ヒューマノイド工学

生物進化から学ぶ2関節筋ロボット機構

ヒューマノイド工学
著者 熊本 水頼 編著
精密工学会 生体機構制御・応用技術専門委員会 監修
畠 直輝 編集
堂埜 茂
大西 公平
辻 俊明
藤田 義彦
藤川 智彦
堀 洋一
小田 高広
ジャンル 機械
出版年月日 2006/09/01
ISBN 9784501416102
判型・ページ数 A5・240ページ
定価 本体3,200円+税
在庫 品切れ・重版未定

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「2関節筋」機構について解説した

 2005年,「愛・地球博」は色とりどりの人型ロボットでわき返った。世界中から参加した観客たちを魅了するにも十分であった。日本のロボット技術の高さを世界中にアピールするのに相応しい舞台ともなっていた。
 しかし,誰もが気付いていることであるが,ロボットの動きは人間の自然な動きとは明らかに違う。また2足歩行ロボットが走ったと話題になったが,たかだか時速6Kmである。人型ロボットと人間の動作の違いは明白である。
 この違いは何に由来するのか。それは現行の人型ロボットは,関節ごとにモータが配置されているにすぎないが,現実の人間には隣合った2つの関節を同時に動かす筋,すなわち2関節筋が拮抗して対をなして存在している。この拮抗2関節筋の存在こそが,ヒト特有の出力特性・制御機能特性をもたらしているのである。実際に拮抗2関節筋を装備し協調制御理論に基づいて製作された基本ロボットが,ヒトと同じ出力特性・制御機能特性を再現することに成功した。しかも現行の人型ロボットよりはるかに簡単な制御則でヒトらしい運動特性が得られたのである。ヒューマノイドロボット工学の本来の将来像が現実のものとして見え始めた。工学的応用の道が拓かれてきたのである。
 人型ロボットが愛きょうを振りまいて済む間は問題ない。しかし現実のヒトの四肢先端出力分布は6角形だが,2関節筋を装備していない人型ロボットの系先端出力分布は4角形である。この出力特性の違いが深刻な問題となる懸念を抱く。
 この問題はヒューマノイドロボット工学の領域に止まらない。生体力学や身体運動力学は機械工学力学体系を導入して始められたものである。もともと機械工学力学体系に2関節同時駆動の概念はないので,2関節筋の存在自体は解剖学的には古くから周知のことでありながら,身体運動学に関連する諸領域で2関節筋を計算に組み入れることは行われなかった。身体運動の映像解析に基づいて組み立てられるスポーツ力学やシミュレーション工学などの領域で,2関節筋を計算に取り込まないでも深刻な問題が浮き彫りにされてこなかったのは,人体の個々の筋出力発揮の再現性の乏しさにカバーされていたに過ぎない。
 しかし日常身近に運動障害を持つ患者に接しているリハビリ臨床現場の理学療法士や研究者は,従来の運動学の教えるところでは解釈できない現象に遭遇し,従来の身体運動力学体系と現実の身体のそれとの相違を肌で感じ深刻に受け止めている。彼らは拮抗2関節筋を取り込んだ協調制御理論を,リハビリ臨床現場に応用する道を探り始めている。
 拮抗2関節筋は,陸上に生活する2足歩行,4足歩行動物のすべてに存在する。哺乳類をはじめ,鳥類,爬虫類,両生類に至るまで,厳しい自然環境の中で食いつ食われつの過酷な生存競争を戦っている彼らにとって,2関節筋は不可欠な存在となっている。その意義は大きいものに違いない。
 一方,魚類は2関節筋を持たない。したがって原始魚類が自ら陸へ上陸を果たし原始両生類へと進化した時点で2関節筋が伝えられたと考えられるのが自然であろう。
 動物が動物たるべきは運動にある。その運動の制御の仕組みを生物進化史的にたどることで,生体力学,生体工学のあるべき本来の姿を見極め,社会貢献に正しく還元すること。本書をその魁の一石として世に問うものである。
 科学基礎を取り扱ってはいるが,できるだけ数式を廃し,図を多くし,記述は平易にとお願いして編集にあたった。それはロボット開発に携わる技術者や機械系の学生だけではなく,科学技術に関する広範な領域の,リハビリ領域なども含めて将来を担う若い世代に読んでもらいたいと願うからである。
 2006年9月 熊本 水頼

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序 章 人間らしさのキーワード”2関節筋”
 0.1 二関節筋とは
 0.2 なぜ,いま2関節筋が問題になるのか
 0.3 本書の構成
第1章 運動制御の生物進化
 1.1 進化史的基本概念
 1.2 ナメクジウオの運動解析とシミュレーション
 1.3 人口筋装備Lanceletモデル
 1.4 原始魚類から原始両生類へ 数学が示唆する重力対応
第2章 協調制御モデル誕生
 2.1 人体筋配列誕生
 2.2 協調制御モデル
 2.3 制御理論的比較解剖学
 2.4 コンタクトタスク解消簡易モデルの提示
第3章 協調制御ソフトプログラム
 3.1 実効筋力(FEMS)評価プログラム
 3.2 実効筋駆動歩行モデル
第4章 協調制御ハードプログラム
 4.1 BiCCOM ロボットアーム,ロボットレッグ
 4.2 ひふく筋による跳躍
第5章 二関節筋が切り拓く将来展望
 5.1 基礎研究部門
 5.2 実利用・応用技術部門
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