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韓国に巨大な出版団地が出現した。ソウル市から西北に40kmほど離れた坡州(パジュ)市に建設されている「坡州出版文化情報産業団地(パジュ・ブックシティ」だ。47万坪,東京ドームのおよそ33倍という巨大な敷地に出版社,印刷会社,流通センター,ソフト企業に加え,首都圏最大規模の大型ショッピングモールやホテルが集まる世界に類をみない規模の出版団地である。なかには日本でも人気のパフォーマンス集団「NANTA」の専用劇場もある。
 坡州出版団地組合は「アジア出版文化情報センター」を主会場に,昨年秋のオープニングに引き続き今年も「坡州子供の本フェスティバル」(10月15~19日)を開催した。プログラムの一つである「日韓出版交流セミナー」では,日韓の出版人が児童書や共同出版をテーマにパネルディスカッションを行った。
 日韓両国の企画者やパネリストに友人らが多くかかわっているので,ブックシティの見学を兼ねてセミナーに参加してきた。

「出版都市」の全容と経緯

ソウル市内に点在している中堅出版社を中心に,現在,自社屋43社,テナントとして入った42社の合計85社が移転をすましている。2年後には160社前後まで拡大し,最終的には500社を見込んでいる。意匠を凝らした4階建ての本社ビルが30数人の社員という。羨ましい限りの環境である。
 7月から韓国最大取次ブックセン(BOOXEN)の物流センターが稼働した。1日の最大出荷量44万冊,保管量が3300万冊はアジア最大級である。さらにショッピングモールや映画館9館,劇場3館が完成し,今年で第1期工事を終えることになる。引き続き第2期工事に入り,従業員の住宅地区や情報ソフト企業地区の整備を続け,企業合計でおよそ1000社が集まることになるという。
 団地はソウル市よりも「北」に近いため,かつては民間人の出入り制限があった地域にある。近くには軍事境界線が走る臨津江に臨む「統一展望台」があり,河畔の道路からも北朝鮮がはっきり見えた。南北の緊張緩和に伴い,大規模土地造成が許可され,さらに政府の文化育成策を背景に,首都近郊ながら大規模な土地が入手できたのである。
 とはいえ,構想が実現したのは発起人である李起雄氏(悦話堂代表)の15年にわたる,心血を注いだ活動があってのことである。
 美術書出版社を経営する李氏は,細身でいつも穏やかな笑顔を絶やさない人である。しかし,完成までの15年間,「あきれた夢想家」とまで揶揄されながら,不屈の闘志を秘めて事業と推し進めてきた。組合の結成,会員の募集,敷地所有者であった土地開発公社との交渉,軍への訪問など気の遠くなるような説得を続けた。それも彼に言わせれば「説得ではなく誠実さの力」の結実である。
 美術書出版人である氏の構想により,街は細部にわたり景観が統一され,建物は世界中の建築家により設計されている。

韓国の出版事情

韓国の出版規模(2002年)は23億ドル,アジアでは中国,日本に次いで3位であり,人口4800万人弱に比しては出版活動は盛んである。出版社は登録制で2万社近くあるが,1冊以上の出版物を刊行したのは1割にも満たない。発行点数では漫画の比率が高く,これに児童書と学習参考書を加えると,全体の半分近くを占めることになる。
 97年のIMF危機で減少するものの販売部数は持ち直している。日本と比較すると出版社の数に比べ書店は少なく2328店である。環境も厳しく,オンライン書店間の激しい競争により最盛期の10年前に比べ4割まで減少した。中小取次が乱立し直接取引も多い。
 流通ルートが複雑なことが,良書の出版を心がける李氏に出版都市建設に向かわせた背景である。