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第1回アジア太平洋デジタル雑誌国際会議が国際雑誌連合(FIPP)と(社)日本雑誌協会(雑協)の主催で,2008年11月13日,14日の2日間,虎ノ門のホテルニューオータニで開催された。
 参加費がひとり20万円と高額なこともあり,雑協加盟出版社向けに会場に近い文藝春秋西館をサテライト会場として,同時中継も行われた。集客が心配されたが,雑誌の危機感がむしろ追い風となったのか,サテライト会場を含めると1136人,海外からは144人の参加となった。
 アジア地区では第1回のデジタル雑誌国際会議であるが,欧米においては2008年3月にドイツベルリンで第2回世界デジタル雑誌会議が開催されている。アジアを中心とした同会議についても,以前からFIPPが日本雑誌協会に開催を求めてきていた。その準備も兼ねて日本から視察団が組まれたが,参加したメンバーは欧米での積極的な取組に刺激を受けて帰国した。

欧米の雑誌出版社

日本で雑誌出版社は講談社,小学館,集英社に始まる大手出版社であり,事実上,雑協は大手出版社協会である。強力なマンガコンテンツを持つことからケータイコミックに取り組んでいる社も多く,既存の雑誌ブランドを生かしたデジタル雑誌なども試みている。
 一方,欧米においては,雑誌を書籍と同じ出版物としてではなく,新聞とともにニュースメディアとして位置づけている。そのため雑誌出版社は新聞社も傘下に置くメディアコングロマリットに属する巨大企業が多い。経営規模も日本の比ではなく,当然デジタルメディアへの投資額も大きい。
 日本では編集者が取り組むデジタル雑誌が多いが,欧米雑誌出版社にとってネットビジネスは経営判断によって行われる新規事業なのである。

日本も本格化対応

欧米に後れを取ったが日本の雑誌出版社もデジタル化に本格対応している。今やデジタルビジネスへの参加に疑いを持つ者はなく,むしろ乗り遅れたら雑誌は生き残れない,という雰囲気すら会場には流れていた。その認識については欧米やアジア諸国と日本に違いはないし,報告者と参加者の間でも共有されていたと思う。
 一方で,日本と欧米ではデジタル雑誌における戦略の違いも明らかになった。デジタルビジネスでは,ユーザーの要望をいち早く反映することができる。そこで欧米のメディア企業では,マーケットイン(顧客志向)に徹してサービスの向上を図っている。アジアも追随しており,韓国出版社ではデジタル文化に精通した人材を採用してデジタルビジネスに取り組んでいる。従来の印刷メディアの延長ではとらえていないという。
 一方,日本では,デジタルコンテンツにも雑誌編集者のこだわりを反映させている。講談社では人気女性ファッション雑誌である「ViVi」ブランドを使ってネット通販を行っている。その際,カタログ通販と差異化を図るため,あくまで編集者がセレクトした雑誌掲載の商品しか販売していない。個性的で強力な編集方針を打ち立てたプロダクトアウト型(作り手発想)の取組みによって,ブランドを維持しようとしている。その存在が通販カタログとファッション雑誌の違いを作り,ひいては印刷物と出版物の間に線引きをしてきたのである。
 出版活動は歴史的な成立の違いもあって,各国で商習慣も異なり独自の手法が存在する。プロダクトアウトとマーケットインのどちらが正しいという問題ではない。しかしデジタル雑誌ビジネスで問われているのは各国出版文化の違いではなく,伝統的出版とデジタル文化の違いである。
 デジタルコンテンツを国際市場でとらえ直した場合,戦略ミスは致命的ともいえる。早急な結論は出せないが,今後の検討材料としたい。