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 8月にソウルを訪問し、韓国、中国の大学出版人と意見交換をした。また本紙(9月2日号)に韓国の『再販制の義務法制化』を寄稿した白源根さんとも、慌ただしいながらも会うことができた(何しろ帰国の朝、送迎バスの前だ)。彼の報告にもあるように、7月に可決された韓国の出版支援策としての法律には、大学街での教科書の不正コピー禁止が盛り込まれている。
 昨年までeブックについてかなり饒舌だった韓国大学出版人たちだが、今年は口々に不正コピーに悪態をつき、法案への期待を寄せていた。講義を聴く学生が 40人を超えても、実際に売れた教科書はただの数冊という報告もあった。その原因が複写業者による不正コピーの常態化という。

 日本では不法複写業者は影を潜めたが、大学の教科書として編集された本を平気でコピー配布する教員が多いことはやはり問題である。もちろんこれは著作権法35条(授業のために著作物を許諾なく複写できる)の歪曲した拡大解釈だ。
 この問題は、国民の著作権意識とか法制度の整備だけでは解決できない。著作権意識が高いと言われるアメリカだって、90年代に複写業者のサービスが、法廷で争われているのである。何よりも著作権処理を社会システムとして整備することが重要である。
 アメリカでは著作物を複写する際に、許諾や対価を払うシステムが著作権の集中処理機構「CCC」により確立されている。
 これには授業用の教材利用も含まれ、コンテンツの種類や対象組織、利用方法に応じてさまざまな権利許諾方式がある。例えば教育機関での教材制作における権利処理は、アカデミック・パーミッション・サービス(APS)である。利用者登録によりオンラインで出版物検索や許諾申請もできる。
 このシステムがあるからこそ、アメリカの大学ブックストアでは、“カスタム出版”サービスが成立するのである。これは複数の教材コンテンツから必要な部分だけ選び(カスタム化)、その“すべてに対し著作権処理をした”上で、必要部数のみオンデマンド印刷するサービスである。素材はすべて教員から持ち込まれ、その多くは市販の書籍、雑誌、新聞などのコピー原稿であり、ワープロ原稿もいったん紙出力しスキャニングされている。
 CCCのウェブを見ると許諾されている著作物の多くはコピー機によるアナログ複写である。デジタルデータでのコピーに対しては出版社も慎重である。
 コーネル大学では、全教科書のうち13%がカスタム出版で、売上げは減少傾向とはいえ年間1億5000万円にも及ぶ。毎年3万5000冊以上を販売、著作権者に支払われる年間の使用料は6000万円を超えている。カスタム出版で全米1位は、南カリフォルニア大学で、なんと教科書の27%、4億5000万円の売上げである。
 現在、全米のほとんどの大学でカスタム出版が行われている。印刷部門を持たないような小さな単科大学や2年生大学では、ブックストアが窓口となって著作権処理をし、印刷はキンコーズなどを利用している。
 日本では大学の生き残りをかけて様々な改革が行われ、教材利用も多様化している。出版社が積極的に許諾し対価を求めることで、カスタム出版市場を育てることができる。