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前回からの続きだが,著作権問題は幅広く奥深い。時間に限りのあるパネルディスカッションなどで「デジタル時代の著作権」を正面から取り上げれば議論は拡散しかねない。そこでデジタル雑誌国際会議での討議では,冒頭にあたり3つの視点で議論を限定した。
 1つはデジタル化である。長年,印刷技術と紙の物流によって成立してきた雑誌メディアが,デジタル雑誌というコンテンツに変化しつつある。紙というパッケージの中で安定的に流通してきた著作権契約がデジタル時代にどのような変更を迫られているのか,あるいは暗黙に行われていた商慣習で顕在化した問題はないだろうか。
 2つめは国際化である。各国の著作権法はベルヌ条約により国際的協調が図られているものの,法は国内状況に依拠して制定されている。その及ぶ範囲も当然国内限定である。一方,インターネット世界に国境はなく,著作物は世界中を流通し取引されている。デジタルコンテンツの国際化とはインターナショナル(国家間)ではなく,グローバル(世界的規模)なのだ。世界市場のデジタル雑誌では,各国法の差異や商習慣を越えて契約する必要がある。
 3つめが著作権をビジネスに役立てる視点である。現在,デジタル時代に著作権はどうあるべきか,法改正論議についてさまざまな議論が交わされている。なかでも制限規定の見直しやフェアユースの導入,保護期間の延長など議論はつきない。
 しかし,この会議は法改正を議論する場ではない。現状の法制度の下で,どのようにビジネスを行うか検討する場である。

著作権セッションの報告

初日のセッションの1つである「デジタル時代の著作権」の司会を担当した。発表者は米国メルディス社ジョン・ツィーザー法律顧問と,台北で遠流出版社を一代で築いた王榮文会長,そしてかつて新潮社の電子出版を担当し,現在は弁護士としても活躍する村瀬拓男氏である。
 はじめに村瀬氏は,デジタル雑誌の著作権について課題整理をした。1つは時間軸の変更である。月刊誌や週刊誌であれば次号が刊行されるまでの著作権使用契約である。カメラマンもライターもその範囲であれば契約書を結ぶ必要を感じていなかった。ところが,権利者が提供したコンテンツをデジタル化すれば,週や月という単位に関わることなく流通販売されることになる。時間軸が半永久的になるわけで,権利者はおいそれと契約を結ぶことはできない。
 もう1つは,雑誌に掲載された写真や文章は,その号のために作られたコンテンツだった,という点である。ところが,写真をデータベースに保存しておけば,素材として再利用可能となった。そこで新たな契約モデルを示す必要があるとした。
 ツィーザー氏はデジタル事業の中で著作権管理として注意すべき点を取り上げた。そして成功する著作権管理へのステップとして,戦略目標の決定,契約の標準化,契約管理の中央集権化,法令順守の確保の4点を指摘した。写真に関してメルディス社では,一度の使用料で何度でも再利用化な契約を結んでいるという。
 また,王会長はサイエンティフィック・アメリカン(SA)誌の中国語版のデジタル雑誌化に取り組んだ事例を紹介しながら,SA誌と遠流出版社双方にとって実のある関係となったライセンス戦略について発表した。

著作権はビジネスのアクセル

デジタルビジネスを推進する際に「著作権が問題である」という発言を多く耳にするが,本当に現行著作権法はビジネスの阻害要因となっているのか。パネルディスカッションでは,著作権をビジネスの有効手段として討議することができたと思う。まとめとして,著作権をデジタルビジネスのブレーキにせずアクセルにしようと呼びかけた。