授業に集まったメンバ
  9.2 開拓者としてのインストラクショナルデザイナ
  9.3 想いを形にするために
 第10章 サイバーマニュファクチャリング実習
  10.1 教育も研究も最先端を追いかけたい
  10.2 SMEとインストラクショナルデザイナの関係 
  10.3 最先端を届けるために
  10.4 さらなる最先端を目指して
 第11章 組織的なeラーニング評価法
  11.1 我々はどうやってきたのか
  11.2 eラーニングの評価はもっとスムーズに
  11.3 eラーニング授業評価の未来
あとがき
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