科学技術と教育を出版からサポートする

 教科書、教育の情報化に注目して、eBook市場の将来を考える、というのが連載のテーマであった。市場成立に向けた課題を整理するめに、アメリカの先行事例でデジタル教材化の流れを振り返ってみたい。 ITによる華々しい成功例としてeラーニングがアメリカより伝わっているが、それは企業内教育の話である。不況下におけるコストダウンモデルとしてむしろ企業に導入されたのであり、ITバブルが崩壊した以上、eコマースとしての教育ビジネスが撤退するのは時間の問題であった。 実際、大学による事業は、その多くが昨年撤退し、残りも規模縮小や経営方針の変更が行われた。わずかに生き残った営利大学によるeラーニングは市場ニーズを絞り込み、教材の作り込みを行っている。
一方、多くの大学でも教育の情報化は歩調をゆるめることなく進み、キャンパス内では不可欠のものになっている。結果的にeラーニング事業での勝ち組も負け組も、学内教材のデジタル化に集中することになった。 デジタル技術を利用した教材づくりのルーツを、90年代初頭からのカスタム出版にみることができる。実際行われているのは、原稿のスキャニングによるオンデマンド印刷(POD)なのだが、教材のデータベース化やオンライン受発注の仕組みを整えることで興隆を迎えている。この背景にCCCによる著作権処理システムの存在が大きいことに注目すべきである。 今後デジタル化が進むことでPOD市場は縮小していくだろう。コーネル大学では学内のデジタルライブラリーを利用したカスタム出版のシェアが高まっており、さらにデジタル出版権の許諾により、eBookの導入が始まっている。 一方、伝統的なユーズドブックは、結果的に教科書出版社のデジタル化を推し進めることとなった。eBook単体での販売実績はまだ少ないが、着実に点数は増えている。これはコンピューター導入の進んでいる初中等教育の教科書でも同様で、周辺教材や指導書のデジタル化が進んでいる。 カスタム出版をデジタル教材に向けた揺籃期とすれば、デジタルライブラリーなどに蓄積される文章中心のテキストやPDFデータが第1期である。このデジタルライブラリー市場は、大学教科書の上位に位置する学術電子ジャーナルや文献データベースが市場を牽引している。学術教育分野を問わず普及しつつある。 それに続く第2期がウェブシーティーなどのLMS(学習管理システム)を用いた教育であり、その上での音声や動画を含むeパックである。現在、eパックでは医歯薬系の教材が好評である。もともとこの分野では従来からCD―ROMとしてマルチメディアタイトルが流通しており、教育側にデジタル教材の利用ノウハウがあった。さらにLMS利用がキャンパスで広がるにつれ、デジタル教材の新たな流通経路がCD―ROMに代わって確立する可能性がある。なお、 LMSがさらに発展することで、eラーニングに移行することも予想されるが、それは医歯薬系など一部に限られるというのがアメリカの教育関係者の指摘である。 カスタム出版をデジタル教材化の揺籃期としたが、それは著作権市場の確立期とも言い換えられる。この市場がアメリカで新たな試みをウェブイヤーと呼ばれる急速なテンポで生み出してきたのである。eブック市場確立のために日本が取り組むべき課題について次回に考えてみたい。