科学技術と教育を出版からサポートする

 今年になってアメリカのeBook市場が失速した。一昨年春、スティーブン・キングが手がけたネット直販が契機となり、大手出版社、オンライン書店に加え、マイクロソフトやアドビなどのソフトウェア企業がeBook市場に参入した。しかし、ブームは2年も保たず、何の結果も残さないままに消え去ろうとしている。単に「早すぎたブーム」だったのだろうか。
 一昨年春と言えば、ちょうど電子書籍コンソーシアムが解散した時期だ。そこに華々しくキングの成功例が伝わってきた。人気作家の小説がキラーアプリになり市場が離陸したと誰もが思った。日の丸プロジェクトは事業化に時期早々だったが間違ってはいなかった。日本の「早すぎたプロジェクト」は、読書端末やブロードバンドネットの未整備というハードとインフラに失敗の原因を押しつけ、結果的にコンテンツを疑う意識が希薄となった。
2年たち、人々はPDAを手にし、家庭はADSLによる常時接続となった。でも、先行して走っていたはずのアメリカは、さっさとリタイヤである。 ブームといえば聞こえはよいが初めから市場などなかったのだ。厳密に言えば、日米の出版人が注目してきたコンテンツ、つまり小説やマンガなどの読み物系は市場を形成していない。誰もeBookで小説を読むことは好まない。キングの仕掛けたトリックに彼もろとも嵌ったのだ。
 では、何がeBook市場を引っ張るのかというと「学術情報や教科書のデジタル化」が僕なりの解がである。今やアメリカの医師にとって診察中にパームなどのPDAは必携という。かつて書籍で提供されてきた医薬情報をPDAで読むためである。これこそeBookであり、ふさわしいコンテンツである。学術情報から教科書、教材へ。視野を広げてみればアメリカのeBookビジネスはすでに一つ先のコーナーを曲がっている。 日本では、学術情報のデジタル化は日本語の論文やジャーナルがローカル規模ということもあって遅れ気味である。一方、教材では電子辞書がメーカーのハード開発力もあって、紙の辞書に匹敵する市場を形成しつつある。
 eラーニングも話題である。メディア教育開発センターの調査報告によると、インターネット授業の配信を行っている大学は11%強、計画しているのが 22%である。すでに単位認定しているインターネット授業も計画を含めれば大学で8%強に上っている。
 大学院ではさらに進んでおり、今年4月から東京大学大学院情報学環が授業をインターネット上で受講できるシステムを一般に公開している(iii online)。また,東北大学も国立大学としてははじめて大学院全研究科規模でインターネット授業を開始した。
 新たな試みが大学発で急速に進行中である。しかし、伝統的な出版社からの本格的な参入はいまだ始まっていない。eラーニングの教材では、アメリカの出版社が中心的役割を果たしているのに対し、日本ではソフトベンダーが多い。ウェブイヤーと呼ばれる変化の中で、出版社も従来の商習慣にとらわれない教科書作りが求められている。
 教育現場には著者も読者もコンテンツ制作者も配信システムもあり、一見完結している。では意欲さえあれば日本のeBook市場が成立するか、というと残念ながらノーである。その成否の鍵を握る著作権システムについて次回考えてみたい。