科学技術と教育を出版からサポートする

京都府八幡市の全市立中学校4校が「ニンテンドーDS」を使った英語学習を始めた。テレビや全国紙でも取り上げられたので,記事を目にした人も多いだろう。
 八幡市教育委員会が昨年9月から5ヶ月間,1校で試行したところ,平均で語彙が約4割増えたという。そこで今年5月から2年生を対象に本格導入することになった。市教委は「百ます計算」で名をはせた陰山英男(現在は立命館大教授)が主宰の「学力向上サミット」に参画している。
 初日の5月21日に実験に協力した池田真准教授(上智大英文学科)や陰山英男教授が参加して,教育関係者に公開されたことが一部で報道された。

実証実験の成果

利用されたDSゲームは市販されている「中学英単語ターゲット1800DS」である。脳トレブームに始まるDSゲームの一つなのだが,この報道をきっかけにアマゾンではゲームにおけるベストセラートップテンにいきなり登場している。ただ,報道によって知ったのだが,このゲームは市教委職員が3年前に開発メーカーに提案したものだという。
 池田准教授の論文でもあれば実証実験の詳細がわかるのだが,ウェブ検索の限りでは見つからなかった。いくつかの新聞報道を読むと,昨年は3年生49人をグループに分けして,授業冒頭の約10分間に利用している。
 この結果,生徒の語彙数は,1人あたり1〜2組(計24人)で1025から1386(35.2%増)に,3〜4組(計25人)が1013から1436(41.8%増)に増加した。グループ分けの基準がわからないが,英検3級が語彙数1300以上だそうで,このレベルに達したことになる。普段ゲームをやる生徒とやらない生徒の違いや,もともとの成績の違いなど分析してみたいテーマは多い。
 余談ながら,授業を弾力的に運用し,短時間の集中学習を行うことを「モジュール学習」と呼ぶ。文科省の「学習指導要領」にも取り上げられているが,「朝の読書運動」も含まれるのだろう。
 生徒の9割が「楽しかった」と答えたというが,それはそうだろう。市教委は,国の支援を受けてゲーム機600台を購入した。ゲーム機ではなくトレーニングマシンととらえて,積極的に取り組むという。「ゲーム&ウォッチ」を学校に持ち込んで没収されたことのある世代は,今や30歳代だろうか。時代は変わったと驚かれるのではないだろうか。

シリアスゲームとは

森昭雄『ゲーム脳の恐怖』(NHK出版,2002)がきっかけとなり,ゲームをやりすぎると脳に悪影響が出るとした「ゲーム脳」が話題になった。疑似科学として批判されたことも記憶に新しい。この論争が一区切りついた頃から,ゲームのマイナス面」だけではなく,積極的にプラス面に注目した科学的研究が注目され始めた。
 このような娯楽を目的としないゲームのことをシリアスゲームと呼ぶようになった。シリアスゲームジャパンのサイトによると,シリアスゲームとは「公共政策,ヘルスケア,教育,経営等の多様な社会問題に対応するゲームまたはゲーム技術とその活用」とある。
 この定義を見てわかるように,実は以前から取り組まれている分野である。軍事訓練用の戦争シミュレーション,医療分野における治療シミュレーションがあり,さらには教育におけるeラーニングなどもシリアスゲームの視点からとらえることができる。
 出版社もこぞって学習ソフトを開発している。考えてみれば,当たり前なことだ。マンガだって,かつては悪影響しか指摘されなかったが,学習マンガはどの書店にも並んでいる。同様に,「桃鉄」で地理を,「信長の野望」で歴史を知らず知らずに学んでいるのだ。経営や音楽に加え,積極的に漢字も英語も学べる有効な手段である。