コンピュータリゼーションと本造り

コンピュータリゼーションと本造り 第5回 出版におけるコンピュータリゼーションの意義

5.1 アトムからビットへ

5   出版におけるコンピュータリゼーションの意義

● 5.1 アトムからビットへ

 ニコラス・ネグロポンテ(Nicholas Negroponte)は『ビーイング・デジタル』の中で,「出版社は情報を送り届けるビジネスなのか(ビットのビジネス),それとも製造業なのか(アトムのビジネス)」と問いかけています。紙の本の存在意義を認めた上で「デジタル形式の書物は決して品切れにならない。いつでもそこにあるのだ」と,デジタル出版の優位性も協調しています。この本が書かれたのはわずか5年前です。その当時,未来の予言として読んだアトムからビットへという変化が,すでに現実のものとなっています。

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コンピュータリゼーションと本造り 第4回 オンデマンド出版の可能性と取り組み

 デジタル技術は組版だけでなく,オンデマンド出版と呼ばれる少部数の印刷製本を可能にしました。オンデマンド出版,つまりBook On DemandあるいはOn Demand Publishingは,文字通りオン・デマンド(要望に応じて)の出版であり,本をデジタル化して保存,読者の注文に応じて1部から印刷製本するサービスです。

 以前よりアメリカの大学出版部では,学内テキストへ利用していると聞きますし,ライトニングソース社(Lightning Source)は約9000のオンデマンドタイトルをウェブで販売しています。

 昨年,日本では大手取次,書店,印刷会社が次々とオンデマンド出版サービスを発表したことで話題となり,過剰在庫に悩む出版界の救世主として,やや過熱気味に報道されました。当面,品切れ絶版本の出版や少部数出版への利用が期待されているものの,それだけでは極めてニッチな市場です。 (続きを読む…)

コンピュータリゼーションと本造り 第3回 本の製作システムの変化

3.1 活版印刷からCTSを経てDTP時代へ

 具体的に「本の製作システムの変化」について整理してみます。日本において活版印刷が技術的に完成したのは,それほど古い時代ではなく1960年代といわれています。つまり鉛活字による活版印刷技術は完成と同時に衰退期に入った訳で,その後コンピュータを利用した写植組版,いわゆる電算写植(CTS:Computer typesetting system)にとってかわりました。さらにコンピュータ性能の向上と急激なダウンサイジングにより,パーソナルコンピュータによる組版システム(DTP:Desk Top Publishing)が登場しました。現在はこのDTP全盛時代といえます。

3.2 DTP,TeXによる編集作業の変化

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コンピュータリゼーションと本造り 第2回 本を造る環境の変化

 各論に入る前に,出版のコンピュータ化をうながす環境変化について,整理しておきます。これは必ずしも三カ国の大学出版部共通の環境ではないかも知れませんが,本をデジタル化する過程において共通の問題点を含んでおり,さらに今後検討を深めるための共通認識としたいと思います。
 ここでは「インターネットの普及」,「少子化の問題」,「紙の消費量」,「教育の情報化」の4点をあげておきます。

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コンピュータリゼーションと本造り 第1回 広義な意味での出版のコンピュータ化とは

 まず「出版のコンピュータ化」について整理してみると,大きく「管理面」,「営業面」,「製作面」,「編集面」の4項目に分類されます。

 当初,出版社にコンピュータが導入されたのは管理面の強化からです。今でも売上げと連動した在庫管理や印税支払いなどの経理システムに使われています。営業への利用については,第3分科会「本を普及する」で検討が行われていると思います。

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コンピュータリゼーションと本造り はじめに

東京電機大学出版局の植村八潮です。

 初めにこの発表のテーマである「コンピュータリゼーションと本造り」について,私との関わりについて触れておきたいと思います。所属する大学は名前に「電機」とありますように,創立者が当時の最先端学問でした電気工学を教えることから始まっています。したがって出版物も電気,電子,機械,さらに情報を中心とした理工学教科書,技術書となっています。理工系大学の教員や技術者が著者に多いため,以前よりワープロやパソコンを使った原稿が多く,TeX(テフ)やDTPソフトで仕上げた原稿も多く扱っています。CD-ROM出版としては,大学のCAI研究を元に1980年代後半に取り組んだことがありますが,最近はCD-ROM単体としてでなく書籍に附属する形を取っています。昨年度発行した書籍37点のうち,CD-ROM付き書籍が10点,TeX原稿が 9点,手書きの原稿はありませんでした。

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植村八潮(うえむらやしお)

■プロフィール

1956年千葉県出身 78年、東京電機大学工学部卒業、同年4月、東京電機大学出版局に配属。主に理工系専門書単行本や電子出版物の編集業務に携わる。2007年4月から2012年3月まで局長。 2000年から日本出版学会理事・事務局長、現在は副会長。そのほか、国内の標準化委員や電子ペーパーにかかわる調査委員を務める。