科学技術と教育を出版からサポートする

国立国会図書館がデジタルアーカイブ事業に取り組むことが話題となっている。このデジタルアーカイブについては,昨年末,文化審議会著作権分科会「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」でヒヤリングによばれ発表する機会があった。

電子出版への影響

保護期間の延長に対し,デジタルアーカイブ事業への支障や膨大な孤児著作物を生み出すことへの懸念が寄せられている。一方,著作権の追跡データベースを作り,権利者の自由使用に対する宣言を確認して対処すべきという意見もある。
 デジタルアーカイブによって著作権の円滑な流通を検討するならば,従来,出版社が印刷メディアによって果たしてきた情報流通の役割を再評価すべきである。
 そこで電子出版ビジネスへの影響について,何かしゃべれと言われたのである。もちろんデジタル革命の進展によって印刷出版物の相対的価値はますます下がるし,その市場規模も宿命的にシュリンクしていくだろう。
 その際,出版の世界で守るべきものは会社組織や産業ではなく,表現の自由であり,人々の知る権利を守る活動なのだ。この活動にかかわるからこそ,出版社の存在意義がある。

生成・流通・販売サイクル

出版活動は,印刷による複製技術と物流による頒布を基盤としている。そして情報の「生成・流通・販売サイクル」の一つとして,生成加工を行っている。この活動は読者が対価を投資するのに見合った作品とするために,信頼性付与を行うことでもある。
 デジタル出版は,デジタル複製とネット流通を基盤とすることでローコスト化したが,コンテンツは一般に思われているほど安くはならない。それは人間の知的活動による情報生成が,コスト的に相変わらず大きなウェイトを占めているからである。そして,この著者による「生成」を支えているのが出版社なのである。
 また,この出版サイクルは出版業界と読者のコスト負担による自立的システムである。歴史的に見れば出版界は国家の庇護を受けることなく,ときには弾圧を受けながら活動を続いてきた。紆余曲折はあるものの,表現の自由を確保するために時の権力者,為政者の影響を排除してきたのである。
 一方,図書館が担ってきた蓄積は,このサイクルにおいて販売とは別の流通ルートを形成している。図書館は誰でもが情報にアクセスでき,国民の知る権利を担保する役割を担っている。つまり現行の情報流通システムは,出版界と図書館という二つのルート持っていることになる。

デジタルアーカイブと出版

するとデジタルアーカイブは必ずしも従来の蓄積だけを意味するのではないことになる。ネット上にアーカイブされれば,運用によっては誰でもが自由に情報を入手できることになる。もちろん,それでは著者の知的生産活動や出版システムが成り立たなくなるので,なんらかの利用制限か補償金が求められることになる。
 このように図書館活動の延長上にあるデジタルアーカイブは,ネットを利用した流通システムでもある。学術情報流通では互いに相手を補完する存在として活動してきた出版界と図書館であるが,今,役割分担の見直し時期を迎えたのかもしれない。
 ただ,利用に対価を求めないアーカイブにより情報流通量が増大し,出版システムの流通量が減少するだろう。このアーカイブを維持する運営費は,行政予算や大学機関などの外部から求められることになる。結果的に情報流通システムが読者の支配から離れ,他者依存が強まる懸念がある。依存した先の意向によってコントロールを受けたり,影響を受ける可能性があることについて注意しておきたい。