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グーグル和解問題について,もう一度取り上げておこう。この2ヶ月間で,いくつかの重大な変化と確認が行われた。一つは,当初,和解からの離脱(オプト・アウト)期限として設定されていた5月5日が直前になって9月4日に延期されたことである。当初のスケジュールでは,出版社が著作権者に対して正確な通知を行い,検討を経て決定するには,あまりに時間が足りなかった。この認識は,日本だけでなく米国も含む世界各国で共通だったのだろう。
 もう一つは,5月25日から3日間にわたり,米国訴訟原告の弁護団側が来日し,日本書籍出版協会(書協),日本文藝家協会,文化庁著作権課などを訪問し,今回の和解案について説明を行ったことである。日本ペンクラブの代表の一人として,27日の会談に参加することができた。
 米国側は全米作家協会法律顧問のマイケル・ボニ弁護士,事務局長のポール・アイケン氏,全米出版社協会法律顧問のジェフリー・カナード弁護士の3人に通訳が出席した。

なぜ和解したのか

ペンクラブとの会談は,日本での説明会としては三日目であった。書協などでの質疑応答の経験を踏まえて,日本向けにポイントを絞っての解説となった。まず,和解した理由として「交渉は難しく複雑であり,敗訴の可能性もあった」と述べていた。「著作権法の専門家は,グーグルの計画はフェアユースの範囲に収まるという説を主張しており,この数年間,検索エンジンでの著作物利用がフェアユースで認められる判例が続いていた」という。
 フェアユースを認める判例が出れば,グーグル以外の企業も次々と参入してくるだろう。勝った場合に得るものよりも負けた場合に失うもののほうが大きかったというのである。

「絶版」の定義が明確に

日本の出版社にとって,会談の一番の成果は「絶版」の定義が明確になったことだ。和解案では,市販中か市販中止か,あるいは刊行中か絶版かの判断はグーグルが行うとされ,市販中とは「米国内の伝統的販売経路で入手可能であることを要する」とあった。日本の書籍が米国内の書店に並ぶことはまずない。このままでは絶版扱いとなり,グーグルは「表示利用」として,スキャンした本の中身をオンラインで読ませることができる,とされていた。
 当然のことながら,日本の出版社にとって最大の関心事であり,当初からグーグルに対し具体的な説明を求めてきた。弁護団は会談の中で絶版の取り扱いでは,各国で物議があったことを明かし,「日本で商業的に刊行されており,米国で購入することができれば『市販中』とみなされる。グーグルは書協や日外アソシエーツのデータベースに収録されているかどうか,さらにアマゾンや紀伊國屋書店など複数のオンライン書店を検索して米国民が入手可能な状態になっているかどうかで判断する」と明言した。
 出版社の間では,ホッとする空気が流れ,問題が少し収束する気配となっている。

日本の出版社の権利と立場

グーグルによる収益の分配先は,まず出版社であるとされ,出版社と著者間での再配分は両者の契約によることになる。しかし,日本の出版社が,このような利益分配契約をしていることは,まずない。そもそも日本の書籍出版社は,法によって保証された「著作権利者」ではない。一方,米国著作権法では,独占的使用許諾を受けた者も「著作権者」であり,「著作権の移転」として扱われる。商習慣では,書籍の市販中に限り著者から出版社に著作権の「信託的譲渡」が行われている。
 今後,日本においても出版商習慣で認められている権利を,契約によって明確にすることが求められるだろう。