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 米国アマゾン・コム(以下,アマゾン)は,10月7日に世界百カ国以上で電子読書端末「キンドル」の販売とサービス開始を発表した。今までのアマゾンの新サービスがそうであったように,発表と同時に受注を開始している。
 2007年11月に米国で発売を開始したキンドルは,先行するソニーリーダーとともに市場を開拓してきた。電子ペーパー搭載端末の出荷台数について正式な調査発表はないが,関係者によると昨年までで累計100万台であり,今年は推定で350万台と言われている。このような急成長から電子読書端末は,かつて日本で惨敗したものの,米国では“成功した”と表現されることが多い。

国際版発売の理由

もっとも今度の世界市場での販売について,キンドルの好調とみるには疑問が残る。出荷するのは今年の2月に発売された第2世代機である。9.7インチディスプレイでPDFリーダーを標準に備えた6月発売のキンドルDXではない。キンドルの在庫調整としての販売という見方もできる。
 また,販売はアマゾンの米国サイトのみであり,購入者は,あくまでも米国で買ったことになる。これは日本にいながら電気製品を「正規」に個人輸入するケースではないか。
 版権ビジネスについては,国やEUなどの領域ごとに販売規制がある。ハリー・ポッターシリーズのように英国で出版された書籍は,同じ英語圏の米国では輸入販売されずに米国の出版社の手によって出版されている。逆もまた同様である。日本からアジアに輸出した音楽レコードを逆輸入することが禁止されているのも,この例である。アマゾン米国サイトでのみの販売は,このような規制に対する回避手段と取れなくもない。

キンドル成功(?)の理由

コンテンツの充実と一般書籍に対する割安感がキンドルの成功理由として,よく指摘されている。ソニーリーダーは発売時点で1万冊(リブリエの時の約5倍)のコンテンツだったが,アマゾンはキンドル発売と同時に9万冊のコンテンツを用意した。また,価格は書店で通常25ドル程度の新刊ベストセラーが60%前後安い約10ドルである。ニューヨークタイムズのベストセラーリストの9割を常に確保している。コンテンツの購入方法もいたって簡単である。携帯電話通信網を利用して書籍,雑誌,新聞の配信を受けることで,利用者はいつでもどこでも購入できるのだ。
 日本国内でも同様のサービスを実現し,米国で配信している英語の書籍35万冊のうち,当面29万冊を配信するという。キンドルの価格は,米国内販売より20ドル高い279ドルで,書籍の価格は2ドル高い11.9ドルである。海外への物流経費や無線通信のローミング経費をアマゾンが負担するための価格設定と思われる。

さっそく購入してみる

僕の回りでも国際版を購入した者が僕を含めて6人いた。当然といえば当然だが,電子出版に興味を持って係わってきた人ばかりである。日本からキンドルの注文が多いとしたら“業界特需”といったところだろうか。お互いに持ち寄っては,何を購入したとか,どのキンドルブログが面白いかといった情報交換になる。
 所有して印象的だったことは書籍よりも新聞購読である。書籍と違って新聞の扱うテーマは,各紙で大きな違いはない。一つのディスプレイ上で各紙の記事が混載されると記事の比較も容易になる。朝日,読売,日経三紙が合同で始めた各紙のニュース比較サイトに「あらたにす」があるが,キンドルは各紙にとって好むと好まざるとに関わらず,事実上のニュース比較サイトとなっている。
 知人の新聞記者が,「ブランド名がどんどん背景に消えていき各紙の境が希薄になった」と予想以上の衝撃を語っていた。