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この1年間,電子出版の話題は,リブリエ(ソニー)やΣブック(松下電器)といった読書専用端末を中心にめぐってきた。ただ,読者から見ると読書専用端末の登場が,多様な電子出版を限定的にしてしまった気がする。電子書籍を読むために,どれほど専用端末が必要とされているのだろうか。
 日本で電子出版が話題になっておよそ20年。この間,数々の電子出版プロジェクトが立ち上がり,文字情報を流通させるビジネスの成立をめざしてきた。コンテンツの制作,ダウンロードサイト,ビューワー開発が試みられ,ハードメーカーが専用端末を開発したことで技術的な向上もあった。
 しかし,改めて言うまでもなく僕らは膨大な文字量をパソコン,PDA,ケータイのディスプレイで読んでいる。そのディスプレイもCRT,モノクロ液晶に始まり,カラー化,高精細化と進化してきた。ディスプレイが読みやすくなったのはありがたいが,それ以上に必要に駆られてデジタル文字を読んできたのである。
 そのうちの何%かは従来なら紙で読んだであろう文字であり,何%かは紙に打ち出して読まれてもいる。ビューワーソフトはディスプレイに表示された文字を読みやすくしてくれた。その功績を忘れるわけにはいかない。

ボイジャーの試み

文字を中心とした電子書籍のビューワーといえば,T-Timeがある。開発元でもある(株)ボイジャー(萩野正昭社長)の歴史は,日本における「本とコンピュータの出会い」を提供してきた歴史でもある。米国ボイジャー社がMacのハイパーカードをベースに「エキスパンデッド・ブック」を開発し,それに魅了された萩野氏が日本でボイジャーを立ち上げたのが1992年である。
 当時,萩野氏は「エキスパンド・ブック」のインターフェースを「ユーザー・ドリブン」と表現していた。著者や出版社が決めた読み方ではなく,読者が思い通りのレイアウトに変更して読める,といった意味である。
 この思想は1998年にリリースしたT-Timeに引き継がれた。アンチエイリアスのかかったフォント表示が可能で,ルビや画像,背景などを設定して読みやすい表示を行うビューワーである。電子書籍販売サイトなどでドットブック形式のファイルを購入するだけでなく,テキストファイルやウェブページの文章も縦書き,横書きの切り替え,フォント変更,行数文字数,段組など自分流のレイアウトで読むことができる。

T-Time5.5の新しい読書体験

そのT-Timeの最新版(5.5)に身近な液晶ディスプレイを使って,いつでも読書が可能になる機能が追加された。携帯電話やPSP,iPod photo,デジタルカメラなど,さまざまな液晶デバイスへ対応したものである。これで入手した電子書籍を身近なデバイスに書き出し,好みの行数,文字数,解像度で楽しめるようになった。
 確かにボイジャーが言うように「ディスプレイがあるデバイスならなんでも読書端末になる可能性」がある。そこで読書装置とするには最低限必要なインターフェースとして,ページの送り戻しや栞とかがあればよい。
 携帯電話など多くの液晶デバイスにはデジカメ撮影した画像のビューワー機能が共通にある。この画像ページの送り戻しができる機能を利用して,書き出すデバイスの画像に合わせてページごとに連番のJPEGファイルを作成する。このファイルを順番に表示させて閲覧するのである。
 今のところ電子書籍販売サイトのコンテンツの多くは,複製防止のため,この機能に対応していない。ただ画像にメタ情報が埋め込まれ,独自の電子透かしも組み込まれている。
 電子書籍の読書が,また一歩読者に近づいた。