ソフトコンピューティングとバイオインフォマティクス

ソフトコンピューティングとバイオインフォマティクス
著者 ゲーリー B. フォーゲル 編著
デヴィッド W. コーン 編著
伊庭 斉志 監訳
ジャンル 全て
情報・コンピュータ
出版年月日 2004/03/01
ISBN 9784501537005
判型・ページ数 A5・410ページ
定価 6,270円(本体5,700円+税)
在庫 在庫あり

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生物学者,計算機科学者の視点から解説

 1973年に,偉大な進化生物学者Theodosius Dobzhanskyは,「進化を考慮に入れなければ生物学では何も意味をなさない」と述べた.生物学者は地球上の生命の理解に進化が重要であることを以前から理解していた.実際,1930年代初期から進化は一種の学習プロセスとみなされている.今や研究室で進化を工学的なツールとして使えるようになり,その能力は自然のシステムにおける進化の重要性と同じくらい刺激的な時代に達している.分子生物学者は特定のタスクのためにRNAとタンパク質の配列を進化させる人工的進化手法を利用したり,抗生物質に対する抵抗力の仕組みを理解するために研究室でバクテリアを培養しその進化を観察する.しかしながら,工学的ツールとして進化のプロセスを理解するのは生物学者だけではない.生物学とほとんど独立に,情報工学での進化の重要性は過去50年にわたってコンピュータ科学者に認められてきた.物理学,化学,および生物学のような分野への人工的な進化の多種多様な適用はこの10年間に非常に多くなった.今や特定の応用に関しての教科書があふれているほどこの分野は多角的である.
 本書の目的は,生物学の問題に対する進化論的計算の応用を示すことであり,特にバイオインフォマティクスの問題に重点を置いている.したがって,進化を共通のテーマとして,2つの分野,生物学とコンピュータの統合を目指すものである.2つの入門の章があるが,1つは生物学の説明を必要としているコンピュータ科学者のためのものであり,もう1つは進化論的計算の解説を必要とする生物学者のためのものである.両方の章を必要とする読者がいるかもしれないが,ほとんどの場合は,どちらか一方で十分であろう.付録には,生物学への応用に興味を持ったコンピュータ科学者が適切なデータを見出せるように,分子生物学に関するインターネットの情報源を掲載した.
 今日ほどバイオインフォマティクスが人気を集めたことはない.遺伝子革命はコンピュータサイエンスの進展と密接に関係している.それぞれのゲノムプロジェクトは,デジタル形式で急速なデータの収集をもたらすが,その意味は今後の解釈を待たねばならない.コンピュータはデータを蓄積するだけではなく,解釈に欠くことができない.遺伝子の同定,RNAとタンパク質の折りたたみ構造決定,および代謝系のパスウェイの解析などはいずれも莫大な計算を必要とする.製薬会社は新しい治療を開発する手段として特にバイオインフォマティクスに興味を持っている.コンピュータ手法は生成され続ける大量のデータを生物学者が解明するのを助け,ゲノムプロジェクトから薬の発見までに必要な時間を短縮するのに重要な役割を果たすであろう.
 多くの主要な問題が非常に膨大なので,可能性のある解候補をすべて探索することはできない.生物学者がよく使う標準的な近似アルゴリズムも,時間,費用および計算パワーの観点から非実用的である.そのため研究者は(間違った問題への正解をしばしば導く)より単純な仮説を採用するか,あるいは合理的な時間内で探索できるアルゴリズムを使わざるを得ない.これこそが進化論的計算の真価が発揮される場面である.進化のプロセスは,非常に大きく複雑な空間を探索し,迅速に良い解を返すことができるシミュレーションで利用される.したがって,Dobzhanskyの言葉を次のように言い直すことができるかもしれない.「進化論的計算を考慮に入れなければ生物学では何も意味をなさない」と.本書は,協力してバイオインフォマティクスの分野を作り出した生物学者とコンピュータ科学者双方の読者を対象にしている.進化の計算とバイオインフォマティクスの両分野で実験と解析を促進することになれば,その目的が達成されるであろう.
 DWCはEvosolve(英国慈善番号1086384)に本書のために助力してくれたことに感謝する.この本を世に出すことにおいて,Morgan Kaufmann PublishersのDenise Penrose,Emilia Thiuriとすべてのスタッフにお礼を申し上げる.歓迎できる気散らし,大いに必要とされたサポートと役に立つ助言を与えてくれた本書の執筆者,家族と同僚に感謝する.最後に,念入りな編集をしてくれたPrinceton Editorial AssociatesのCyd Westmorelanと,注意深い校正に対してPrinceton Editorialのスタッフに感謝する.
序文 ⅲ
日本語版のための序文 ⅴ
監訳者まえがき ⅶ
執筆者一覧 ⅹⅷ

第Ⅰ部 バイオインフォマティクスと進化論的計算の基礎
 第1章 バイオインフォマティクス入門
  1.1 はじめに
  1.2 生物学?生命の科学
  1.3 分子生物学のセントラルドグマ
  1.4 遺伝子ネットワーク
  1.5 配列のアラインメント
  1.6 おわりに
 第2章 生物学者のための進化論的計算入門 
  2.1 はじめに
  2.2 進化論的計算:歴史と用語
  2.3 計算機科学における進化論的計算の位置付け
  2.4 おわりに

第Ⅱ部 配列と構造のアラインメント
 第3章 進化論的計算を用いた実験データからのゲノム配列決定
  3.1 はじめに
  3.2 配列再構成問題の定式化
  3.3 配列再構成のためのハイブリッド遺伝的アルゴリズム
  3.4 計算機実験の結果
  3.5 おわりに
 第4章 進化論的計算によるタンパク質構造アラインメント
  4.1 はじめに
  4.2 方法
  4.3 結果と考察
  4.5 おわりに
 第5章 遺伝的アルゴリズムを用いたペアワイズおよび複数配列のアラインメント
  5.1 はじめに
  5.2 進化論的アルゴリズムと焼きなまし法
  5.3 SAGA:配列アラインメントのための遺伝的アルゴリズム
  5.4 応用:目的関数の適切な選択
  5.5 おわりに

第Ⅲ部 タンパク質の立体構造の決定
 第6章 進化論的探索を用いたタンパク質立体構造決定問題の解法
  6.1 はじめに
  6.2 問題の概要
  6.3 タンパク質のコンピュータ上のモデル
  6.4 考察
  6.5 おわりに
 第7章 並列FMGAを用いた効率的なポリペプチド構造予測に向けて
  7.1 はじめに
  7.2 Fast Messy Genetic Algorithms
  7.3 実験手法
  7.4 二次構造計算を用いたタンパク質構造予測
  7.5 事前知識を用いた初期化
  7.6 おわりに
 第8章 問題固有のオペレータを用いた進化論的計算によるタンパク質立体構造決定問題
  8.1 はじめに
  8.2 タンパク質立体配座の多目的最適化
  8.3 問題固有の変形オペレータ
  8.4 GAの実行性能
  8.5 おわりに

第Ⅸ部 機械学習と人工知能
 第9章 進化論的ニューラルネットワークを用いたDNA塩基配列におけるコード領域の識別
  9.1 はじめに
  9.2 進化論的ニューラルネットワークによる遺伝子識別
  9.3 おわりに
 第10章 進化論的計算手法を用いたマイクロアレイデータのクラスタリング
  10.1 はじめに
  10.2 κ?平均法
  10.3 ArrayMinerソフトウェア
  10.4 おわりに
 第11章 進化論的計算手法と配列データのフラクタクル可視化
  11.1 はじめに
  11.2 カオスゲーム
  11.3 IFS
  11.4 カオスオートマトン
  11.5 まとめ
  11.6 おわりに
 第12章 進化論的計算を用いた代謝経路および遺伝子制御系の推定
  12.1 はじめに
  12.2 反応速度,ペトリネットおよび機能ペトリネット
  12.3 逆問題:観測データからの経路推定
  12.4 ネットワーク構造の進化:実験結果
  12.5 進化論的計算手法による生体内ネットワークの推定に関する関連研究
  12.6 おわりに
 第13章 生物システム特徴付けのための進化論的計算による支援
  13.1 はじめに
  13.2 EPR分光法による生物システムの特徴付け
  13.3 スペクトルパラメータの最適化
  13.4 実験の評価
  13.5 おわりに

第Ⅴ部 特徴抽出
 第14章 進化論的計算による疾患データからの遺伝子および環境要素間の相互作用の発見
  14.1 はじめに
  14.2 生物学的背景・定義
  14.3 数学的背景と定義
  14.4 特徴抽出フェーズ
  14.5 クラスタリングフェーズ
  14.6 実験結果
  14.7 おわりに
 第15章 創訳シミュレーションのための遺伝的アルゴリズムに基づく特徴抽出手法
  15.1 はじめに
  15.2 特徴抽出問題
  15.3 HIVに関連するQSAR問題
  15.4 特徴抽出手法
  15.5 GARC
  15.6 GAFEATのパラメータ設定および実装
  15.7 比較と考察
  15.8 おわりに
 第16章 進化論的計算を用いたスペクトルの解釈
  16.1 はじめに
  16.2 計測手法
  16.3 スペクトルの解釈における教師なし学習と教師あり学習
  16.4 モデル検証の一般的な手法
  16.5 モデリングのためのスペクトル変数の選択
  16.6 遺伝的回帰
  16.7 遺伝的プログラミング
  16.8 領域知識の利用
  16.9 モデルの了解度
  16.10 進化論的アルゴリズムを用いたモデル検証
  16.11 トランスクリプトミクスとプロテオミクスにおける進化論的計算の応用
  16.12 おわりに

付録 バイオインフォマティクスのデータとソース
 A.1 入門
 A.2 核酸
 A.3 遺伝子
 A.4 発現配列タグ 
 A.5 一遺伝子突然変異
 A.6 RNA構造
 A.7 タンパク質
 A.8 代謝系パスウェイ
 A.9 教育的なリソース
 A.10 ソフトウェア
索引

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