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毎年,2月号では「出版不況」から書き出すことが多い。というのも前年の出版販売額が発表され,相変わらず「マイナス成長の更新と長引く不況」が報告されるからである。2003年も1997年から続く対前年割れを7年連続で更新することになった。

図書館「無料貸本屋」論の貧しさ

不況が常態化すると話題性も乏しくなるのか,『出版ニュース』が発表した昨年の十大ニュースに出版不況はランクインしていない。一方,心も寒々しくなっていて,本が売れないのを人のせいにしたいのか,不況の元凶探しが盛んである。ブックオフなどの新古書店,マンガ喫茶,そして図書館がよくやり玉にあがっている。
 図書館については,ベストセラーの貸出が本の売り上げに悪影響を与えているというのが理由である。この「無料の貸本屋」論は,林望「図書館は“無料貸本屋”か」(『文藝春秋』2000.12)に端を発している。また,この何年かは三田誠広が貸出被害による作家への補償として公貸権を主張している。彼らの発言は社会的な影響力もあり,見すごすわけにはいかない(もちろん,図書館を支持する作家も多い)。

出版文化と出版産業の衝突

出版を文化ととらえるならば,その中心はいうまでもなく読者である。図書館が果たしている役割は大きく,著者や出版社は文化を形成する一員にすぎない。一方,出版は最古の産業でもある。出版社,取次,書店によって著作権市場を形成し,近代以降,生業としての著述業を育成してきた。
 公立図書館をめぐる批判は,出版文化と出版産業の衝突である。従来すみ分けられていた二つの立場は,読者を含む社会的な変化を背景に衝突をはじめた。もちろん長引く出版不況も要因だが,単純に景気がよくなったら解決するようなことではない。読者や産業構造の本質的な変化があり,新しい関係性を模索するプロセスとして摩擦が生じているのである。ただし,作家も出版社も図書館も「本の世界」の主人公であるという立場を譲らないために,議論はすれ違ったままである。

図書館貸出調査の意義

立場や背景が異なるものが同じテーブルについて議論するには,定量的な調査に基づく「数字」しかない。その点,日本図書館協会と日本書籍出版協会が合同で「公立図書館貸出実態調査」を行ったことは大きな一歩である。
 調査報告が発表された結果,マスコミは所蔵冊数や貸出冊数を中心に取り上げている。しかし,この調査をもとに一部ベストセラーの貸出数が多すぎるのか,複本数が適性か否か,は結論でることではない。まして出版物の売上げとの因果関係などわかりようがない。数字は一人歩きして報道拡散していく。その記事をもとにして,あたかも恣意的な数字であるかのような批判があるが,調査を否定できることではない。

今後に向けて

図書館批判の中心テーマが「出版物の売上げ」であることは確かである。著者や出版社の批判に対して,図書館からも「公共図書館は出版界の敵にあらず」(常世田良浦安図書館長)という論証もある。最初に敵対視したのは出版界ではあるが,敵であるとか,そうではないとする論の根拠が「売上げ」であるとするならば,そのような議論は終えるときである。出版活動の評価で,売上げは一つの尺度にすぎない。
 図書館をめぐる諸問題は「貸出に伴う補償金や公貸権の制度化,あるいは複本の購入冊数や新刊書の貸出期間の制限を求める意見」などに収斂されていくのではなく,時代の変化が表出した結果ととらえるべきである。出版社,図書館双方にとって読者の変化や社会の変容を知り,自ら変わるチャンスではないだろうか。