科学技術と教育を出版からサポートする

今や出版界の年頭挨拶に欠くことのないキーワードとなったのが「マイナス成長」である。2001年も前年度比で約3%減に終わり,97年以来の5年連続となった。昨年末には人文社会科学系専門書を扱う取次の鈴木書店が自己破産した。負債総額は40億円。景気が悪いのは出版界だけではないが,経営基盤が脆弱な出版社にとって,40億円の影響は計り知れない。
 書籍・雑誌の販売総額は今や2兆5千億円。以前,出版界の経営規模が小さいことを冗談半分に「ダイエーの負債総額と同じ」と例えていた。あちらは頑張って減らしているようだが,こちらは頑張っても減り続けている。

経済トーク番組に出演して

CS放送朝日ニュースター「本が危ない! 出版不況脱出元年に・・・」とタイトルしたトーク番組に出演した。朝日新聞経済部の論説委員が進行役になって,準大手出版社の取締役と僕の3人だけのぶっつけ本番の1時間である。
 流通,本の価値,定価,ブックオフ,ハリー・ポッター等々おもしろく意見交換したが,不況脱出という点では,話がかみ合わないのである。彼らの視点は「本が危ない」のは売れないからであり,不況脱出には話題になる本を仕掛け売上げを伸ばす事という。再び右肩上がりの成長を夢見ている人々と,一人の読者,1冊の本の積み重ねで売っている専門書出版社の人間とは世界が違う。僕は出版市場は肥大化しすぎたのであり,今は適正規模を見つけようとあがいていると思っている。

深刻な出版の精神的不況

雑誌にとって売れることだけが善であることは否定しない。経済部記者は金額だけが尺度かもしれない。でも「本が危ない」のは何も売上げだけではない。出版界では柳の下にドジョウが30匹までいると言われる。編集者はベストセラーの追従が企画だと思い,類似書を本屋の店頭にうずたかく積み上げている。読者はベストセラーを図書館に予約して競って借りるが,数年後ブックオフなどの新古書店の店頭に1冊百円で並んでいても誰も手にとろうともしない。雑誌は読者ではなく広告主のために創刊され,広告収入に頼った雑誌が返品率を押し上げている。
 既刊本が売れなければ勢い新刊依存になる。昨年の新刊は7万点に近づき過去最高となった。専門書にも売れ筋があり,売り上げ重視で,安易に寿命の短い新刊を作った自分の反省もある。つまり出版不況は売れないことだけが問題なのではない。類似の企画,雑な編集,安易な新雑誌の創刊。どれもこれも出版界の精神的不況の結果である。貧すれば鈍する。だから本が危ないのである。

最後に明るい話題

世界中で”ハリ・ポタ旋風”が吹きまくっているが,日本でも『ハリー・ポッター』シリーズは,翻訳書3部作の累計が800万部を超えた。波及効果も大きく関連書はもとより,「パリー・ポッター」と同様に最近映画化されたファンタジーの古典『指輪物語』が再び売れるなど,一大ファンタジーブームを引き起こしている。
 電車の中で,久々に「図書館の本ではない上製本」を手にした大人たちを見るようになった。子供のために買った本に親も夢中になったのかもしれない。テレビ番組やゲームの話こそするが,子供たちが争って本を読み教室で話題にするなど,ずいぶん久しくなかったのではないだろうか。
 読んでみると,確かにテレビゲームのようである。これは断じて批判ではない。番組でもコメントしたが「京極夏彦のライバルは宮部みゆきではなく,ファイナルファンタジー」である。小説がゲームのおもしろさを研究したからこそ子供たちを魅了したのである。