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ピッチと和声の神経コード 心は脳の音楽

工業・工学

ゲラルト・ラングナー(著) / 根本 幾(訳)

A5判  290頁 並製
 3,500円+税
ISBN 978-4-501-55520-7 C3004
在庫あり

奥付の初版発行年月 2017年02月
書店発売日 2017年02月20日
登録日 2016年12月26日

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解説

音楽にとって重要なピッチ(音高)を人間の神経がどのように符号化するのかを詳しく考察。事実と実験結果、推測に基づいた大胆な仮説を提案する。

紹介

音楽にとって重要なピッチ(音高)を人間の神経がどのように符号化するのかを詳しく考察。幅広い層の読者に興味深い本。

音楽にとって極めて重要なピッチ(音高)を人間の神経がどのように符号化するのかを詳しく考察。事実と実験結果、推測に基づいた大胆な仮説を提案し、秀逸な知的エンターテインメントとして読むこともできるが、各分野の研究者には多くのヒントやテーマが潜んでいるだろう。神経生理学、音響心理学、音楽理論、物理・工学など、幅広い層の読者に興味深い本だと思われる。

目次

第1章 和声の歴史的側面
 1.1 音楽の起源
 1.2 音楽と和声の力
 1.3 普遍的な言語としての音楽
 1.4 音楽的調和と整数
 1.5 普遍的な和声(宇宙の調和)
 1.6 球の調和
 1.7 現代の天文学における調和
第2章 音と周期性
 2.1 音は動きである
 2.2 音の周期性
 2.3 フーリエ解析
 2.4 言語音
第3章 基音の不在の発見——Missing Fundamental
 3.1 サイレンの音——“The sound of sirens”
 3.2 ピッチ論争
 3.3 ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ
 3.4 ピッチの機械的な基礎か?
 3.5 結合音と欠如基音
 3.6 和音の機械的な基礎か?
 3.7 ヘルムホルツの音楽への影響
第4章 ピッチの謎
 4.1 電話説
 4.2 「残留音(residue)の再考」
 4.3 「支配的領域」
 4.4 ピッチ移動
 4.5 スペクトルの符号化
 4.6 時間的符号化
第5章 聴覚における時定数
 5.1 ピッチ知覚の素量的効果
 5.2 引き込み現象と絶対音感
 5.3 母音フォルマントにおける聴覚時定数
 5.4 声調言語である中国語における時定数
 5.5 笛調律の不思議
 5.6 鳥の鳴き声の聴覚時定数
第6章 聴覚の伝達路
 6.1 蝸牛から皮質まで
 6.2 耳
 6.3 聴神経
 6.4 蝸牛核
 6.5 オリーブ核群
 6.6 外側毛帯
 6.7 下丘
 6.8 視床,皮質への門
 6.9 皮質
第7章 脳幹における周期性の符号化
 7.1 聴神経における周期性の符号化
 7.2 蝸牛核における周期性の符号化
第8章 中脳における周期性の符号化
 8.1 複合音の符号化
 8.2 同期と発火頻度
 8.3 刺激パラメータと応答特徴
 8.4 周期性の符号化
 8.5 内部振動
 8.6 最適変調周期,内部振動,応答開始潜時
第9章 周期性の符号化の理論
 9.1 同期と調和
 9.2 リックライダーモデル
 9.3 ヒューイットとメディスのモデル
 9.4 周期性モデル
 9.5 周期性モデルによるシミュレーション
 9.6 周期性モデルで説明されるピッチ効果
第10章 ピリオドトピー
 10.1 ピッチの空間表現
 10.2 下丘への写像
 10.3 「ピッチニューロン」
 10.4 ピリオドトピーとトノトピー,1 つのモデル
 10.5 皮質への写像
 10.6 皮質より上位で
第11章 和音の神経符号
 11.1 ピッチラセン
 11.2 中脳のくし形フィルタ
 11.3 同期した抑制
 11.4 抑制まで含めた周期性モデル
 11.5 聴覚の二重ラセン
 11.6 神経のピッチラセン
 11.7 協和性
 11.8 和音
第12章 振動する脳
 12.1 「お婆さん細胞」と「カクテルパーティー問題」
 12.2 結合と振動
 12.3 脳内のラセン状構造
 12.4 心は脳の「音楽」である
参考文献
索引

前書きなど

はじめに
 音は人間や動物にとって命にもかかわる道具である.我々は音声で互いに意思を伝達し,笑ったり泣いたりして感情を伝える.しかしそれだけでなく,我々は音の持つ引き付ける力や美しさだけのために,声や楽器を使って音をわざわざ作るのである.音声や音楽のピッチやリズムやメロディーは,恐れ,喜び,怒りといった情動を速く効率的に伝えることができる.さらに我々人類には,周囲を自分たちの作った音で満たしたいという強い衝動があるようで,その結果として,今日どこもかしこも音楽で溢れている.音楽を作り,聞き,それに合わせて踊りたいという欲求は,我々の歴史の始まりまで遡る.実際,音楽は何千年もの間,社交,儀式,祭典などの目的のため重要な役割を担ってきた.6世紀のローマの哲学者にして偉大な音楽理論家であるボエチウスは,
  音楽はあまりに自然に我々と一体化しているので,たとえ望んでもそれから逃れられない.
と喝破している.
 誰でも知っているように,楽音の特定の組み合わせは,それを同時に,あるいは継時的に演奏すると格別美しく聞こえる.これを協和している(consonant)とか調和している,ハモっている(harmonious)という.また組み合わせによっては不快に,つまり「不協和」(dissonant)に聞こえる.もしどの音の組み合わせが快く響くかとか,少なくとも面白く聞こえるかと尋ねられれば,異なる文化的背景を持つ人々の間で完全には意見が一致しないかもしれない.世界各地では異なる形の音楽が栄え,楽器や音楽作品は,文明の進歩とともに進化を遂げてきたからである.しかしながら,音の組み合わせによっては,普遍的な魅力を持つものがあるようである.それらはどこでも好まれ,世界中で音楽の体系の基礎となっている.間違いなく,和声の知覚にとって必須の普遍的な法則があるはずである.
 それがどのような法則か,そこで整数がどんな役割をするのかという疑問は,古代ギリシャ人の時代にすでに存在した.彼らは,和声を支配する数学的な法則と同じ法則が宇宙全体を支配していると信じていた.この本では,聴覚系によるピッチや和声の処理を論じるための神経生理学的データや理論とともに,この古代の哲学的な概念の正当性を示す新しい根拠を紹介する.結論は,我々の和声に対する感覚は,聴覚系における処理の基礎となっている数学的法則からの必然的な帰結だということである.この本では,ピッチや和声の知覚について,過去から現在の神経生理学的データや理論を順次示して説明するだけでなく,この古代からの哲学的概念に対する新たな根拠も提供する.最後の章では,聴覚系での神経系の動的な過程と似たような過程が,運動制御や情動や記憶の処理のような脳のほかの重要な機能にも関与していることを示そう.
 この本は神経科学や音楽理論の専門家だけでなく,音楽知覚の基礎に興味のある,より広範な読者を想定している.そのため随所に配置したBox(囲み記事)の内容は,専門家には不要と思われるが,専門外の読者には役立つであろう情報の追加である.さらに今日では,インターネットでより詳細を知ることは容易なはずである.

ゲラルト・ラングナー


日本の読者の方々へ
 私の聴覚と神経符号化に関する研究は日本,特に,札幌,東京,名古屋,そしてとりわけ京都の友人や研究仲間を訪問する機会を与えてくれた.ときには数週間も滞在し,神経科学関連の会議や,同志社大学の知識工学科などの研究施設において,講演も行った.同志社大学では大脳皮質の神経生理学的実験に参加して,力丸裕教授と聴覚機構について意見を交換したりもした.日本の学生に対する講演の経験から,毎日の会話に英語の表現が洪水のように押し寄せているドイツのような国の学生と比較すると,日本の学生には英語の理解がずっと困難であるように見えた.特にこのような理由から,根本幾氏が私の本を皆さんの言葉に翻訳されたことに非常に感謝している.これにより,熟達した学生や科学者だけでなく,学校で勉強した多少の科学的な背景を持ち,この分野に興味を持たれた読者が,音声言語や音楽の脳処理について理解する機会が得られることであろう.
 ピッチと和声の符号化に関する本書の出発点は,たとえばピタゴラスの哲学的思考からヘルムホルツの実験までを含む科学史的な導入である.しかしながら自分にとってさらに重要なのは,Christoph Schreiner, Mike Merzenich,Ted Bullock,Henning Scheich,Mikko Sams,Hubert Dinse,Li Xu などの国際的な共同研究者をはじめ,数多くの協力者や学生諸君の協力により得られた,中枢の聴覚系に関する私の40年以上の研究成果を述べることである.
 それにもかかわらず,第一にこの本は聴覚や神経生理学一般の学生や専門家のための教科書として意図されたものではない.むしろ,比較的読みやすい本として,多少の基礎的な科学的知識を持つより広い読者層にとっても,わかりやすく興味深いものとしたつもりである.したがってここには,初めて報告する多くの研究結果のほかに,専門家以外の読者が神経生理学や聴覚を含めた科学的な基礎に対して,ある程度の理解を得るのに役立つような,最重要事項への導入や説明も含まれている.要するに,この翻訳版がすべての日本の読者に楽しめるものであってほしいと願う!
 音楽知覚にとって,ピッチと和音の分析の時間的な基礎が根本的に重要なことは疑いない.それによりピッチが音色にどう関係するか,オクターブや5度のような調和的音程がどのようにして現れるか,長調と短調の違いは何かなどの説明ができる.また相対音感と絶対音感についてそれらしい説明もできる.さらに,聴覚系のある特定の解剖学的構造は,脳の時間的・空間的処理機構の基盤に対する洞察を可能にすることが示される.最後に,これも重要なことなのだが,本書の最終章で,ラセン構造の特化した神経生理学的構造が中脳の聴覚領域だけでなく,聴覚領域ではない脳構造にも存在することを述べる.これらの構造はすべて,特に注意の制御に重要な脳の振動的活動の時間的処理に関わっているようである.
 最後に私のこの本が日本の読者の方々に十分な収穫と洞察をもたらすこと,またここに示された実験的・理論的結果が,我々が今日知っている宇宙の中で最も複雑な構造(脳)に関して,科学的結果として望み得る程度に正しいものと判明することを希望する.

2016年11月
ゲラルト・ラングナー


訳者まえがき
 2015年の暮れ,文献検索中にラングナー博士の“The Neural Code of Pitchand Harmony” というタイトルに興味を持ち,早速手に入れ読み始めたところ大変面白く,年末年始の休みにほぼ読了してしまった.内容が神経生理学,音響心理学,音楽理論,物理・工学の広い範囲にわたっているため,幅広い層の読者に興味深い本だと思われた.しかし,異なる分野の用語などには分野以外の方には馴染みが薄いものも多く,翻訳書があればと考えて,東京電機大学出版局の坂元真理さんに出版の可能性を打診したところ,同出版局で引き受けてくださることとなった.
 本書は,音楽にとって極めて重要な要素であるピッチ(主観的な音高)を,人がどのように認識するのか,つまり神経がどのようにピッチを符号化するのかを詳しく考察したものである.「考察」であって既知の事実の「解説」ではないことに注意されたい.読者によっては,音高の認識の仕組みさえ不明であることに驚かれるかもしれない.単なる周波数分析のように単純でないことは,本書の最初の2~3章で明らかになる.ラングナー博士は自身の長年の研究成果の集大成として,ピッチ認識のニューロンモデル(仮説)を作り上げた.そのモデルは,必然的に和音の認識にも直接関連する.そしてピッチや和音の認識が,コミュニケーション手段としての聴覚の発達の副産物だと結論している.ピッチ認識のモデルは,最近の脳科学研究の主要なトピックの1つである「結合(binding)」にも適用可能だとし,その結果,「心は脳の音楽である」という大胆かつ魅力的なテーゼを打ち出している.本書は事実と実験結果と推測に基づいた大胆な仮説の提案であり,秀逸な知的エンターテインメントとして読むこともできるが,各分野の研究者にとっては多くの研究のヒントやテーマも潜んでいるのではないかと思われる.
 翻訳にあたっては特に生理学的な用語について不安が残る所がある.誤りに気づかれた場合は出版社にご連絡いただければ幸いである.また,原語から(索引などを参照して)その内容を調べることは,現在では容易であろう.
 ラングナー博士には,メールの頻繁な交換を通じこちらの疑問点にお答えいただき,少しでも訳本が読みやすいものになることに協力を賜ったことに感謝申し上げたい.東京電機大学出版局の坂元氏には,翻訳の提案時から一貫して真摯な姿勢で編集に臨まれ,とかく安易に流れやすい訳者をその仕事ぶりで叱咤激励していただいた.しかし,原著の内容の面白さのため,早く出版したいという気持ちのあまり生じたかも知れぬ誤りや訳文の拙さは,もちろん訳者の責任である.

2016年10月,印西市にて
根本幾

著者プロフィール

ゲラルト・ラングナー(ゲラルトラングナー)
根本 幾(ネモト イク)

上記内容は本書刊行時のものです。

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