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国立大学のある教授が,本のコピーを会議資料に提出したところ,「違法コピー」になるとして事務局から止められた。デジタル著作権について専門家であるその教授は,著作権法の制限規定である第35条「学校その他の教育機関での複製」を主張したところ,「教授会は教室ではありません」と一蹴されたという。「まあ,みんなが,これくらい著作権法をちゃんと理解していたら良いんだけどね」と,教授本人が苦笑混じりに教えてくれた。
 教員の間では,一般に「学校の授業ならば本のコピーを配布できる」と理解されている35条であるが,この解釈は正確とはいえない。著作権者の権利を制限してまで学校教育を優先しようというのであるから,利用する側も厳密な運用が求められる。「必要枚数のみ」を「授業ごと」に「教員本人が」コピーしなければならない。逆に言えば,「人に頼んで何回分かをまとめてコピーし,在庫しておく」ことはできない。
 もちろん,「著作権者の利益を不当に害する」ことはあってはならない。つまりたくさんコピーすることはもちろん,本来,生徒一人一人の購入を前提として教室で使われるドリルやワークブックはダメである。大学の教科書は市販本を利用することもあり,複製配布できるとされがちだが,文化庁著作権課の見解は「教科書である以上,当然,ノー」である。

ネットでの「調べ学習」への対応

4月より,新学習指導要領に基づく新しい教育が小中学校で始まる。知識を詰め込む学習より,子どもが自ら課題を見つけ,学び,考え,問題を解決する能力や「生きる力」を身につける学習への転換を目指している。その目玉の一つとして「調べ学習」が本格化し,児童生徒が自ら調べる場として,図書館などとともにインターネットが注目されている。情報教育の一環としても積極的に取り組まれることと思うが,ただ,やり方によっては著作権法に抵触してしまう可能性がある。
 例えば,生徒が「調べ学習」の授業中に,ネットで調べた文章を発表資料として他の生徒に配布する。あるいは学校のLANで読めるように新聞記事のスキャナデータをサーバーに保存する。さらにインターネットを使った授業で,本の中身を画面に映す。どれもこれもみんなダメである。
 教員による著作物のコピー配布は認められているが,生徒には認められていない。また,校内LANといえど「送信可能化権」を侵害することにかわりはない。

著作権法改定動向その後

これでは,インターネット時代に授業が成り立たないとして,著作権法35条を含む改定の動きがある。この問題は,昨年2月の本コラムで一度取り上げたとおり,文部科学省としては,学校などで著作権を教材として利用する場合,ネットによる送信や生徒による複製を著作権者の許諾なしにできるよう認める方針である。
 利用者側はいちいち許諾をとるのは煩雑だし,現状不可能という。しかし,対価なしに利用することはとうてい認めがたい。落とし所として「権利者団体への保証金」案が浮上しているが,コピー機による複写権処理でもわかるように,権利者まで対価を戻すことは不可能である。そもそも,利益侵害を受けるのが少資本の専門書出版社に多く,出版界は反対の見解をとりまとめている。
 来年度から高校で「情報」が必修教科として始まる。IT時代に向けて著作権教育が重要視されているが,学校で情報教育をすること自体が,著作物の不正利用を広げかねない。しかも生徒はもとより,教える側にも不正行為をしているという意識が低いのである。現場での対応が難しいからといって,現状を容認し,「インターネットの情報は無料」に教育界がお墨付きを与えたら,その後に来るのは著作権の暗黒時代である。