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124回で報告したグーグルブック検索訴訟和解問題が混迷を深めている。この原稿が掲載された時点では,和解案から離脱すること(オプトアウト)ができる期日(5月5日)をすぎており,最初の山場を越えることになる。
 和解に対し異議申立した例としてはフランスの出版協会がある。すでにグーグルブック検索を著作権侵害だとして06年に訴訟を起こし,現在係争中である。当然,今回の和解案に対しても,著作権の理念に反するという声明を発表している。ドイツでも同様の動きがある。
 一方,日本の出版社は概して諦めムードである。結局,和解には自動的に参加する形になるが,解決金の通知をしない出版社が多くなることだろう。

グーグル和解のはらむ問題

和解案における問題点の一つとして著作権者が申告しなければ和解に応じたことにするオプトアウト方式の採用にある。書籍データの削除を求めるためには和解に応じなければならない。つまり削除請求することで初めて著作権が保護されることになる。
 本来,著作権者は利用を許諾する強い権利を持つのだが,申告しなければ著作権が守られないのでは事実上の請求権である。著作者の許諾権を設定したベルヌ条約の精神に反する行為である。
 オプトアウト方式が普及しているのはインターネット利用の契約では数百万人の権利者から許諾を求める必要があるからだ。オプトアウト方式の例として,迷惑メール防止法がある。当初,メール先が拒否したら送らない(オプトアウト)ことにしていたが,その後,メールを欲しい人が申し込む(オプトイン)に切り替えている。またグーグルストリートビューでは,ネット上に自宅や個人が特定される写真が掲載されていた場合,当人から画像を削除要求しなければ掲載したままにしている。今回の和解案がきっかけで,さらに広まるだろう。

ネットの波から相次ぐ黒船

このグーグル和解と前後して,携帯オーディオプレーヤーに対する私的録音録画補償金制度の導入について議論が続いている。また動画投稿共有サイトのYouTubeにしても,著作権侵害が指摘されている。確かにiTunesの登場により音楽のネット流通ビジネスが確立したことは間違いない。またYouTubeを宣伝メディアとしてとらえた積極的な利用も増加している。両者が著作権侵害についてはグレーな部分を残しながら,コンテンツビジネスを拡大してきたことも,また事実である。
 iTunesやYouTubeがたびたび「黒船」に例えられるのは,旧来のビジネスモデルを変革するだけでなく,著作権法の改正をも迫っているからである。旧来の保守的な市場を奪うものであれば「来襲」ととらえられ,逆に新しい企業の成長を促すものとなれば,近代社会誕生の端緒となった「来航」と呼ばれるだろう。
 これまでの日本の出版産業は,いわば鎖国制度の中で海外資本の直接的参入を拒んできた。海外出版物は語学や学術出版などの限定的な市場にとどまっている。海外資本出版社の活動は日本の出版社との共同出資が主であり,作家との契約も販売取引も日本の商習慣に従ってきた。
 ネット時代となって最初に開国を迫ったのはアマゾンである。日本上陸を検討する段階では,出版社との直接取引や値引き販売など米国の商慣習を直接持ち込もうとした。これは再販制度と委託販売の強固な壁によって阻まれたが,着実に読者をつかみ,書籍の購入行動を変革し,今では日本最大規模の書店に成長した。
 そしてグーグルである。グーグルによるデジタル情報流通の独占には懸念を抱くが,版権管理団体によって,違法コピーの抑制も期待できる。グーグルが迫るデジタル開国は日本の出版界にどのような変革をもたらすだろうか。