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以前,このコラムで図書館の上に住んでいたと書いたことがある。マンションの1階に区立図書館があったにすぎないのだが,ある司書にお会いした際,初対面の挨拶もそこそこにこの話題を持ち出されたことがある。図書館関係者に覚えのよいこの文化的な(?)住まいも今は引き払い,郊外のニュータウン住まいである。宮崎駿監督がアニメの舞台に取り上げている街で,『耳をすませば』の主人公のお父さんが勤めていた(としか思えないほどそっくりな)図書館も散策のテリトリーにある。
 誰にも図書館に対しちょっと特別な思い出があると思う。きっと異化された世界への入口なのだ。開架式書棚で本を探していると,目的外の本に長時間読みふけることが多い。あれは本の精霊のイタズラに違いない。

究極の図書館サービス

図書館サービスを突き詰めると最後に残された課題が,「24時間開館」と「非来館型貸出」となる。その両者を実現するものとして,電子図書館が期待されてきた。技術は別としても,誰が主体となって実現するかが問題となる。
 メインとなる図書館の多くは公共図書館であり無料貸出を義務づけられている。コピーして劣化することのないデジタルコンテンツを貸し出すことは,著作権を始め解決すべきハードルが高い。一方,海外の大手学術出版社はビジネスとして最先端の学術情報を電子化している。そして紙よりも高い値段で販売している。
 著作権が消滅している場合は,『プロジェクト・グーテンベルグ』や『青空文庫』のようなボランティア運動が一つの解となった。ただ,このような信頼性の高い活動は別として,校閲されていない,あるいは誰によってテキスト化されたかも定かではないデータがインターネットで流通していることも事実である。

商用オンラインライブラリー登場

数理文学を持ち出すまでもなく,研究者や学生にとって,ときに小説は読書ではなく調査対象となる。まして人文社会科学の教科書や論文がデータ化されているメリットは大きい。さらにアメリカの学生は図書館での調査に多くの時間を費やすと聞く。となると著作権のある作品で信頼に足りるデジタルデータを提供することはビジネスとして成立するだろうか。
 この「ウェブの情報は無料」という常識にも「図書館は無料貸出」というルールにも反して,予想以上に有料のオンラインライブラリーが成功を収めつつある。
 今年1月にサービス開始したばかりであるが,大学教科書のオンラインライブラリーとして注目されているのが『クエスティア・メディア』である。今や4万5千点を超える本と2万点以上の学術論文,さらに百科事典がウェブで利用できる。すでに225社の人文社会科学系出版社と提携し,提供するeブックタイトル数は急増中である。学術出版社に勤める司書などにより選書され,出版社と契約の上,学生の使用に応じて著作権使用料を支払っている。学生は個人契約で月19.25ドル,年間契約だと割安で月12.50ドルで全タイトルを読むことができる。
 eラーニングプラットフォームとして最大手のWebCTとも連動しており,WebCTユーザーはクエスティアのサービスを受けることができる。ウェブ情報を無料で利用することに慣れた学生が会費を払ってまで利用するか,当初疑問の声もあった。が,どうやらeブックビジネスを成立させた数少ない会社の一つになりつつある。
 同様な個人向けサービスとして『イーブラリーコム』がある。また大学図書館や公共図書館にeブックを提供するオンラインライブラリーとして,一足早くビジネスを成立させた会社に『ネットライブラリー』がある。個人向けにしろ図書館向けにしろこのようなサービスが,まだ日本にないだけに各社の今後の動きが注目される。