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4月26日(土)に日本出版学会春季研究発表会が開催された。午前中には二つの分科会で個人研究発表があり,午後は特別シンポジウム「デジタル時代の図書館と出版」をテーマに,長尾真国立国会図書館長の基調講演「デジタル図書館サービスと出版界」とパネルディスカッションが行われた。

分科会発表

分科会の一つは来月のIPAソウル大会とあわせて開催される国際出版フォーラム(連載111回参照)のプレ発表である。僕も「出版振興政策と著作権法改正論議にみる出版社の役割」と題した発表を行った。プレ発表であるから本来は韓国での発表通りでよいのだが,いくつかの理由があって修正することにした。
 一つの理由はIPA大会に関連して,光州市で大学出版部協会三カ国セミナーが併催される。そこでも発表することになっていて,演題は「各国著作権法における教育関連制限規定の比較分析とデジタル・ネットワーク社会での課題」である。このときはデジタルアーカイブに関連して補償金制度導入の意義についてとりあげる。そして国会図書館によるデジタルアーカイブは官立の情報流通システムであって「自立的情報流通システム」である出版流通を時には脅かしかねない,と懸念を表明する予定である。これが午後のシンポジウムテーマに関連するので,付け加えることにしたのだ。

刺激的長尾試論

午後の基調講演は長尾真国立国会図書館長である。これが出版人や関連メンバーに極めて挑発的な内容を含んでおり,注目されることとなった。おかげで例年以上の一般参加者を数えることになった。
 長尾真氏は,昨年,民間人として初の国立国会図書館長に就任した。平成9年より6年間にわたり京都大学総長をつとめており,もともとは機械翻訳,つまりコンピュータによる言語処理で評価の高い研究者である。京都大学図書館長時代に電子図書館に取り組んで先駆的な成果を上げ,これが縁で日本図書館協会会長をつとめるなど図書館人のイメージもある。ただ,ライブラリアンとして経験があるわけでなく,本に対しては情報の固まりといったとらえ方をしがちである。
 長尾氏の発想の原点に研究型図書館があり,すべての本を電子化することで利用率が高まるといった技術決定論があることは当然といえば当然なのである。
 民間利用が中心で絵本や実用書の並ぶ公共図書館と,理工系の洋書購入費が予算の半分以上を占め,その多くが電子ジャーナルである大学図書館では,同じ図書館と言っても実態に差がある。
 そもそも図書館に勤めたくて司書になった人たちは,紙の本が大好きである。出版人も紙の本が好きな人が多いが,市場動向に敏感な分,電子出版には一定の理解と不安を感じている。そこに昨今注目の長尾氏が直接デジタル図書館構想を語るために登壇したのである。注目されないわけがない。
 まず,議論の前提として「音楽配信がCDの売上を超え,映像,本,新聞などのコンテンツもダウンロード課金に移行する」とし,紙資源の節約や情報技術の進展をあげている。その結果,学術情報や新聞の電子化が進行するとしている。
 さらに本や雑誌について「使いやすい端末が出てくれば雑誌はほとんど電子的に読み,冊子体のものは使われなく」なり,「本も一回読むだけなら電子本」がよいし,「ダウンロードした頁数により課金」するようになるという。京都弁のアクセントが残る穏やかな口調ながら,話が進むほど内容は刺激的になってきた。さらに,新たなビジネスモデルの提言と続いていく。
 論じている方向性に間違いはないだろうが,実現可能な将来をいつに設定するか,という問題がある。パネルディスカッションでの成果については,次回に報告。