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最近,文献複写の著作権問題が話題となっており,その結果,専門雑誌や業界紙,全国紙などマスメディアの誌紙上を随分とにぎわしている。従来からの自然科学系出版社の動向に加え,今回,話題を提供したのが新聞業界である。
 6月に新聞記事の著作権を管理する新聞著作権協議会(新著協)が設立され,7月18日に日本複写権センター(JRRC)の会員となった。新著協に加盟している新聞社は,朝日,産経,毎日,読売などの全国紙,共同,時事の通信社に地方紙を加えた61社である。
 ただ,日本経済新聞社は加盟しなかった。同じ18日に(勘ぐればかなり意図的に)日経は第一面で「新聞著作権の尊重を,記事の無断コピーは違法です」という社告を掲げ,結果的に一番大きな反響を巻き起こした。他社に先駆けて「日経テレコン」といったデータベースを育ててきただけに,自らの著作物は自らが管理する,というのが日経の姿勢なのだろう。

記事のクリッピングサービス

自社の業務にかかわる重要な記事や,顧客に対しPRに使える記事が新聞に載っていたとしたら,皆さんの会社ではどうするだろうか?「コピーして利用する」ことが多いのではないだろうか。
 記事を仕事で使うには,著作物の私的利用ではなく営利目的での利用となるから,当然,許諾が必要になる。しかし,いちいち新聞社に個別に許諾を求めるのは煩雑なので,著作権の集中処理機構と会社の間で事前に包括契約をすることになる。新著協が日本複写権センターの会員になったことで,長年の懸案だった新聞の複写について整備されたことになる。
 ユーザーの指定分野に応じて,ニュースをネットで配信する「クリッピングサービス」がある。パソコン通信の時代から,プロバイダーによるサービスとして定着している。以前はFAX配信などで,アンダーグラウンドの業務もあったようである。正しく複写許諾をとることで,専門業者の手により,広いニュースソースから細分化された情報を提供するサービスとして復活するかもしれない。

縮小再生産の日本語文献

このところ日本出版学会のデジタル出版部会を毎月企画開催している。それで文献複写と著作権問題を考える機会があればと,9月に実践女子短大の三浦勲会員にお話しいただいた。
 自然科学系を中心とした学術雑誌の世界では,ドキュメントデリバリーと呼ばれる専門業者による有料文献複写サービスの市場が確立されている。ただ,そこで複写される情報は,欧米の学術雑誌やデータベースが主で,日本は圧倒的な輸入超過である。氏の資料によると,コピーの対象となる雑誌市場は20~25億ドル,文献複写サービス市場がこのうちの20%に相当する4億ドルという。
 アメリカの著作権集中管理機構であるCCCは200万タイトル,徴収額が100億円。これに対し日本複写権センターは徴収額1.6億円。さらにデータベース市場で比べれば,世界は6兆4000億円で日本は3000億円弱という。
 その後の討論が,これまた充実したものだった。何しろ,会場には出版社,著作権管理業社,ベンダー,ユーザー,図書館などの論客が揃い,誰がスピーカーになってもおかしくないほどだった。ともすれば対立構造の中で主張がぶつかりがちだが,この日はむしろ講演主題でもあった「文献複写による日本語データベースの育成」という視点で意見交換ができたかと思う。司会をしていた僕の興味として,特に日本語の雑誌とともに書籍コンテンツの電子化が行われた場合,需要があるか否かについての意見を聞くことができた。
 文献複写は情報流通の重要な役割を担う一方で,その主な対象は学術出版物である。デジタル複写時代を迎え,著作権処理システムを整備することは,出版界の将来にとっても急務といる。