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オンデマンド出版がブームとなったのは90年代末から2000年にかけてである。当時は出版界の十大ニュースに入るほどあった。
 現在,オンデマンド出版は,少部数印刷の特徴をいかして,㈰絶版本の復刻,㈪自費出版,㈫学位・博士論文の出版があり,データの可変性をいかして,㈬教科書のカスタム化,㈭受講生にあわせた教材のカスタム化,㈮弱視者向けの大活字出版,㈯書店店頭などでの出版サービスなどがある。日本では一定の評価は得たもののニッチなシステムである。

本の電子化と図書費

しかし,欧米での利用をみると別な様相がある。大学向けに教科書学術書の電子データを提供しているProQuestのXanEduやBlackboard-WebCTのコースパックでは,データベースを構築し,データ提供か,オンデマンド印刷かを任意に選択できるシステムとなっている。学術出版社も積極的に本を電子化し提供している。
 またランダムハウスなど大手商業出版社も書籍本文のページビューサービスを発表した。ここまで図書が電子化されているならば,電子ジャーナルを前例とするまでもなく,日本の図書館が利用契約を結ぶのは時間の問題である(すでに準備は始まっている)。
 日本の図書館は相変わらず紙の本の館,というイメージがある。しかし雑誌について言えば,これは正しくない。意外に思われるだろうが,日本の公共図書館の総資料費の 354億円(うち図書277億円)に対して,大学図書館の総資料費はその倍以上の771億円である。そのうち外国雑誌が300億円弱。なんと,この外国雑誌購入費の多くが電子ジャーナルなのである(土屋俊千葉大学附属図書館長の講演資料より)。
 日本でも著作権処理された電子図書の提供が始まれば,電子ジャーナル同様にオンライン利用が主流となる。ただし,その際,図書館利用者の中には紙の本を手元に置きたい人もいるだろう。そこで図書館カウンターでは要望に応じて図書データをもとにオンデマンド出版したらどうだろうか。これは複写サービスの延長となる。電子図書化を背景に「オンデマンド出版第二次ブーム」が期待できるのだ。

検索サイトが促す本の電子化

では,遅れている日本の電子図書化は急速に進むのか。進むのである。その理由は出版社や図書館の努力ではない。アマゾンとグーグルの競争がもたらすのである。
 アマゾンは本文全文検索の「なか見!検索」を国内出版社に強力に働きかけており,さらにネットで必要なページだけを購入できるプログラムを発表している。
 グーグルも巨大な資金を投入して,「なか見!検索」に対抗したサービスである「ブックサーチ」の準備を国内で始めている。
 大学図書館は,OPACを公開し館外から蔵書検索を可能とした。今では検索結果で蔵書が確認できれば,予約や複写を依頼してから図書館に行くようになった。しかしOPACが図書館という〈場〉に人を誘導するのは,まもなくピークを迎え,そして急速に終わることだろう。
 本が電子化されれば,いつでもどこでも入手可能となる。本の提供は図書館だけの専売ではなくなった。巨大検索サイトの開発速度,投資額,ユーザー数のいずれをみても変化は目の前にある。
 これまで図書館人にとって図書とは〈紙〉の本のことであり,多少誇張して書けば,それは常に静謐さが要求された〈場〉に置かれる〈物〉として長く存在してきた。しかし今では図書館が〈物〉の保管された〈場〉であることはノスタルジアに近い。
 電子図書化が進めば,図書館の本は,データーサーバーからオンデマンドで作り出されたときに〈物〉として存在する。そしてオンデマンドで〈物〉を生み出す〈場〉として,図書館は存在できるのである。