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少部数専門出版とデジタル技術を考える 少部数出版と流通革命 前編

少部数出版と流通革命 —いま,印刷界に突きつけられるテーマとは? 前編

 1998年の出版界は未曾有の出版不況であった。一昨年,出版界では総売上額が戦後初のマイナス成長を記録し,昨年はさらに厳しい結果に終わった。「出版ニュース」(’98年12月下旬号)では,’98年の「出版界・読書界10大ニュース」を特集しているが,トップにこの「未曾有の出版不況・いずれも減収減益」をあげている。以下,「公正取引委員会の著作物再販制度」「中央公論社の経営不振」と続き,6位に「CD-ROM版百科事典,大型辞・事典刊行相次ぐ」,9位に「国立国会図書館創立50周年,電子納本が課題に」,10位に「新たな書籍メディアに向けて電子書籍コンソーシアム設立」となっている。
 この10大ニュースを見ると,出版界のおかれた現状と将来に向けた試行錯誤が縮図のようによく現れている。
 本は売れない。経営不振の出版社も多く,リストラの波が押し寄せている。また再販制度の見直しの中で,流通問題と返品の増大がたびたび指摘されている。制度の存廃については’98年3月に当面の維持が決まったとは言え,公取委から流通改善を強く迫られており,さらに2年後の廃止を予想する声も聞こえる。そうなれば出版構造を揺るがす激震となることは間違いなく,特に少部数専門出版への影響は明らかである。生き残ることはできるのか。それは出版社の淘汰のことではなく,出版文化の継承が問われているのである。
 このような現状の打開策として,デジタル技術の導入とインターネットの利用研究がさかんである。大型百科事典では,CD-ROMマルチメディア百科の開発が相次いでいる。また,オンライン受発注による流通改善や,インターネットを利用した新たな流通チャンネルが開拓されている。少部数出版や適正な印刷部数を実現するにはオンデマンド印刷がある。さらに紙に印刷することをやめ,デジタルコンテンツによる配信となれば流通問題の劇的な改善となる。

 デジタル技術とインターネットの普及は,さまざまな分野で従来の構造に変化をもたらし,枠組みを壊し,新たな市場を突如として出現させてきた。出版界がデジタル出版に抱く現状打開への期待と不安がここにある。現在までのところ,デジタル出版による解答は見えてこない。ただ,注意して避けなければいけないのは,電子出版における成功を売上高や市場占有率といったマスマーケットの論理だけでとらえることである。
 オンデマンド出版やデジタルコンテンツの販売,さらに電子書籍(電子読書端末)の試みは,「新たな市場創出」というバラ色の夢を描く前に,将来に対する「生き残り策」ととらえるべきである。さらに言えば,市場原理の導入により見失った本作りの原点回帰でもある。
 デジタル化の流れにある出版と流通の変化を取り上げることで,出版の将来と印刷業界の果たす役割を考えてみたい。

インターネットとデジタル情報量の増大

 はじめにデジタル出版の可能性を出版の外の視点から見てみよう。「インターネット白書’98」によると,日本のインターネット人口は昨年1000万人を超え,1年間で,176.6%の飛躍的な増加を示した。消費者収入が横ばいの時代にあって,この伸びは驚異的である。
 家庭における情報投資係数を考えた場合,コンピュータや通信系が伸びを示せば,その分の経費を他から振り分けることになる。それが書籍などの印刷系であることは容易に想像できる。携帯電話の使用料を払うため,高校生や大学生が雑誌を買わなくなったという指摘もあながち的外れではない。
 これを裏付けるデータが「通信白書平成10年度」にある(図1)。


図1 情報通信メディア利用者のテレビ視聴時間などへの影響
(「平成10年版通信白書」より)

 インターネットブームがコンピュータ雑誌や書籍の売上に貢献しているのは事実であるが,総体的には雑誌や本を読む時間の減少へと影響を与えている。また,家計支出各項目における収入弾性値(図2)を見ても,パソコンを含む「情報通信関連財」や電話通信料などの「情報通信関連サービス」が,3位の「光熱・水道」を引き離している。


図2 家計支出項目における収入弾性値
(「平成10年版通信白書」より)

*「家計調査年報」(総務庁)、「消費者物価指数年報」(総務庁)により作成
(注)1「情報通信関連サービス」・・・郵便料、電話通信料、放送受信料、映画・演劇入場料、複写機使用料
(注)2「情報通信関連財」・・・通信機器、ラジオ、テレビ、ステレオセット、テープレコーダ、ビデオテープレコーダ、パソコン、ワープロ、オーディオ・ビデオディスク、オーディオ・ビデオ未使用テープ、オーディオ・ビデオ収録済みテープ

 同じく「通信白書」には「情報センサス」という調査データがある(図3)。これは電話,放送をはじめ新聞,雑誌,書籍から会話までの,およそ世の中に流通するすべての情報量をワードという単位ではかったものである。印刷物を含むアナログメディアは過去10年間ほぼ横ばいであるが,デジタルメディアは着実に量を増やし続け,インターネットが登場する’94年以降急速に増大し,発信情報量においてアナログメディアを超えている。消費情報量とは,新聞や出版物で言えば,発信された全情報のうち読者によって読まれた情報を指す。ここにおいてもデジタルメディアの急増がうかがえる。


図3 デジタル情報量の推移
(「平成10年版通信白書」より)

*郵政省資料により作成
(注)情報流通センサスの計量メディアのうち、伝送形態がデジタル方式のメディア、デジタル化された情報を送受信するメディア及びデジタル記録されたメディアの各情報量を合計したものをデジタル情報量とした。

 Webページがよく出版に例えられるが,以上の事実を重ね合わせてみると,すでに紙の印刷出版物は情報伝達の主役から降りているとも言える。

長引く出版界の不況

 不況は何も出版界に限ったことではないが,それをトップニュースにするのには,それなりの背景がある。最近まで出版界は不況に強いと言われており,ほとんど神話化していた。事実,’73年秋,オイルショックの影響で国の経済成長が止まったときも,出版界は大幅成長を記録している。当時,経験的に語られてきた「不況になると本が売れる」という法則が裏付けられたのである。不況になると,大型レジャーをひかえて手軽な読書に回帰するとか,資格試験のための勉強に励むとか,自分の人生や来し方行く末を考えるようになるなど,いくつかの理由については想像がつかなくもない。
 しかし,この神話はあえなく崩壊した。出版科学研究所のまとめた’98年出版物販売動向によると,総売上は2兆5415億円で前年比3.6%の減少となり,’97年の同0.7%減に続いて2年連続のマイナス成長となった。’96年の3.6%増から見ても,大幅な減少の記録である。戦後ほぼ右肩上がりで伸びてきた出版界にとって,初のマイナス成長となった’97年から’98年は,さらに売上不振が深刻化し,書籍は5.9%減の1兆100億円,雑誌は 2.1%減の1兆5315億円となった。なお,雑誌分野の成長率が前年割れになったのは’50年以来,実に48年ぶりである。
 長年売ってきたロングセラーや既刊本の不振の中で,出版各社は売上を確保するため新刊点数を増やす,いわゆる「新刊依存」を強めてきた。さらに類書の多い中で売場を確保する必要もあり,いきおい大量印刷,大量配本となる。適正印刷部数と効率的な配本は以前からの課題でありながら,改善するどころか事態は悪化の一途をたどってきていた。
 ’98年の書籍新刊点数は前年比0.1%増の6万5513点と,ほぼ前年なみに「企画しぼり込み」が行われたが,返品率の増大は止まらなかった。書籍返品率は前年比1.7%増の41.0%と,40%の大台を超えた。 紙の印刷を基本として作り上げられた現行の出版システムや,マスセールに対応させてきた流通販売チャンネルは,いまさまざまな問題を抱えて限界まで伸びきっている。もはや大量印刷による効率の追求や,マスセールによる売上増といった高度成長期の手法を繰り返すことは,自ら寿命を早めるようなものである。

少部数出版と本作りの原点回帰

 このようなマスセールの陰で不況の波に真っ先に洗われているのが,出版社数の大半を占める専門出版社である。専門書の多くは少部数であり,創立者が,その分野に意義を見いだして今日まで続いてきた零細企業である。好きこのんで少部数なのではなく,宿命的に多量に売れないのである。
 「1998年出版年鑑」によると,日本の出版社数は4612社で,規模不明を除いても3715社となる。このうち社員10人以下が60%を占め,50人以下では3206社,実に86%である。出版界はごく少数の大手・準大手出版社と,圧倒的多数の小規模出版社から構成されている。出版界の経営体質は知名度の割に脆弱である。
 一方,書籍の売上金額で言えば,新刊点数上位100社で大多数を売り上げるものの,点数では占有率が約50%にとどまる。つまり,残り半分が4000社からなる小規模出版社により作られていることになる。
 数字からも分かるように,本は多品種少量生産物であり,大多数の本はマスマーケットにそぐわないのである。
 かつて新人編集者だったころ,本は消費されるモノではなく,代替えのきかないモノであり,その意味で「商品」ではない,と教わった。そこまで言わないまでも,きわめて「特殊な商品」としてごく自然に認識されていたと思う。理想的に言い過ぎるかもしれないが,本の価値は部数による評価ではなく,あくまで読者の視点での価値評価であり,少部数もベストセラーも,その意味で等価であったと考えている。
 Aという本を買いにいって,それがないからといって,Bで代替えすることはない。もちろん,Bを読んでそれはそれで満足することはあっても,Aを読もうとした目的は果たされない。いや,果たされなかったと書くべきだろう。いま,そこまで読者に望まれて読まれる本がどれだけあるだろうか。
 いまや「出版界は柳の下にドジョウを3匹見つける」とまで言われ,ひとつベストセラーが出ると,類似企画が瞬く間に書店に並ぶ。そこには代替えのきく商品が山と積まれている。売れる本を躍起になって作ることで,読者の数だけある本の多様性を忘れて,部数よりもオリジナリティを尊重した,かつての誇りを失いつつある。少部数であっても,本を必要としている人にていねいに作って届けることよりも,大量印刷の効率性をとったとも言える。
 それもこれもわれわれ出版人に責任があると認めたうえで,マスマーケット志向が装置産業である印刷産業により裏付けされたきたことは事実である。
 だからこそ,新たに登場したデジタル技術が,今度は読者のそばにある少部数の本のためにあってほしいと望むのである。また,その可能性が大であると思っている。少部数に価値を見いだすオンデマンド出版が本作りを変え,オンライン書店がマスに埋もれがちだった少部数出版物に光を当て,流通を変えてくれる。先に,電子出版を「市場原理により見失った本作りの原点回帰」と書いたのはこのことである。

デジタル技術による本作りの変化

 デジタル技術が登場したことによる本作りの変化を考えると,おもに次の4つになる。
①制作システムの変化:活字組版からCTS,さらにDTPへ移行した。
②メディアの変化:紙に代わってCD-ROMやDVDなどの電子メディアが注目されている。
③受発注環境の変化:出版共同出版VANやオンライン書店がある。
④コンテンツのビット化:オンライン出版と言われるインターネットによるデジタルコンテンツ販売。
 「受発注環境の変化」としては,アマゾンコムに代表されるオンライン書店が話題である。ただ,これは紙の本を従来の物流システムにのせて販売することには変わりがない。これに対し「コンテンツのビット化」によるオンライン出版は,在庫切れがなく瞬時に配送が可能となる。革新的なだけに,出版社にとっても従来のワークフローの延長ではとらえられない。
 ①と②は従来「電子出版」と呼ばれてきたが,いまいちばんホットな話題で見直す必要がある。制作システムの変化の延長上に,オンデマンド印刷によるオンデマンド出版を加える必要がある。それと同時にコンテンツのビット化も行われている。

 さらに読者の要求に応じた本作りという視点に立てば,ユーザードリブン,つまり編集主体が編集者やデザイナーを含めた出版社から,読者へと変化したことになる。本作りの変化としては,すべてを包含する最先端のスタイルである。
 またメディアの変化としては,コンテンツ表示装置という意味合いが新たに加わり,紙からディスプレイ,さらに高精細液晶による「電子読書端末」を含むことができる。

ネットワークによる出版流通の変化

 人間は自分の意思を表現し,他者とコミュニケーションを図ることを望んでいる。言語のみでは自分の声の届く範囲に過ぎないのに対し,紙に記録されることで時間と空間的な制約が解かれ,より多くの人々に意思を伝達することが可能となった。印刷技術によりその量が飛躍的に増大し,版元として本の制作を請け負う出版社,さらに近代流通システムとして取次業や書店が生まれた。
 従来の出版流通は,紙の本を媒介とした著者から読者への意思伝達システムであり,さらにそれに見合う対価の回収システムと言える。いわゆる正常ルートと呼ばれる,著者から出版社,取次,書店を通して読者までの流れが,ネットワークインフラの登場によって,どのように変化を遂げていくかを図4に示した。


図4 出版社から読者までの流通インフラの変化

 オンライン受発注は,紙の本(アトム)を従来の物流で取り扱っている。デジタル出版(ビット)はデジタルコンテンツの配信であり,電子図書館はそのコンテンツのアーカイブであり,「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)などの例がある。
 さらに一歩進んで,オンライン出版社の登場が予想される。これはネットワーク上のみに存在するバーチャルな出版社で,デジタルコンテンツを配信する個人作家たちの作品を取り扱うことになる。オンライン取次はさらに課金などの仕組みを備えることになり,現時点ではショッピングモールなどが,これに近い。

本のデジタル化の流れは止まらない

 歴史的に見れば,本の形態,つまりコンテンツパッケージは変化し続けており,変化のつど新たな可能性を提供してきた。
 イヴァン・イリイチは『テクストのぶどう畑で』(法政大学出版局,’95年)の中で,「古典的な印刷文化は,とどのつまり,束の間の現象だったのである」と述べている。中世において読書は修道院における祈りであり,声を出して読む「肉体全体で携わる活動」であった。「巻物」として登場した彼らの書物には目次も索引もない。祈りである以上,拾い読み,飛ばし読みがあるわけもなく,ただひたすらに,はじめからおしまいに向かっていくのである。
 12世紀半ばに,読書が劇的に変化する。照合順番の発明が,索引を生み,冊子体としてのページ概念が見出しや目次に意味を見いだす。学問としての読書,「検索できる書物」の登場であり,その後百科事典の完成に向かっていく。
 「祈りとしての読書」が今日の小説への系譜だとすると,「検索できる書物」はCD-ROMマルチメディア百科へと受け継がれている。このようなテキストの形態は,必要と発明に応じて容易に変化してきたのである。ニコラス・デグロポンテが『BEING DIGITAL』で指摘したように,アトムからビットへという流れが必然ならば,デジタルテキストやデジタルツールの登場も必然である。

 現時点では,2つの系統のうち後者が,検索性を有するCD-ROMなどのマルチメディアタイトルで成功を収めてきた。一方,ここにきて前者の読書のためのデジタルツールが急速に注目されてきた。エキスパンドブックやT-Time,さらに高解像度の液晶を用いた電子読書端末である。

日本と欧米の電子読書端末

 昨年,国内外で相次いで電子読書端末の計画が発表された。見開き型の携帯電子読書端末のカラー写真が,昨年7月3日付朝日新聞の第1面を飾ったのを覚えている方も多いだろう。出版社が本の中身(コンテンツ)を送信センターに集め,そこから衛星通信を使って書店やコンビニエンスストアにおかれた「電子書籍自動販売機」に送る。読者はMDにダウンロードし,読書専用端末で読む。
 日本では,「電子書籍コンソーシアム」が設立され,2000年3月までの期間に,通産省の8億円の補助金を受けて実証実験を行うこととなった。出版社,取次,書店をはじめメーカー,印刷会社,コンビニチェーンなど,130社を超える会員会社が参加している。今後,従来の出版社から取次を経て書店に流れる流通形態とは全く異なる,新たなるインフラを作り上げることと,液晶表示装置が紙の可読性にどこまで近づくかが,開発の鍵となっていく。 出版社主導のプロジェクトと言われているが,すでにシャープの手により,180dpi液晶による読書端末装置の開発が進められている。今後,ハードの開発都合による仕様変更も予想される。いずれにせよ,実験することでしか得られない成果の公表を期待したい。 一方,米国では昨年の夏,いくつかの電子書籍の発表があった。そのうち,3つほど紹介する。 先行しているのは,米国最大の書店チェーンであるバーンズ&ノーブル資本のヌーボメディア社「ロケットイーブック(eBook)」である。すでに端末の発売が開始され,インターネットで入手することも可能である。端末の価格はランダムハウス辞典などが付いて500ドル。 また,電子書籍データはロケットエディションと呼ばれ,販売はオンライン書店バーンズ&ノーブルコムが担当している。現在200タイトルほどで,価格は書籍なみである。データは暗号化されている。インターネットにつながったパソコンから専用ケーブルでダウンロードし,105dpiの液晶画面で読む。A5 判の少々厚みのある本くらいのサイズで,日本人が片手で読むには限界だろうか。 「ソフトブック」はこれより大きくA4版。内蔵モデムで電話線によりインターネットアクセスしてダウンロードする。端末の価格は299ドルであるが,アクセス料金が毎月19.95ドル必要で,著作権使用料はまた別である。 これと異なったコンセプトを持つのが「エブリブック」である。ソフトブックより,さらにひと回り以上大きく,450dpiカラー液晶2枚組である。プロフェッショナル版で1500ドルを予定していることから,研究者のための専門書読書端末を目指しているようである。あるいは,図書館での端末といった利用も考えられるかもしれない。データのファイル形式はPDFであることから,AcrobatReaderの専用ビューアーと言ってよい。 エブリブックのWebサイトでは3社の比較がある。

電子読書端末は何を目指すのか

 こうした米国の電子書籍にとって重要な発表が,昨年10月8日に行われた。NIST(米国商務省標準技術局)のもと,電子書籍データの標準化プロジェクト「オープンイーブック」が,マイクロソフト社を中心に開始されたのである。ヌーボメディア社,ソフトブック社が加わった3社で,現在仕様の策定中である。全米最大の取次ベルテルスマンや,ハーパーコリンズ,ペンギンパットナムなどの出版社,メーカーとしては,アドビシステムズ社や日本からシャープ,日立をはじめ多数が参加している。まさに標準化に向かって大同団結した感がある。
 オープンイーブックのWebサイト(http://www.openebook.org/)からは米国のさまざまなプロジェクトの動向がうかがえる。
 いまのところ,日本の電子書籍コンソーシアムとの連携は伝わってこないが,ビデオフォーマットやDVDのような巨額の利益を争う場ではないだけに,何らかの国際的な標準化を図る必要がある。

 米国と日本の電子書籍を比較してみると,米国各社は,現在通用する技術で,いち早い実現を図っている。データ配信もインターネットや電話回線を使っている。データは1バイト文字圏だけに暗号化しているとは言え,テキストデータが基本である。プロジェクトとしては各社各様のコンセプトで競い合っている。
 これに対し日本では,漢字とルビが読めることを目標とした液晶の開発が重要なテーマとなっている。データは現在5000タイトルを画像スキャンで準備中ということから,当面,画像データが主体のようである。さらに,独自の流通インフラを築こうとしている。
 画面のサイズから推し量ると,適切な版面情報量としては,紙で言えば文庫本である。また,画像データを優先した開発から察するに,キラーアプリとしてマンガに期待をかけているのではないだろうか。開発費のかけ方を考えても,マスマーケット志向であることは疑いもない。
 ウォークマンやMDのように,電子書籍ブームが起こり,巨大市場が立ち上がる期待を否定はしない。それこそ出版と印刷を巻き込む大地殻変動となろう。が,またしても,という思いもする。電子書籍コンソーシアムのメンバーの努力には敬意を表したい。ただ,せっかくの未来の本に対し,マスマーケットでしか夢見ることができないとしたら,寂しい限りである。
 形の見えないうちに,これ以上コメントするのはひかえるべきであろう。いまは,エブリブックのような専門マーケットに向けた端末開発も,実証実験を通して検討課題に上がってくればと願う。

☆ ★ ☆

 電子書籍コンソーシアムでは,この実証実験を「ブックオンデマンド実証実験」と称している。これは,本稿で使っているオンデマンド出版とは分けて考える必要がある。少部数出版と流通革命の点からは,オンデマンド出版の動向とオンデマンド印刷の果たす役割こそ注目すべきである。(後編へつづく)。

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