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最近,国公立大学の工学系研究室を訪ねると,驚くほど多くの中国系学生が留学していることに気づく。それも一流大学ほど比率が高い。彼らを指導している教授は,口をそろえて勉学意欲の高さを指摘する。まさに博士号をとるまでは勉強一筋わき目もふらず,といった感じらしい。
 当然かもしれない。経済的発展段階にある国家に博士号を持って帰国すれば,生涯の絶対的成功が約束されている。親族の中で一番優秀な子が留学費用を集め,期待を一身に担って留学している例もあるという。親戚中を養ってもあまりある金銭的成功!もはや学歴など無くても生涯生活に困らない富める国家日本では,ハングリーであることが勉学意欲につながるなんて,遠い過去の話である。

アジアの若者は米国を目指す

ここにも気になる動きがある。ITで急成長する東南アジア諸国では,日本留学は欧米に比べ低く見られているという。就職に有利なのは米国の大学卒業資格であるという留学生は,次のような指摘をする。「日本の大学は入学レベルは保証しても卒業レベルは保証していない」なるほど!思わず頷いてしまった。日本で学歴が自慢できるのは,難しい入学試験に合格したからであり,何を学んだかではない。多くの学生は入学時点が最高の学力で,あとは下がり続ける4年間を過ごす(もちろん自分を棚に上げて書いている)。

米国の教育戦略

優秀で経済力がある学生は米国に留学できるが,では経済力がなかったら?それでも学歴取得が再就職のチャンスにつながるとしたら?「日本の国公立大学に奨学金をもらって入学する」が回答の一つであるが,これからは「米国バーチャル・ユニバーシティで学ぶ」が加わることになる。大学に商圏があるとすれば,バーチャル・ユニバーシティの商圏は世界中であり,このことに米国が気づかないわけがない。
 様々な理由から国を離れることが困難な人にも,学ぶ意欲さえあれば米国バーチャル・ユニバーシティは卒業単位を与えてくれる。特に社会人教育と遠隔教育に一日の長があり,豊富で体系化されたカリキュラム,ブランド力,どれをとってもアジア諸国における米国の優位性は否定しがたい。
 もちろん急速な普及を遂げているとはいえ,米国でもバーチャル・ユニバーシティだけの在学生はまだまだ少ない。ただ日本ではインターネットの教育利用を,学生の情報リテラシーや情報交換など,教室での利用に狭くとらえてきた感がある。社会制度に対するインターネットの爆発的な破壊力が教育制度に及ばないわけがない。大学審議会「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」の審議を受けて,文部省は早ければ来春にもインターネット学習での単位取得に向け,制度整備をするという。CAIブームが去った今,バーチャル・ユニバーシティを教育工学研究者がインターネットブームに乗って持ち出してきた「新しい看板」と皮肉にとらえていると,国際的競争から後れをとることになる。

教科書のゆくえ

ここでお知らせです。大学出版部協会では12月1日(金)に「バーチャル・ユニバーシティと教科書のゆくえ」と題し,吉田文助教授(文部省メディア教育開発センター)の講演会を開催します。米国現地取材をもとに現状と可能性,日本の課題等を解説いただきます。教科書(従来型教材コンテンツ)の今後を考える機会となればと思います。
 出版界の問題としては早すぎるという見方もあるが,何年後かには今年が教科書とその流通の変化の始まり,と位置づけられる事になるでしょう。詳細は大学出版部協会http://www.ajup-net.comをご覧ください。入場無料です。ご参加をお待ちしています。