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国際出版連合(IPA)の世界大会が,今年の5月12日から韓国ソウルで開催される。IPAは1896年に設立され,現在61の国と地域における出版協会で構成されている。世界大会は4年に1回開催されており,ソウル大会は1992年インドのニューデリー以来,16年ぶりアジア開催となる。その前のアジア開催は1976年の京都大会であった。
 韓国はアジアで最初にIPAに加盟したことを誇っている。それだけ日本に32年遅れで開催する大会をなんとしてでも成功させたいとこだろう。ソウル国際ブックフェアなど国内の出版イベントを同時開催して集客を図っている。
 とはいえ大会参加費は1200ドルと高額である。そこで日韓中の出版学会が隔年開催している「国際出版フォーラム」や,毎年開催の「日韓中大学出版部協会セミナー」はIPA大会と連携しての開催となった。まあ,どれにもかかわる僕としては好都合ではある。

韓国の出版振興政策

フォーラムとセミナーで発表することになっているので,韓国の出版振興政策を調べてみた。韓国では政府の支援を得て出版産業を盛り上げようとしている。そのためか出版政策や著作権がテーマとして設定されている。
 韓国では,2008年1月から「出版産業振興法」が施行された。これは時限立法の「出版及び印刷振興法」を改正して出版物の定価販売の堅持を図るものである。そして混乱する割引競争を鎮静化することで,出版産業の健全化をねらっている。日本の「文字・活字文化振興法」が理念的に読書振興をうたっているのに対して,韓国の政策は出版産業振興の具体策となっている。
 今回の改正の主な内容は,「オンライン書店に許容されてきた1割引をオンライン・オフラインともに1割の範囲内で割引販売が可能とすること」。「新刊の基準を1年を1年半に延長すること」。「現在の5年時限条項を削除すること」である。

日本の定価販売制度

日本では戦前から慣習的に行われてきた定価販売制が,1953年の独占禁止法改正により法の適用除外となり再販制度として確立した。戦後日本の出版界の発展が,この再販制と委託販売制の二つの制度に支えられてきたことは論をまたない。その後,1978年当時の公正取引委員会委員長による「再販見直し発言」にはじまり,2001年の再販制「当面存置」と決まるまでの長い間,出版・新聞業界と公取委の間で議論が続いてきた。
 現在では,再販制度の弾力的運用が進められているものの公正取引委員会の思惑通りに非再販本の流通は拡大してはいない。むしろオンライン書店や大型専門店でのポイントサービスが再販契約に抵触するとして,書店団体から牽制する動きが出るなど,業界全体では定価販売堅持が続いている。

韓国における割引販売競争

割引販売で急成長したアマゾン・コムですら,日本ではポイントサービスにおいて後続となっている。いわゆる「中抜き」による割引販売競争が,eコマースの急成長を支えたにもかかわらず,それが日本では本の定価販売制度を崩すことにはなっていない。
 仮説なのだが韓国には国民全体にネット先進国の自負があり,世論がネット割引販売を要求し,制度的に強く支持したことが考えられる。
 これに対して日本では,ネット世論が若者中心に形成されており,少なくとも出版物の割引販売が国民世論の形成に至らなかったのではないか。むしろ中高年層が抱いている若者の活字離れに対する危機感が,出版・新聞のメディアキャンペーンによって増幅され,読書推進の国家政策を支える世論となったようだ。
 仮説をめぐって韓国出版人と意見交換するのが楽しみである。