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9月9日に大手オンライン書店であるバーンズ&ノーブル・コム(Barnes&Noble.com)が,電子書籍の販売中止を発表した。
 バーンズ&ノーブル・コムはその名のとおり,アメリカ最大のチェーン書店であるバーンズ&ノーブルがアマゾン・コムの急成長に対抗して作ったオンライン書店である。これにベルテルスマンがアメリカBOL(ベルテルスマン・オンライン)を解散して一時資本参加していたが,最近,提携を解消した。リストラの一環として電子書籍販売の中止を決定したとも考えられる。
 余談ながらURLはスタート時のhttp://www.barnesandnoble.com/が長すぎるのでhttp://www.bn.com/とし,さらに多額の費用で買収したhttp://www.book.com/もある。メディアコングロマリットであるベルテルスマンと組んでも何をやっても,オンライン書店での出遅れは取り返しがつかなかった。
 ダニエル・ブラックマン副社長は「予想ほど売上高が伸びなかった」と説明し,小説などの一般書では「書籍と十分な価格差がつけられないこと」や「技術面での使いにくさ」を市場拡大の阻害要因にあげている。
 事実,アメリカの電子書籍市場は2003年上半期で前年比3割増とはいうものの,推定500万ドルどまりである(日経産業新聞2003年10月11日号)。
 年間で十数億円では市場規模はかなり小さい。これでは日本の大型書店単店舗の売上げにもならない。ちなみに単店舗で100億円の売上げを最初にあげたのは紀伊國屋書店梅田店である。

ジェムスターもすでに撤退

アメリカで電子書籍からの撤退ニュースは,今年で2件目である。6月18日,読書端末を孤軍奮闘して売り続けていたジェムスターが,販売中止を発表している。ニュースリリースには「困難な市場のもとでは販売継続は不可能」と正直に書かれている。昨年10月に行われたフランクフルトブックフェアでは,eブック総崩れの中で唯一の展示だったと聞くが,すでに低迷は伝わっていた。
 ジェムスターはテレビ録画Gコードの発明で巨額の富を築いたヘンリー・イェンが,全米最大の発行部数を誇る雑誌『TVガイド』ごと買収した企業である。さらにeブックの将来を期待して2000年1月に,eブックベンチャーの「ロケットブック」と「ソフトブック」の両社を買収した。
 当時,スティーブン・キングの新作がインターネットで配信され話題となった。バーンズ&ノーブル・コムがアマゾン・コムに先駆けて,いち早く電子書籍の販売を開始したのもこの年である。
 フランクフルトブックフェアの直後に,ジェムスターはメディア再編の巨大な波に飲み込まれ,ニューズ・コープの傘下に入っている。収益性を何よりも重視するメディアコングロマリットにあっては,不採算部門をたたむのは当然のこと。誰も買って読まないeブック事業からの撤退は,時間の問題だった。

逆風下にΣブック船出

バーンズ&ノーブル・コムから撤退を伝えるeメールニュースが手元に届いたのは10日早朝。この日,皮肉にも日本では,「電子書籍ビジネスコンソーシアム」の設立発表があった。松下電器,東芝のほか,イーブックイニシアティブジャパン,勁草書房の4社が代表発起人となっている。
 コンテンツの拡充や著作権保護技術,流通の確立などがうたわれているが,誰にもわかるように実態は,松下・東芝による“Σブック”コンソーシアムである。ライバル社の動きに対しSDカード連合が先手を打ったのであり,明らかにデファクトスタンダードの覇権争いとわかる。
 マスコミ操作が巧みだったとはいえ,“出版業界に標準化の動き”と報道した全国紙は,状況がちょっとわかっていない。