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前回,メディアの未来予測フラッシュムービー「EPIC2014」について取り上げた。ここに描かれたネットの未来観や新旧メディア間の勢力図が,マスコミやメディア関係者の間で話題となった。
 ネット文化の申し子とも言えるブログでは,好意的なフォロー発言が続いていた。賛同的な発言が多いこと自体が既存メディアへの批判にもなっている。

21世紀のユートピアか?

では,本当に「EPIC2014」というストーリーで作者が言いたかったことは,ペーパーメディアの終焉なのだろうか。
 言うまでもなく新聞を配達するのも書店で本を販売するのも人である。一方,アマゾン・コムのリコメンドシステムにしても,グーグルの検索エンジンにしてもコンピュータの処理にすぎない。両者の合併によるグーグルゾンが提供するEPICは,コンピュータそのものによる巨大サービスだ。人々の消費行動や趣味は管理され,発言は中央集権的サービスによってコントロールされている。
 物語は情報メディアの主役交代を描いたのではない。むしろデジタル技術信仰や妄信的なネットワーク主義に対する警告ととらえるべきである。
 コンピュータが支配する未来社会を描いたSFには,『2001年宇宙の旅』をはじめ数多くの名作がある。当時のコンピュータはメインフレームと呼ばれたように,1台のコンピュータですべてを処理する中央処理システムである。そのシステムが中央集権による支配的印象を連想させ,作家たちにコンピュータのディストピア作品を書かせたのかもしれない。
 一方,ネットワーク社会は分散処理システムであり,民主主義的な印象がある。インターネットの登場した90年代では,ネット社会がユートピアのように語られもした。では21世紀になってネット社会の理想は実現したのだろうか。

ネットワーク社会の光と影

マスメディアは権力の監視機関といわれているが,そのマスメディア自身も「第4の権力」と呼ばれている。そこでブログに「第4の権力」に対する監視するジャーナリズム機能が期待されている。しかし,ネットワーク社会は草の根民主主義的社会システムを必ずしも実現するのではなく,プライバシーを脅かすシステムであることを忘れてはいけない。
 2014年という数字は,明らかにジョージ・オーウェル最晩年の代表作『1984年』を意識している。この20世紀ディストピア小説は,実際の1984年にオーウェルブームを引き起こし,管理社会への警告として再読された。おわかりのように巨大情報処理システムであるEPICは,“ビッグブラザー”なのである。
 そういえば著しいプライバシー侵害を行った組織を表彰する不名誉賞に『ビッグブラザー賞』がある。毎年恒例の同賞は,オーウェルの母国イギリスの監視団体『プライバシー・インターナショナル』が発表している。
 今年の有力候補にグーグルの無料電子メールサービス『Gメール』がにノミネートされていた。ターゲット広告を提供するためにユーザーの個人的なメッセージの内容を調べているとされ,プライバシー侵害行為として強い批判を浴びたのである。
 さらにグーグルの書籍本文検索サービス「GooglePrint」にも批判が寄せられている。5月には米国大学出版部協会から,公開質問状の形をとって著作権に対する危惧が表明された。
 書籍本文検索サービスとしてはアマゾンが先行していた(連載62回参照)。グーグルはさらに大学図書館所蔵の本を検索できるように開発したのである。知識の生産,流通,蓄積は多くの人々の手によって営まれている。それをアマゾンとグーグルは一元的に管理しつつある。