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 横幹〈知の統合〉シリーズ

社会シミュレーション 世界を「見える化」する

社会一般

横幹〈知の統合〉シリーズ編集委員会(編)

A5判  130頁 並製
 1,800円+税
ISBN 978-4-501-63070-6 C3000
在庫あり

奥付の初版発行年月 2017年09月
書店発売日 2017年09月20日
登録日 2017年07月24日

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解説

災害や都市問題など、予測不能な問題を読み解く手法として注目される「社会シミュレーション」の可能性について、社会や情報、文化など、様々な視点から読み解く。

紹介

社会をとりまく予測不能な問題をいかに解決するか。「社会シミュレーション」の可能性について、様々な視点から読み解く。

災害・環境問題・都市問題・グローバリゼーション問題など、社会をとりまく予測不能な問題をいかに解決するか。現象をモデル化・可視化することで、世界のダイナミズムを読み解く手法として注目される「社会シミュレーション」の可能性を、社会の持続可能性、マルチエージェント、データ分析、情報拡散と抑制、都市設計、文化の仮想現実化といった様々な視点から読み解く。

目次

第1章 「持続可能な社会」をシミュレーションする――「共有地の悲劇」をめぐる規範と信頼
遠藤 薫
 1.はじめに
 2.先駆けとしてのローマクラブ・シミュレーション『成長の限界』
 3.「共有地の悲劇」を考える
 4.規範と信頼
 5.支配と互助
 6.おわりに
第2章 エージェント・ベース・モデリングの楽しさと難しさ
寺野 隆雄
 1.社会現象をコンピュータで扱うこと
 2.エージェント・ベース・モデリングの考え方
 3.社会シミュレーションの背景と歴史
 4.エージェント・ベース・モデリングの楽しさ
 5.エージェント・ベース・モデリングの難しさ
 6.おわりに
第3章 データ分析を社会のシミュレーションに利用する
佐藤 彰洋
 1.はじめに
 2.社会のモデルの2面性
 3.社会のデータの集め方とシミュレーションの進め方
 4.社会のシミュレーションを行うための準備としてのデータ分析
 5.まとめ
第4章 ソーシャルメディアにおける情報拡散――どのようにしてデマ情報は蔓延し,収束するのか
栗原 聡
 1.はじめに
 2.インフルエンザの流行とデマの拡散
 3.SIRモデル
 4.病気の感染と情報の拡散との違い
 5.Twitterでの情報拡散
 6.デマとデマ訂正情報の収集
 7.シミュレーションによる再現実験
 8.情報拡散の防止はできるのか?
 9.さいごに
第5章 人工社会が予測する都市の動態
倉橋 節也
 1.はじめに
 2.分居モデル
 3.賑わいが街を変える
 4.まとめ
第6章 シミュレーション技術を応用した3次元文化財の透視可視化
田中 覚
 1.3次元文化財のデジタル保存
 2.半透明物体のシミュレーションと透視可視化
 3.透視可視化の事例紹介
 4.3次元計測に基づく仮想都市空間の構築と社会シミュレーション
あとがき

参考文献
索引
編著者紹介

前書きなど

はじめに
複雑化する世界とシミュレーション
 2011年3月11日午後,未曾有の災害が東日本を襲った.東日本大震災の被害を大きくしたのは,それが,巨大地震,巨大津波,原発事故の連鎖による複合災害となったからでもあった.しかも,被災した方々への支援,被災地の復興,そして日本全体の再興に向けては,純粋に自然科学的な因子から社会意識や共同性など一般的な合理性だけでは計れない諸要素までが渾然一体となった複雑な社会問題の系を解決していかなければならない.そのために,関連するあらゆる学問領域が連携して対応することが,喫緊の課題として要請された.
 大震災に限らず,現代の学問が直面しているのは,「多様な要素が複雑に絡み合った問題系をいかに解決するか」という問いである.しかも,「多様な要素」の相互作用は重層的な構造(図1)をしている.そのため,一面的な分析では予測不可能なカタストロフ(破局)が,突如として発現することもある.環境問題もグローバリゼーション問題もこうした相のもとで検討しなければ,解決への光が見えない.それどころか危険ですらある.ドイツの社会学者ウルリッヒ・ベック(U.Beck)の「リスク社会」論は,現代社会のこのような特性を指摘したものであった.
 現代科学がこのような問題に立ち向かおうとするならば,既存のディシプリン(専門特化した研究領域)に閉じこもることなく,多様な知を柔軟に組み合わせて考える必要がある.けれども,ディシプリンを超えるということは,言うのは簡単だが,実行するのはきわめて困難である.なぜなら,専門分野の異なる研究者たちがある特定の事柄について議論しようとするとき,まず驚くのは,「言葉が通じない」ということなのである.同じ用語であっても,分野によって,定義や文脈が異なり,まるでバベルの人々のように,異分野間ではコミュニケーション自体が困難なのである.その理由について,数理生物学者であるA・ラパポート(A.Rapoport)は,次のように述べている.

 われわれの経験は大部分は思考活動に関する経験であり,思考活動は,もっとも広義における言語によって,すなわち諸観念が組織化されるという仕方で練り合わされているものである.そしてこの観念の組織化は,われわれが所属しているそれぞれの専門学科によって,また各々異なった(組織づけの)やりかたが課せられてくるわけである.つまり専門学科(ディシプリン)(=したがってそこでの規律的訓練(ディシプリン))は強制を意味するものである.…〈専門学科(=規律的訓練)〉は,思考の様式に関して強制を意味する.それは,そこで用いられる諸概念のレパートリィ,分類の型(パターン),明証性に関する諸規則,論議の進め方のエチケット…などを規定しているのである[1].

 この壁を乗り越えるためのツールとして,従来から,個別ディシプリンから独立した統計的方法,数理的方法が使われてきたが,近年は「シミュレーション」に大きな期待がかけられている.

シミュレーションの可能性
 「シミュレーション」と一口に言っても,さまざまな「シミュレーション」がある.「シミュレーション」とは,対象を何らかの方法で動的モデル化し,このモデルを操作したり,観察したりすることによって,そのダイナミズムをより深く理解したり,あるいは異なる条件下での振る舞いを予測しようとするものである.
 近年,シミュレーションに注目が集まるのは,コンピュータ科学の驚異的な進歩によって,シミュレーション・モデルの構築や,操作や,モデルの振る舞いの観察が,きわめてわかりやすく可視化されるようになったこと,マルチエージェント・シミュレーションというボトムアップ的なモデリングが可能になったこと,仮想現実技術の発展によってシミュレーションが創り出す現実を仮想的に体験することができるようになったことなどが挙げられる.
 その結果,単にシミュレーションの精度が上がるというだけでなく,さまざまに異なるディシプリンの間でも,シミュレーションを共通の〈言葉〉として用いることができると期待されているのである.
 こまれで,〈社会〉を解明することに,自然科学的な方法論は必ずしも有効ではないと考えられてきた.言葉を換えれば,人間たちによって構成される〈社会〉は,物理的な実体によって構成される〈自然〉とは,まったく別途に論じられてきた.しかし,冒頭にも述べたように,実際には,人間たちも物理的環境の一部であり,また,技術的人工物も人間の意識や文化の中から生まれてきたものである.したがって,現実の問題に対応するには,社会科学と自然科学が統合的に関与する必要がある.これまで難しかった文理の橋渡しをするうえで,シミュレーションは大きな可能性を開花させつつある.

本書の構成
 本書は,このようなシミュレーションを〈社会〉の問題に適用する多様な論文から構成されている.
 第1章「「持続可能な社会」をシミュレーションする――「共有地の悲劇」をめぐる規範と信頼」(遠藤薫)は,「環境問題」をひとつの核として,「持続可能な社会」を求めるシミュレーショニスト(シミュレーションを方法論として用いる研究者)たちの試みを紹介し,「シミュレーション」の多様さと面白さを提示する.
 第2章「エージェント・ベース・モデリングの楽しさと難しさ」(寺野隆雄)は,社会シミュレーションが,コンピュータを利用して社会現象に潜む原理や原則を知るとともに,社会の仕組みをよりよく設計するための手段となりうることを明らかにする.
 第3章「データ分析を社会のシミュレーションに利用する」(佐藤彰洋)は,社会シミュレーションを行うにあたり,データ分析をどのように利用するかについて,シミュレーションの目的,および可能性について事例を交えて解説する.
 第4章「ソーシャルメディアにおける情報拡散――どのようにしてデマ情報は蔓延し,収束するのか」(栗原聡)は,ネットメディアにおける情報拡散のメカニズムを明らかにする取り組みについて紹介する.さらに拡散を抑制する対処法についても簡単に紹介する.
 第5章「人工社会が予測する都市の動態」(倉橋節也)では,エージェント技術を社会科学的アプローチとして用い,都市の問題を社会シミュレーションで扱った事例をいくつか紹介する.
 第6章「シミュレーション技術を応用した3次元文化財の透視可視化」(田中覚)のテーマは「可視化」である.とくに,歴史的建造物や伝統的祭りの山車などの3次元文化財,すなわち立体構造を有する文化財を,コンピュータが作る仮想空間内でわかりやすく見せる技術を解説する.

各章の相互関係マップ
 これらの各章は,それぞれに独自の視点から「社会シミュレーション」について論じている.しかし,それらは決してそれぞれが孤立したものではなく,相互に関連し合い,有機的につながって,全体として「社会シミュレーション」を総合的に描き出すものとなっている.これがまさに,「横断型基盤科学研究」の醍醐味である.
 各章相互の関係をマップ化すると図2のようになる.この地図を片手に,興味を持ったところから「社会シミュレーション」をめぐる冒険の旅に出ていただければ幸いである.
2017年7月
横幹〈知の統合〉シリーズ編集委員会
委員長 遠藤 薫

著者プロフィール

横幹〈知の統合〉シリーズ編集委員会(オウカンチノトウゴウシリーズヘンシュウイインカイ)

上記内容は本書刊行時のものです。

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