科学技術と教育を出版からサポートする

 日本のeBookはハードに引っ張られてコンテンツ開発が進んできた面がある。連載で教育の情報化を取り上げたのは、むしろ読者の変化こそが重要と感じていたからだ。今後の取組課題は、アメリカとの決定的な違いでもある、社会システムとして「著作権の交換市場」の不在がある。eBookの目指すところは、書籍というパッケージが解体され、もっと小さなコンテンツ単位で販売され収益を上げることにある。ネット配信ビジネスの成立要件として、小口課金やDRM(デジタル著作権管理)システムが挙げられるが、それを含むデジタル著作権の市場確立が重要である。
 学術、文芸著作物の著作権交換市場を担ってきたのは言うまでもなく「出版」である。出版をシステムとしてとらえると流通システムが注目されがちだが、社会システムとしてより重要なのは、著作物をお金に換える市場を歴史的に形成してきたことである。著作権使用料を著作物の利用者(読者)と著者が直接やりとりすることなく、著者へ使用料がわたるのが「印税システム」である。著者からすれば著作物を出版市場に預けることで、対価を安定的に得ることができる。紙の本の著作権交換市場を運営することで、出版界は成り立っている。
 一方、今年は新聞著作権協会の複写権センター(JRRC)参加など、著作物のコピーが話題となっている。出版界は「許諾のないコピーは不正行為である」といった議論をしがちであるが、むしろ積極的にコピーを著作権流通の一形態と捉らえてはどうだろうか。
 つまりコピー機の普及で著作権市場はより広範囲となったのである。個人利用以外にも教育現場と図書館がある。アメリカの教育分野では、大学でカスタム出版が盛んであるが、これは背景にCCCによる著作権処理システムがあり、教育利用での著作権市場が確立されているからである。
 出版社から見てコピーで著作権収入があるということは、見方を変えれば書籍が解体され、ページ単位で販売されることである。出版人に抵抗感もあるようだが、これこそeBookの目指すところと一致する。デジタル技術によって興隆を迎えたカスタム出版は、まさにeBookの揺籃期なのである。
 なお、図書館では公共貸与権が話題であるが、これも含め広く著作権流通システムの枠組みで議論するべきではないだろうか。
 残念ながら日本にはJRRCを設立したときに、著作権市場を育てるという意識が欠落していた。JRRCは当面、1ページ2円の複写使用料を変えないようだが、これが正当な対価かと問われれば答えはノーである。さらに徴収対象がほとんど企業に限定されているのも著作権流通システムとして不完全である。
 JRRC理事でもある三浦勲氏(実践短大)によると、CCCの徴収額は100億円、対するJRRCは1・6億円。さらに世界のデータベース市場は6兆 4000億円で、そのうち日本はわずか約3000億円にすぎないという。コピー市場の存在がデータベース産業を出版市場規模まで拡大させた必要条件となっている。日本でもeBookをターゲットにコピー市場を確立する必要がある。
 コピー機の普及に続きインターネットの登場で著作権の交換市場が従来型の出版から離れつつある。デジタル環境でどう構築するか。出版界の生き残りをかけた積極的な対応が求められる。