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ソニーの電子書籍端末「LIBRIe(リブリエ)」が4月下旬に発売となった。表示装置にはEインク社と凸版印刷が共同開発した電子ペーパーが使われている。先行して松下電器の「Σブック」も発売されており,価格はいずれも4万円前後と一般読者のあいだで普及をねらっている。
 すでにユーザーに受け入れられた情報家電では,高機能で低価格の製品が市場を制覇していく。それは実にわかりやすく開発目標の設定も簡単である。一方,電子書籍のような従来にない商品を展開する際,開発目標と市場投入のタイミングは難しいものがある。
 先頃,ビジネス機械・情報システム協会では,電子ペーパーの普及に関して,「平成15年度拡大する電子ペーパー市場と機械産業の取り組みについての動向調査報告書」をまとめた。詳細は6月9日に予定されているシンポジウム(http://www.jbmia.or.jp)や報告書に譲るとして,電子ペーパーのような新技術製品をどのように普及させるのか提案を紹介したい。
 新技術を核にした新製品・サービスの導入にあたっては,最初に「特徴を知ってもらうために独自性のアピール」と「将来を見通した設計」が大事である。特にプレミアム性を訴えることができれば,最初は低機能,高価格でもかまわないとしている。
 ちょっと考えると「最初は低機能,高価格」の商品が成功するとは思えないのだが,実は意外にも成功例は多い。その例としては,ソニーのエンターテイメントロボット“AIBO”やトヨタのハイブリッドカー“プリウス”がある。

技術が先か,ニーズが先か

初代のAIBOは,インターネットのみで発売され,3000台が20分で完売されて話題となった。スペックは4足歩行するということを除けば,ラジコンの自動車レベルだが価格は30万円強であった。
 仕事や生活に役立ちそうな機能は何一つないのだが,ロボットという未来を所有する夢を商品化して見せたのである。売れる製品数は数千台しかないことを逆手にとり,稀少性を演出することでプレミアム的な価値を与え,話題作りという点でも成功している。
 同様にプリウスのオーナーに対しては,環境に理解のある知的なイメージを売ることに成功している。高価格=高級車=高性能とは違ったコンセプトカーである。
 報告書では,このように先行事例研究を行い,高機能と低価格でいきなり普及をねらう商品展開とは,まったく正反対のプロセスを提案している。

ハイエンド商品としての投入

電子書籍のように,一見,出版の延長にありながら,まったく新しいコンセプトの製品技術が広く普及するには,技術の高機能化や価格よりも,社会的な要求の中で文化的なメディアとして利用されていくことが重要になる。このように考えてくると,ソニーや松下のの電子書籍端末のように,最初から普及機として投入するのではなく,付加価値を演出したコンセプト商品としての市場投入のしかたもあったのではないだろうか。
 先頃行われた東京国際ブックフェア2004の会場では,電子出版ビジネスに取り組む各社が出展していた。その中で東芝は新たに試作した高精細カラー液晶を搭載した電子書籍端末モデルを展示した。明らかに高機能高価格のハイエンド機をねらっている。
 確かに高精細カラー液晶には,開発現場でのマニュアル表示や設計図,研究所や医療現場での利用,電子図書館などでの高度なデータベース処理など,ニッチではあるものの必要とする現場が必ずある。それは価格を問わず購入する垂直な市場(バーティカルマーケット)とも考えられる。
 高くても売れる商品をねらって東芝が参入してくるなら,先行するソニーや松下とまた違ったアプローチとして,興味深い展開が期待できるのではないだろうか。