科学技術と教育を出版からサポートする

夏の終わりから秋が深まる頃にかけて,いくつかの国際的な出版交流会が開かれている。なかでも世界最大にして長い歴史を誇るフランクフルトブックフェアは,展示・商談会であるとともに出版人の交流の場としてよく知られている。しかし,今年日本はいくぶん不名誉な印象を30万の参加者に残すこととなった。出展を予定していた日本の出版社がテロの危険からドタキャンしたのである。ニューヨークテロの翌日,フェア事務局は「テロの脅しに屈することなく予定通り開く。テロに心を合わせて立ち向かえば必ず成功する」という声明を発表したにもかかわらず,である。

「本」は大きな文化大使

朝日新聞の記事(10月22日付)によると,当初,105カ国から6700社・団体が出展する予定であったが,参加を取りやめたのが56社。そのうちアメリカの34社は国全体の参加数の5%弱であるが,日本からは約3分の1の13社であるという。その後,出版文化国際交流会の落合博康事務局次長に伺ったところ,アメリカで完全に出展していなかった社は14社のみで,多くは役員や地元アルバイトが対応していたという。どの社にも強い反対論があったと聞くし,参加していない僕が関係者にとやかく言う筋合いでもない。でも,落合さんの言葉を借りれば,「小さな経営規模の出版社であっても,本は大きな文化大使となっている」のである。表現の自由に関わるビジネスにつく以上,勇気が必要である。もちろん僕を含めた出版人全員の問題である。

「歴史教科書問題」と出版交流

その意味で少部数ながらも高校の検定教科書の編集でもある者として「歴史教科書問題」後について直接アジアの出版人と話がしたいと思っていた。それをフランクフルトブックフェアの翌週,ソウルで開かれた国際出版研究フォーラムに発表者として参加することで実現できた。落合さんの話を伺ったのもフォーラムである。ここはアジアの出版研究者の交流の場であり,特に歴史教科書問題の後だけに意義深い会となった。
 実際,日韓が熱く揺れ動いた春から初夏にかけては,予定されていた数多くの民間文化交流が中止に追い込まれている。多様な歴史認識と主張があるとはいえ,本が恣意的な手段となって我らが隣人の怒りを招いたのは事実である。結果的にその教科書の極めて低調な採用部数という事実により,皇国史観論者たちの目論見がうち砕かれたのは何よりだった。

二人の出版人の受賞

 だいたいにおいて民間レベルの交流の方が,国家間の解決策より深い友好関係を築いてきている。フォーラムを主催した韓国出版学会の尹炯斗会長は,長年の両国出版学会の友好関係を強調し,歴史教科書問題に対して誤りを正した日本の出版人を評価されていた。その何よりの表現として,韓国出版学会が今年設立した南涯安春根出版著述賞の第1回受賞者として,日本出版学会清水英夫名誉会長を選ばれたのである。清水先生は長年言論の自由を守り続けた法学者でもあり,授与式の挨拶の中で歴史教科書問題に触れ,「一部の出版人の心ない行為」と切り捨て,変わらぬ信頼に基づく出版文化交流の重要性を話されていた。
 日韓の出版交流を担ってきたもう一人の重要な人物についても触れておかなければいけない。独学で韓国語を学び,30年以上にわたり個人的に両国の出版界の橋渡しをしてきた舘野晳さんである。やはりこの10月,韓国政府文化観光部(日本でいえば文部科学省)から外国人として初めて出版功労賞の長官賞を授与された。まさに民間の文化大使である。
 さて,これ以外にもお伝えしたい日韓中の出版交流が行われており,またフォーラム発表者としてアジアの電子出版についての感想もあるのだが,それはまた次回。