科学技術と教育を出版からサポートする

国会図書館の長尾構想を元にした「ジャパンブックサーチ」が現実化してきた。日本文藝家協会とともに日本書籍出版協会(書協)も協議に参加することになった。この文章が読者の目にとまる頃には,その概要について正式発表が行われることだろう。
 この構想をコンテンツビジネスの基盤事業として実現していくためには,いくつもの課題を解決しなければならない。そもそも国会図書館の資料デジタル化は,自公政権時代に決まった景気対策補正予算事業である。盛んに報道されているように,政権交代で事業の見直しや景気対策補正予算の執行停止が始まっている。文化関連予算では「アニメの殿堂」などと評された国立メディア芸術総合センターの中止が決まったばかりだ。9月17日に開催された「国立国会図書館の資料デジタル化に関する説明会」でも127億円について執行できるかどうか,先行き不透明という説明であった。
 予定通り執行されたとしても国会図書館のデジタルアーカイブを民間事業に利用することの説明が求められる。またコンソーシアムを設立するにしても,かなり多額の運営予算やスタッフが必要だろう。関係者団体の基本合意が形成された上で,すぐにでも関係省庁による予算化が必須である。
 先月号の原稿を執筆していた段階では,来年度事業に向けた予算折衝が行われていると思っていたのだが,事はもっと早く進んでいるようだ。コンソーシアムのために国家予算を導入する手法としては,最近ではデジタル雑誌の実証実験がある。総務省サイバー特区による実証実験の推進母体となる「雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアム」が日本雑誌協会のデジタルコンテンツ推進委員会の管理で設立された。
 このようなインターネットを利用した情報流通基盤については総務省の管轄となるが,出版はもともと文化庁の管轄である。ただし,今回はデジタルコンテンツビジネスのスキームを描くことから経済産業省が中心となって予算化している。すでに三省庁の間で連携をとって準備を始めている。
 また文藝家協会ではコンソーシアム設立に向けた声明文を準備している。国会図書館や書協も同時に賛同の意思表明をすることになる。

出版界の懸念

すでに外堀を埋められた格好であるが,必ずしも出版界は諸手を挙げて賛成というわけではない。デジタルアーカイブを構築することで,既存の出版産業が衰退してしまっては元も子もない。出版不況と言うこともあり,むしろ出版界では,デジタルアーカイブ事業に対して警戒感が強まっているといえるだろう。
 公共図書館が無料貸本屋化しているという批判は,出版界から繰り返され指摘されてきている。その上,国民サービスの点から,インターネットでも図書館の蔵書が無料で読めるようにする,といった意見が官民から飛び出しかねない。本はただで読むという風潮が広まることが懸念されるのだ。
 デジタルアーカイブは,国立国会図書館を始めとした図書館の公共性,利便性を確立し,全国で学術文化の発展に寄与できる情報流通基盤となる必要がある。またIT化による利便性の向上は,ともすれば健常者中心となりがちである。常に障害者の読書環境に配慮することが求められる。
 どういうことがあってもデジタルコンテンツの配信業務が著作者の創作意欲を低下させたり,出版者による出版物発行を抑制することにつながってはいけない。また,すでに始まっているジャパンナレッジやネットライブラリーのような電子配信事業にとっても有益な体制となることが望まれる。
 書協としては,出版者の経済的利益の基盤を確保するために,前提となる出版者の権利の法的裏付けが必須と考えている。協議のテーブルに着くことで意見を主張しようという考えである。