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ケータイ小説のブームは一過性のものなのか,それとも新しいジャンルとして定着するのか。いずれにしてもケータイ小説ブームは始まったばかりで,よくわからないことが多い。なかでもわからないのは,「ケータイで無料で読める小説なのに,書籍化するとベストセラーになること」である。さらに言えば,問題は「無料で読めるから」だけではなく,ケータイ小説の「文体やスタイル」にもあるはずである。
 前回も書いたようにケータイ小説は,携帯電話という読書装置の特性に最適化されたコンテンツである。一画面表示が百字未満の小さなケータイ画面で,テンポよく読めるように会話主体でセンテンスは短くし,登場人物を少なくして筋は単純である。それを前送りだけで読むから興味が続くのである。それを見開き千字以上の紙面で読んでおもしろいだろうか。
 「話題だから売れる」とは限らないのである。ケータイ小説の中心世代は中高生であり,書店に行ったこともない若者たちである。彼らはおしなべてケータイリテラシーが高い。手で書くより早くテンキーで文字を打ち,ケータイ画面で文字を読むことのほうが,紙で読むより多いのである。
 なかには「文字しかない本を読むと頭がクラクラする」とまで言う子がいる(学生からこのセリフを聞いたときは,こっちの方がクラクラした)。

ケータイ小説ブームの特徴

ケータイ小説の特徴について,もう一度まとめてみよう。ケータイ小説が注目されたのは2000年に連載開始した『Deep Love』であり,さらにケータイ文庫と内藤みかにより,読者層が広がったといってよい。
 しかし,今日のように「ずぶの素人による小説のようなもの」が爆発的に広がったのはケータイコミュニティサイト「魔法のiらんど」の功績が大きい。同サイトからの書籍化は,第1号が2005年10月発売のChaco『天使がくれたもの』であり,今年の2月までに16タイトルが書籍化されている。その発行部数合計は500万部を超えたという。
 こうなると出版社各社は「魔法のiらんど」サイト内で,つぎの金脈探しに血眼になってくる。さらに自らケータイ小説サイトを開設するのに大わらわである。
 ベストセラーは都心の書店で動き始め,テレビや雑誌が取り上げることで地方へ波及するのが一般的である。しかし出版業界紙『新文化』(3月15日号)によると,ケータイ小説は「都市部と地方の販売動向にほとんど差がない」という。ケータイサイトで発売日を知って買いに走ることから,極めて短期間にベストセラーになるのである。 

ケータイの親近感

内藤みかさんに「ケータイ小説書く際に意識していること」をメール質問したところ,「読者との心理的距離を非常に近くにおいてます。親友のようなつもりで書いてます。メールに類似したノリを意識しています」と返事をくれた。親友へ携帯メールを出すように書く,というのである。
 携帯メールの文体が親密感があることについては,言語学者の三宅和子が「書きことばである携帯メールのメッセージは,「まるで話しているようだ」と評されるほど,話しことば的」であるとした上で,「携帯メールのコミュニケーションが,若者にとって快い距離と親密感を作り出している」と指摘している。
 ケータイメディアならではの文体がケータイ小説にも影響を与え,さらに読者から親しみを持って受け入れられている。同様な指摘として「今の若い世代は,友達の日記を読むような感覚でケータイ小説を読んでいる」(前掲新文化)とある。しかし,その特性のため「上の層に広まらず」ブームは収束するかもしれないという。
 ケータイ小説ブームと市場動向について次回も取り上げる。