デジタル出版よもやま話

第127回 大学出版部設立ブーム 荒波で沈まない方法

このところ大学出版部の設立ブームが注目されている。国公立大学だけでも06年に富山大学,07年に岡山大学,筑波大学,東京藝術大学,08年に東京外国語大学,そして国際教養大学と続いている。
 4月には東京外国語大学出版会の発足記念特別シンポジウム「人文学の危機と出版の未来」が開催された。また,大学出版部協会は5月の定時社員総会において,関東学院大学出版会を新たな仲間としてむかえ,32大学出版部となった。同時に有限責任中間法人から一般社団法人へ移行した。
 ただ,設立ブームは必ずしも「将来に向けた明るい話題」として受け取られてはいない。大学出版部を取材した記事では,出版部設立を船出に例え「出版不況の荒波に抗(あらが)うように」と書き出していたくらいだ。
 確かに出版不況に加え「大学の危機」,「教養崩壊」,「少子化」,「若者の活字離れとデジタル依存」と書き出せばきりがないくらい,大学出版をめぐっては負のキーワードばかりである。 (続きを読む…)

第110回 eブックリーダーの市場背景 ソニーリーダーとKindle

アマゾンKindleが販売されて,ひと月ほどたった。ウェブサイトには実際に利用したユーザーの声が続々とあがっている。何よりもアマゾンKindleのサイトには,すでに千を超えるカスタマーレビューが並んでいる。評価は最高の五つ星が一番多く,次が最低の一つ星と割れている。
 発売と当時にかなりの注文が殺到し,数時間後に一時品切れとなった。初期生産台数については発表がないのでわからないが,現在も出荷待ちが続いている。
 今回は,米国での電子書籍に対するニーズについて検討してみよう。特に日本とは異なった書籍販売の実態がある。 (続きを読む…)

第109回 eブックリーダー再浮上か ソニーリーダーに続くアマゾン

すっかり影を潜めていた携帯型の電子書籍リーダーであるが,このところ米国で復活のきざしである。その決定打と期待されるのが2007年11月19日にアマゾンが満を持して発売したKindleである。「点火する」の意味を持ったこの電子書籍リーダーが,本当に電子書籍市場に火をつけられるのか,興味つきないところである。
 そこで米国市場で先行する他の電子書籍リーダーも取り上げながら,検討することにしよう。

今までの電子書籍リーダー

米国では90年代末からのドットコムバブルにのって,日本より一足先に電子書籍リーダーのブームを迎えていた。シリコンバレーのベンチャー企業が開発したロケットeブックやソフト・ブック,さらに両社を買収したジェムスターといった名前を懐かしく思い出す。しかし,バブル景気を背景としたところもあってブームの潮が引くのも早かった。日本でΣブックやリブリエの発表が行われた2003年は,米国で液晶電子書籍リーダーの終焉の年でもあった。
 松下電器はΣブックの後継機,ワーズギアを2006年末に発売した。カラー液晶の1画面として,音声や動画にも対応している。デジタルコミックやiPodも意識したのだろうが,かえってコンセプトが曖昧になったといえる。案の定,モバイルPCやケータイ端末,あるいはシャープW-ZERO3などがしのぎを削る市場の中で,一度も浮上してはいない。

ソニーリーダーの健闘

一方,Σブックと比較すれば多少売れたソニーのリブリエであるが,投資額を考えれば惨敗であろう。そこで日本を見限り米国市場向きに機能を絞り込みソニーリーダーとして発売したのが2006年秋。これが予想以上に健闘して1年間で10万台販売したという。
 ソニーリーダーは,リブリエからキーボードをなくしてシンプルなデザインとなっている。その結果,評判の悪かった検索機能や辞書がなくなっている。日本人は多機能製品を好む傾向があるが,米国では新商品を投入するにはユーザーに印象づけるためシンプルにする必要があるという。商品コンセプトを明確にするのである。
 この〈読むこと〉に徹したことに加え,ソニーらしくなく(?)PDFが読める点が評価されたという。2007年秋に2号機にバトンタッチしている。基本的にはユーザーインタフェースの改良とEインク社の電子ペーパーの機能向上である。
 電子ペーパー搭載の電子書籍リーダーを利用した人の多くが,読みやすさに満足し,書換速度が遅いことに不満を感じる。リブリエの検索機能が評判悪かったのも,CPUの処理速度に問題があったのではなく,表示が遅かったからである。さらにメニューの表示やカーソルの動きが悪く,利用していてイライラすることになる。リーダーといってもただ,ページをめくるだけではないのだ。当初,検索機能がないことに批判もあったが,中途半端な機能なら,なくて良かったようである。
 2号機は書換速度の向上というより,インタフェースの変更に工夫がある。その一つが右側に縦に並べたボタンである。メニュー画面を表示した際,従来であればカーソルがゆっくり下がるのを待つことになったが,この改良でメニュー横のボタンをダイレクトに押して選択することができる。
 なおkindleでは,同様な理由からだろうが画面の右横に液晶による縦に細い長いデジタルバーがついている。これをスクロールホイールで上下に動かして使う。
 値段は1号機と変わらず約300ドルで,画面サイズは6インチである。カラー化は,ユーザーよりも出版社からの要求があるという。米国では電子書籍の有望な市場として大学などの教科書がある。オールカラーで分厚い自然科学系教科書を何冊も抱えることを考えると,電子書籍リーダーは魅力的なのだろう。

第52回 「電子出版」は出版になったか 進化か淘汰か後戻

「機械式時計」のブームだそうである。ゼンマイとテンプが生み出すリズムを歯車が伝え精緻な時を刻む。確かにあの動きは見ているだけで飽きない。デジタル環境が広まる中で,人触りのするアナログ感が求められている。
 でも時計が安くなり雑誌の付録になる時代に,数十万円からする高級時計は希少価値を演出したブランド戦略の成果である。元ラジオ少年の編集者としては,正確に,より安くを目標に歩んできた日本の工業技術を評価したい。ブランド戦略の軍門に降った時計など工業製品として邪道です!

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第51回 アマゾンで古本が好調 確実にコンテンツポータルの道

 アマゾン・コムの日本法人では,昨年11月から始めた古本販売が好調という。僕も探していた絶版本の何冊かを購入したのだが,なるほど便利である。サービス開始後4週間で30万点がそろったという。ヤフーや楽天などのオークションサイトが人気であり,利用者の間で下地ができていたこともあるだろう。 注文は簡単で新本と区別なくアマゾン・コムで決済される。違うのは注文品を送ってくるのが出品者である点だ。アマゾン・コムは在庫を持たず出品者の本棚を在庫倉庫としていることになる。

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第50回 読んでもらえるだけで本望か 著作権で対価を得る美徳

朝日新聞に神戸女学院大学内田樹教授が新古書店と公共図書館の話題を取り上げて,「読んでもらえりゃ本望だ」と題するコラムを書いている(12月12日付)。出版不況を背景として漫画家たちが「新古書店の出店規制」を訴え,作家たちが「図書館の補償金」を要求していることに,「私自身はあまり共感」できないという。
 氏自身は,「1人でも多くの読者に読んでほしい」から書くのであって,「金銭的なリターンはあるに越したことはないが,なくても別に構わない」という。「書いた本を全部裁断する代わりに1億円払うというのと,全国の図書館に無料配布するのとどちらがいいかと問われたら,私は迷わず後者を選ぶ」として,最後にこう結ぶのである。「いま一瞬でも答えをためらった人はおそらく表現者には向いていないと私は思う」。
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第49回 デジタル技術は人を豊かにするか 印刷業のコンビニ化

年末は今年の十大ニュースを決める季節でもある。明るいことも暗いことも含め,一年を総括して新年を迎えたい気分だが,出版界のベストスリーの常連は「マイナス成長」という暗いやつである。今年も残りわずか。奇跡でも起きない限り出版販売総額6年連続前年割れは間違いない。
 ところが奇跡が起きたのだ。ハリー・ポッターシリーズ第4巻「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」は,上下巻セット販売で初版230万部が1週間ほどで完売。書籍の年間販売額は1兆円を下回っているから,これだけで1%以上を占めるという奇跡以外のなにものでもない。
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第48回 「印刷術と宗教改革」って何? 中国の出版文化史

一般教養でありながら意外性が高いのがクイズ問題の壺である。相手が引っかかればまさに思う壺である。大学生に出版メディアについて話す機会があり,彼らの常識をちょっと刺激して注意を引こうと冒頭にクイズを出した。「印刷術を発明したのは誰か」。
 グーテンベルクと答えたら,思う壺である。いうまでもなく印刷術は,まず木版による印刷が中国で誕生し,朝鮮を経て日本に伝えられた。グーテンベルクの仕事を厳密に定義すれば,西洋における金属活字と印刷機による印刷術の発明ということになる(本誌の読者には釈迦に説法でした)。
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第47回 文献複写による出版の活性化 デフレスパイラルの日本語DB

最近,文献複写の著作権問題が話題となっており,その結果,専門雑誌や業界紙,全国紙などマスメディアの誌紙上を随分とにぎわしている。従来からの自然科学系出版社の動向に加え,今回,話題を提供したのが新聞業界である。
 6月に新聞記事の著作権を管理する新聞著作権協議会(新著協)が設立され,7月18日に日本複写権センター(JRRC)の会員となった。新著協に加盟している新聞社は,朝日,産経,毎日,読売などの全国紙,共同,時事の通信社に地方紙を加えた61社である。
 ただ,日本経済新聞社は加盟しなかった。同じ18日に(勘ぐればかなり意図的に)日経は第一面で「新聞著作権の尊重を,記事の無断コピーは違法です」という社告を掲げ,結果的に一番大きな反響を巻き起こした。他社に先駆けて「日経テレコン」といったデータベースを育ててきただけに,自らの著作物は自らが管理する,というのが日経の姿勢なのだろう。
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第46回 韓国の出版振興法案 “Be the Red’s”で燃えよ出版

8月下旬,ソウルを訪問した。日韓中大学出版部協会合同セミナー参加のためである。緯度で見れば仙台に近く,もう少し涼しくても良さそうだが,体感的には多少しのぎやすい程度だろうか。アジアのハブを目指して開港された仁川空港に着くと,キムチの匂いが歓迎してくれる。成田空港に着いた外人が「醤油くさい」というのと同じで,この手のことは訪問者しかわからない。
 ソウル訪問はサッカーワールドカップ開催を挟んだ昨秋に続き2度目である。97年末の経済危機から脱却をはかりつつある韓国にとって,サッカーの活躍は町に活気をもたらした。明らかに街をいく人々の顔つきが違う。もはやワールドカップが昔のことになった日本とは違って,今でも興奮さめやらぬ,という感じである。
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植村八潮(うえむらやしお)

■プロフィール

1956年千葉県出身 78年、東京電機大学工学部卒業、同年4月、東京電機大学出版局に配属。主に理工系専門書単行本や電子出版物の編集業務に携わる。2007年4月から2012年3月まで局長。 2000年から日本出版学会理事・事務局長、現在は副会長。そのほか、国内の標準化委員や電子ペーパーにかかわる調査委員を務める。