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 この春にコロラド大学を訪問したときは、ちょうど学期末だった。書籍部の入口横に机二つほどの臨時カウンターがあり、手書きのポスターにはユーズドブック購入と書かれていた。特に説明があるわけでもなく、集まって来た学生は、教科書を渡して事務的にお金を受け取っていた。
 アメリカの学生は日本の学生に比べてかなり多くの教科書を購入する。どれも大判で500頁を超えるものがざらである。これに演習書、問題解答集、副読本などが出版社により準備されている。学生にとって本代はかなりの額である。

 このため以前からユーズドブック市場が確立されている。ユーズドブックは古本の一つで、使用済みの教科書を学生から購入し、大学の書籍部が新本と並べて販売する本をこう呼んでいる。日本の新古書店と書店業界のような対立関係にあるのではなく、書籍部が積極的に古書流通を取り込むことで学生ニーズに応え、売上げ増を図っている。とはいえ、書棚で新本の横に25%引きのユーズドブックが並んでいるのを見ると、やはり軽い驚きがある。
 大学教科書販売のアメリカ全体の動向は、新本が69%にすぎず、なんとユーズドブックが25%を占めるという。その利用率は増加傾向にあり、コーネル大学では、ユーズドブック販促のため「セーブザマネー」キャンペーンを行っていた。
 各大学の書籍部が独自に取り扱う他には、中小規模の大学書籍部を運営するフォレスト社がユーズドブック取次の大手である。買取り価格は、次学期に教科書指定がある場合は定価の50%、指定がない場合は10~30%である。いずれも定価の75%で販売されているので、新本を売るより収益性がよいという。
 出版社にとっては深刻な問題である。その対策として教科書の改訂を早めたり、バンドリングと呼ぶ手法をとっている。これは指導書、演習書、あるいは本文などのデータを収めたCD─ROMなどを教科書にシュリンクパックし、毎年どれかを改訂しておく。これにより年度版として学生の購入を促している。
 巻末にシールで隠されたパスワード付きの本もある。出版社のサイトで登録した読者は、パスワードで様々なサービスを受けることができる。一度使ったパスワードは読者データと一致する必要があるので、ユーズドブック購入者はサービスが受けられない。教科書として採用する教員には、本文データのほか、問題や指導書なども提供されている。教室にプロジェクターが普及してきたこともあり、カラー図版のデータは評判がよい。
 この関連で大手教科書出版社の一つであるマグロウヒル社に「グレードサミット」というウェブサービスがある。これも教科書・教材のデジタルデータ提供サイトである。
 このような販促手法は、日本でも来年度から新しい検定教科書が採用されるのを機に、教科書出版社の間で広まっている。教員がテスト問題を作りやすくするため、本文や図版データの提供を宣伝材料にしている。
 アメリカでもeBook単体で収益を上げているところはおそらくなく、多くが販促のための「サプリメント(おまけ)」と割り切っているようである。