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3月5日に日本電子出版協会クロスメディア委員会がJAGAT(日本印刷技術協会)の協力を得て「クロスメディア時代に取り組むべきこと」と題したセミナーを開催した。講演の依頼を受けてクロスメディアの概念整理や,ケータイ小説,デジタル雑誌の分析を試みた。
 もう一人の講演者である佐々木雅志さんは印刷会社やIT企業のコンサルタントとしてご活躍で,JAGATクロスメディアエキスパート認証委員でもある。つまりクロスメディアについて造詣の深い人である。一方,ぼくはクロスメディアに関する実務経験も知識もまったくなく,流行語には懐疑的である。そこでクロスメディアとは何かについて考えたプロセスを,そのまま話すことにした。

バズワードの多いメディア用語

広告業界でクロスメディアという用語が頻繁に使われるようになったのは2004年頃だそうである。だいたいにおいて広告代理店の作り出す用語はいかがわしい。実態が定かでないのに言葉のブームでごまかされそうな気がする。
 このように明確な定義や合意がないまま使われる専門用語をバズワードという。最近ではWeb2.0が典型的な例だろう。Web2.0と言ってしまえば,検証抜きにIT利用ビジネスの新しいモデルが成功しそうな気がするし,反論しようにも合意形成がないため議論がかみ合わない。
 考えようによってはニューメディアやマルチメディアもバズワードといえる。この両者を使い分ける明確な差はないのだが,それでも我々はマルティメディア時代を受け入れ,さっさとニューメディアと決別してきたのである。同様にモバイルとユビキタスの違いも不明確である。
 それでもニューメディアやモバイルのように技術背景が明確な用語であれば,技術革新により定義が変化し,ぶれていくのは仕方がない面もある。一方,Web2.0やクロスメディアのようなマーケティング用語は,明確な技術により定義された用語ではなく,意図的に構築された概念用語である。市場分析や状況理解のために導入された概念だけにブームになりやすいが廃れるのも早い。

メディアミックスとどう違うか

「メディアミックスとクロスメディアの違いがわかりますか?」会場で質問したところ手をあげた人は皆無だった。両者が規定する領域は曖昧なままである。これにワンソースマルチユースという用語を加えると,その曖昧さはさらに強まってくる。
 では,メディアミックスという用語がありながら,クロスメディアという用語が導入されてきた背景は何か?「目新しさをねらっただけでしょう」といってしまえば,当たらずとも遠からずだが,それでは身も蓋もないだろう。
 クロスメディアを率先してきた電通の著書『クロスイッチ—電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた』(ダイヤモンド社)によると,ユーザーの情報バリアの高さが指摘されている。情報量が少ない時代は,ユーザーは情報入手に時間とエネルギーを使ってきたが,情報量の増大したことで,むしろ新たな情報を拒否するようになってきた。ターゲット(読者やユーザー)がバリアを張っていてることでメッセージが届かない。そこでターゲット自らが動く仕掛けを考える必要があった。
 メディアミックスは「ターゲットにいかに効率的にメッセージを届けるかというメディア配分」であったのに対し,クロスメディアは「ターゲットを動かすためのシナリオ(導線)づくり」だという。これだけだとよくわからないので,さらに電通の定義を読むともっとわからなくなる(!)ので,ここでは引用しない。
 とりあえず,前者がプロダクトのアウトプット戦略であり,後者がユーザー目線のインプット戦略としておこう。そこで,次回もう少し具体的に検討してみよう。